第156話 ホームレス、ゲームの攻略法を思い返す
ザルツ公国が降伏したことで、ついに大ヴォルフスブルク帝国はグレア帝国と国境を接した。
事実上の冷戦構造にある国家同士が国境を接したことで、より水面下での対立が深くなるはずだ。
このままではどうなるかわからない。いつ、どんなことがトリガーとなって戦争が起きるかわからないのだ。
ここまで来ると、ゲーム的にも歴史イベントはほとんど起こらない。未知の局面になりやすい。
ゲーム知識が使えなくなるということは、あとは俺の歴史知識だけが頼りだ。
そもそも、無理ゲーとされているヴォルフスブルクプレイで、大ヴォルフスブルク帝国が建国できるところまで来ること自体、かなりの難易度だった。
海外有志が作った攻略サイトでも、列強とことごとく仲が悪いヴォルフスブルクプレイは特に難易度が高い。まず、序盤で滅びやすいのだ。他の周辺領邦は、列強のいずれかの国と同盟や安全保障を結んでいるから、それを活かせば比較的に楽にプレイできる。
そもそも、ヴォルフスブルク地方が複雑に利害が絡まった火薬庫だ。本来であれば、ヴォルフスブルクは周辺領邦の弱小国家を併合し、力をつけるのが定跡のはずだ。だが、このバルカン半島も真っ青な火薬庫設定のために周辺弱小国に対する宣戦布告は、列強の介入を招くことになる。
なので、ヴォルフスブルクプレイの最善手は、ローザンブルクへの宣戦布告だ。
周辺列強のうち、マッシリアとグレアは同盟を結んでいるので、そちらに挑んでも勝てるわけがない。
だからこそ、かなり消極的な意味合いでローザンブルクと一騎討ちすることになる。
そして、その際の勝率はどんなにベテランのプレイヤーがやっても20%くらいだ。
国境線付近の要塞線を利用して、運よく敵の有力将兵を討死させた場合だけ勝ち筋が残る。
こちらに、ゲームにはない妖精の加護というイレギュラー要因があったからこそ生き残れたに過ぎない。
そして、大ヴォルフスブルク帝国が誕生してからが本当のゲームの始まりだ。
大ヴォルフスブルク帝国がグレア帝国とほぼ同等の国力を持つとしても、人材の宝庫であるグレアには質と量の面で劣る。
さらに、グレアは大陸における国力3位のマッシリアを味方につけている。
1位・3位連合と2位が単独で勝負するのはかなり厳しい。
だからこそ、なんらかの手段で1位と3位を分断しなくてはいけない。そうするためには、なにかしらの謀略が必要になってくる。
「機関が必要だな」
冷戦期において最も重要なことは情報戦だ。
アメリカならCIA、ソ連ならKGBが冷戦期において果たした役割は大きい。いくつもの国家のクーデターを助けたと噂されているし、他国の世論操作も行われたと聞く。
すでに、グレアはあの女スパイのように情報機関を巧みに使っているだろう。
こちらもそれに乗り遅れてはいけない。
戦略・情報・教育・生産。すべての分野で戦う総力戦の時代が間近に迫ってきているのを感じる。
もう、時計の針は元には戻らない。




