第138話 ホームレスと日本食
プラムの塩漬けか。たしかに、果物の漬物は俺の世界でもよくあった。メロンとかも、農家がよく漬物にしているとテレビで見たことがあるしな。
ターニャは先ほどの話をこれ以上したくなさそうだし、俺は彼女に言われるままに酒をもらう。
「じゃあ、いただきます」
俺は一粒口に含んだ。
「あっ……」
「驚きました?」
彼女はどうだとばかりに笑う。
「驚いた。かなり梅干しに近いな」
そうプラムは梅干しのような味になっていた。もちろん梅干しと完全に同じではない。しょっぱさよりもフルーティーな酸味が強くなっている感じだ。
だが、代用品と言えるほど近い味になっていた。米が欲しくなる。
「どうですか? 市場で味見した時にすごく梅干しに近いからセンパイにあげようと思って買ってきたんです」
この妖精は、どうして梅干しの味を知っているんだ。そう言う無粋なツッコミも考えたが言わないでおいた。もちろん伝わっているのは知っている。
「すごい懐かしい味だよ。ありがとう、すごく元気出た」
「えへへ」
「もしかしたら、プラムで梅酒みたいなものも作れるかもな。ホワイトリカーはないかもしれないけど、ウィスキーやブランデーで代用可能だし。今度作ってみようかな」
「やった! 私、甘い梅酒大好きなんですよね」
妖精はやっといつもの笑顔を見せてくれた。
まてよ、梅干しが手に入ったのならあれが作れるかもしれない。そうだ、昔歴史の本で読んだことがある。醤油は日本史においてはつい最近一般的になった調味料だ。江戸時代までは醤油は一般家庭では使われることがなかったらしい。
ナターシャが今日の夕食のメインに白身魚を用意しておいてくれた。
あれに合わせるならちょうどいいな。
「センパイ、何か美味しいものを思いついたんですか?」
彼女は期待した目でこちらを見ていた。
「ああ、梅干しの代わりを見つけてくれたからさ、俺は醤油の代わりを作ろうと思ってさ」
プラムの塩漬けを一粒手に取って、俺は台所に向かった。
赤ワインとプラムの塩漬けを鍋に入れて魔力で火をつけた。
プラムの実を潰して、ワインとなじむようにしながら、焦がさないように煮詰めていく。もともとの量から半分くらいになったら完成だ。
日本の伝統調味料・煎り酒の完成だ。本来なら日本酒と梅干を煮詰めて作るものだがこれでも代用可能だろう。
この煎り酒は、醤油よりもさっぱりしていて素材の風味を生かす調味料だ。たしか、刺身や煮物に醤油代わりに入れるとうまいらしい。
これを白身魚のソテーにかければ……
夢にまで見た和風の焼き魚が完成する。




