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第145話 エース対エース

 そして、俺たちは空中を高速で移動する。

 お互いに有利になる敵の後方を奪い合うための戦いだ。


 前世の空中戦なら後方に攻撃できる手段がほとんどなかった。魔力を使っての航空戦であれば、スピードを犠牲にして、無理な体勢から後方に攻撃することも可能だが、外れた場合のリスクが大きすぎる。お互いに並行して浮遊し、スピードを出し過ぎてもいけない。相手に合わせるのが重要だ。


 だが、それはあくまでも教科書通りの場合だけ。


 ここは常識が通用しない新しい戦場だ。そして、前世での知識を持っている俺が圧倒的に有利なのは変わらない。


 相手の意表を突くことができれば圧倒的に有利になる。


 俺は全力でスピードを上げた。


「なんだと!? 敵に背中を見せる大悪手をするのか、ブラウンウルフ……」

 向こうのエースは驚きながら困惑する。


 そして、攻撃を俺に向けて発射する。


 だが、そんなものは当たらなければどうとでもない。


 技術力の差は圧倒的だ。スピードを上げれば上げるほど、敵の攻撃をかわしやすくなる。さらに、いくら才能がある魔導士でも連続攻撃は負担が大きすぎるからな。いつかは、息切れする。


 もし、避けられない攻撃が飛んできてもダンボールの妖精が守ってくれる。


「なぜ、当たらない。どうして、そんなに早く自由に飛べるんだ!!」


 攻撃が当たらない焦りと魔力の消耗。そして、長時間飛んでいることの疲労。人間は機械ではない。肉体的な疲労と精神的な摩耗からは逃げることはできない。


 敵のエースの攻撃に乱れが生じた。


「終わりだ!!」

 俺はそれを待っていたかのように、スピードを落として後方に向けて攻撃を開始する。


 連続で射出できる下級魔力の火球を後方に向かって5発作った。


 下級魔力は普通であれば、殺傷力は低い。だが、二人は高速で移動している。そのスピードがそのまま攻撃力に変換される。さらに、背中にある魔道具に引火でもしようものなら、下級魔力でも大爆発を引き起こしかねない。


「まさか、俺は圧倒的に有利な位置につけたのに負けるのか!? これが才能の差か。それとも……」


 言い終わらないうちに、ザルツ公国のエースは火球に襲われた。力を使い果たした彼に5つもの火球を避ける余力は残されていなかった。


 クニカズの攻撃がそのまま致命傷になり、浮遊力を失ったエースはそのまま地面に落下していき、地上付近で爆発する。


 史上初めてのエース魔導士同士の空中戦はこうして終わりを告げた。


 ※


―ザルツ公国地上軍―


「まるで悪魔だ」

「なすすべもなく、こちらの航空魔導士が……」

「逃げろ、あんな奴に狙われた命がいくらあっても足りない」

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