第124話 ホームレスと憲法
「しかし、クニカズ大佐!! 憲法など作ってしまえば、王権が制限を受けますぞ。それでは、女王陛下の権威を傷つけてしまう」
我が国の宰相が猛烈に憲法案を批判した。やはり、彼が一番の壁だな。
「ええ、そうです。しかし、今後はヴォルフスブルクは巨大な大国化します。そのような怪物が王権だけで運営するには限界があります。さらに、英明な君主が常に玉座に座っているとは限らない。虐殺者がその場にいれば、超大国全体が凶器となります」
俺がそう反論すると、宰相は青筋を立てて怒り出す。
「なにを!! いくら救国の英雄と言えども、その発言は不敬に値する。いち大佐の分際で……」
だが、その場はウイリーが取り直してくれた。
「宰相良いのです。私がクニカズに頼んだのですから」
「ですが、この憲法なるものは国家の根幹を変えるものですぞ。女王陛下の一存でそれを決めるなど許されません。私がそれを許せば、亡くなった父王陛下に顔向けが……」
俺は軍人たちを見回した。ほとんどの者が、宰相に対して苦い顔をしていた。この軍部には1年以上所属しているが基本的に実力主義だ。だから、実績を作っている俺に対しては信用してくれている面がある。逆に、宰相はこの1年間以上、政府の意思決定については深く関与できなくなっている。
保守的な立場が強いため、この変化の時代に対応できなくなっているためだ。
「あなたの王族に対する忠誠はありがたく思います。しかし、もう時代は変わっているのです。宰相……憲法によって私の権限をある程度制限すれば、国際的な信用力は向上します。さらに、周辺領邦の君主たちも安心して、我々の元にはせ参じるでしょう。そうすれば、速やかにグレア帝国に匹敵する超大国を作ることができます。大局観で考えて欲しいのです」
「なりません!! 宰相が持つ行政権を行使させていただきます。そんなことは絶対に許されません。アルフレッド、お前も何か言え!」
息子のアルフレッドは苦しそうに父親の方を見た。
「父上。すでに、この憲法の公布は規定事項です」
「なにを!? 私はこの国の宰相だぞ。なぜ、私を無視して意思決定している。そのようなことを許していいわけがない!!」
宰相は机を強く叩いた。
「宰相、心変わりするつもりはありませんか?」
「ありません。私がここにサインをしなければ、この法令は成立しませんぞ。お考え直しください」
女王陛下は目を閉じて、覚悟を固めたようだ。
「では、仕方ありません。先代からのあなたの忠義を考えればこの道は取りたくはなかったのですが」
「ま、まさか」
「そのまさかです。宰相、私はあなたを罷免します」




