第154話 戦後処理
歴史書は語る。
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大ヴォルフスブルク帝国の誕生によって、孤立を深めたザルツ公国はついに戦争を始めた。
グレア帝国の後方支援と義勇軍を獲得したザルツ公国首脳部は、大ヴォルフスブルク帝国統合が完全に完成する前に、奇襲を仕掛けたのだ。
このザルツ公国戦争は、わずか1か月で終戦した。
当初、ザルツ公国の奇襲によって混乱した大ヴォルフスブルク帝国南方方面軍は、敗北を重ねた。新たに創設されたザルツ公国の航空魔導士隊とビルト将軍率いるグレア帝国義勇軍の働きは圧倒的であり準備が整う前の国境での初戦を落として、帝国内陸部まで撤退を重ねたのだ。
しかし、ここでも大ヴォルフスブルク帝国の守護者とされるクニカズ・ヤマダ将軍が立ちはだかった。
航空魔導士の発案者にして史上最高の研究者と呼ばれる彼は、すぐさま戦線が崩壊しつつあった南方方面軍の増援に向かい戦線を修復すると、制空権を確保した。
圧倒的な技術力差と戦略によって、大ヴォルフスブルク帝国領内にいたザルツ公国の主力軍は壊滅し、総戦力の半分近くを失うことになる。
このクニカズ将軍の圧倒的な技術力で制空権を支配する戦略は、のちに"航空支配"ドクトリンと呼ばれて今日の軍事学上における重要な概念になっている。
しかし、クニカズ将軍は、ここでさらにもう一つの戦略を生み出すのだった。
それが、"電撃戦"だ。
この作戦は3つの段階に分かれている。
①騎兵や航空魔導士の機動力を生かして、敵の前線を突破する。
②突破した機動部隊は、敵の司令部や補給路を攻撃し敵の後方を脅かす。
③後方の安全確保のために撤退してきた敵を、味方と挟み撃ちにして殲滅する。
この作戦の教科書になっているのが、このザルツ公国戦争だ。
クニカズ将軍はこの作戦を用いて、ザルツ公国の守備隊とグレア帝国義勇軍を包囲殲滅し、完全にザルツ公国の抵抗力を奪い去った。
そして、そのままザルツ公国首都・ルクスを無血開城させて、ザルツ公国をそのまま併合した。この併合によって、大ヴォルフスブルク帝国は旧・神聖ヴォルフスブルク帝国の領土をほとんど継承した大国になった。
ザルツ公国首脳部は、そのままグレア帝国に亡命し、ザルツ公国亡命政府の発足を宣言し、大ヴォルフスブルク帝国とグレア帝国は対立を深めていく。




