第144話 ホームレスvs敵のエース
「皆は一時撤退しろ。このエースは俺が引き受ける」
味方はほとんど損害を受けていない。ならばこの優勢を維持するために戦力を維持するのが指揮官としての判断だった。
下手に敵のエースに関わると戦力を消耗するからな。ここは最高の戦力同士で勝負を決めた方がいい。
俺は先の両公国の反乱で、敵の航空魔導士隊を5人撃ち落としている。前世で言うところのエースの称号は貰えるはずだ。
航空支配。それが俺の航空魔導士隊における理想だ。
航空優勢ではなく航空支配。この概念は、世界最強の戦闘機であるF-22が開発された時に提唱された概念だ。圧倒的な性能を誇る戦闘機で制空権を確保する。
実際、一世代前の最強の戦闘機であるF-15に対して、F-22は訓練でキルレシオ144:1という信じられない結果を残した。F-15はF-22が作られる以前の世界最強の戦闘機であり、実戦では一度も撃破されたことがない怪物である。
簡単に言えばF-22、12機が1機も損害を出さずに、144機のF-15を撃破したと考えればいい。
航空戦の世界では技術力が圧倒的なアドバンテージになる。こちらは、他国に対して数十年レベルで技術力と運用ノウハウで圧倒的な優位性がある。負けるわけがない。それが俺の考えた理論だ。
それをこの戦闘で証明する必要がある。俺が率いる航空魔導士がいるということが、抑止力にすら働く。それが理想だ。
俺は生き残った敵兵を魔力で無効化していく。この中で俺とある程度、戦えるのは1人いるかどうかだろう。
敵を撃墜させて、ついに俺はひとりのエースと出会う。
「くそ、やってくれたな。ヴォルフスブルクのブラウンウルフ!!」
どうやら俺は茶色い狼という異名があるらしい。光栄だな。
敵の正真正銘のエースは、青い髪を持った美男子だった。味方を撃破された恨みで、激怒していた。そいつと俺はドッグファイトに移行する。
正面からの攻撃は簡単にかわされてしまう。やはり、相手は航空魔導士としての適性が強くある。この攻撃をかわして、お互いに有利な敵の後方を目指して心理戦を繰り広げた。
スピードの緩急。攻撃のフェイント。軌道の微調整。天性の才能がある者同士がお互いの裏をかき合う攻撃。高速で繰り広げられる攻防は、何手にも及ぶ。有史以来初めてのエース同士の対決は、他の者たちには恐怖すら感じさせた。
そして、決着の時は訪れる。




