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第137話 ホームレスとアカシックレコード

「センパイ、お疲れ様でした。今日も疲れましたね」

 俺たちは宿舎に戻る。部屋に入った瞬間、妖精が大きくなって出迎えてくれた。


「相変わらず元気だな」


「ええ、センパイに魔力を貸していますが、それも私の一部なんですよ。すべてこちらに持ってきてしまえば世界がゆがんでしまいますからね」


「なんかすごい話を聞いたぞ」


「ふふ。そうですよ。前にも話しましたが、マジックオブアイアンズの世界はクリエイターの意識がこちらの世界を垣間見たことで作られたものですからね。ここはゲーム世界のように見えて、ゲームじゃないんですよ」


「そのゲームクリエイターは、お前みたいな妖精と出会ったってことか?」


「ちょっと違いますね。センパイは、アカシックレコードって知ってますか?」


「ああ、なんかの本で読んだことがあるな。なんか世界の始まりから終わりまでが書かれている本みたいな奴だろう?」


「はい! 近代神智学の概念ですが、オカルトやスピリチュアル系の怪しい話でも使われますよね。実際、世界のすべてが書かれた本なんてありえないのはわかりますよね。そんなものを本でまとめることなんてできないじゃないですか」


「物理的な限界があるよな」


「そうです。ですから、本物のアカシックレコードっていうのは、無限に続く空間なんですよ。センパイがもといた世界でも、この世界でもない別の次元にある空間に世界すべての情報がまとまっているイメージですね」


「なんか本当に怪しい話だな」


「そして、世界は無数の選択肢によって分岐していきます。センパイがこの世界に来なかった世界。こちらの世界でローザンブルクに敗れた世界。センパイ関連の出来事すらたくさんの分岐世界が作られています」


 ターニャは真面目な顔でそう説明していた。


「どうして、こんな大事な話を今頃?」


「あまり話すつもりはなかったんですよ。でも、言いたくなってしまって」

 妖精は少しだけ悲しそうな顔をしていた。

 そんな顔は見たことがなかった。


「私は、あくまでアカシックレコードの数ある管理人の一人にすぎません、それだけは覚えておいてください」


 これで話は終わりと彼女は台所に向かった。


 この話の意図は一体何だ。自分の理解力の範疇を超えている存在の意図を精確につかむことはできなかった。


 台所から帰って来た彼女は、一つのビンを抱えていた。

 彼女はもう笑顔になっていた。


「実は先輩にプレゼントがあるんですよ」

「プレゼント?」


「この瓶に入ったプラムの塩漬けですよ。お酒のお供にしてみてください!」

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