第123話 もう一つの超大国
―ヴォルフスブルク軍務省幹部会議―
会議進行役のアルフレッド次官が口を開いた。
「それでは、グレア帝国との一応の和議が成立した。だが、戦争の危機は終わっていない。むしろ、迫り続けることになったとみてよいだろう。今後の仮想敵は、グレア帝国になる。まずは、クニカズ作戦課長より、今後の軍事戦略について説明を願う。クニカズ、頼んだぞ」
この会議には例外的だが女王陛下まで参加している。
「わかりました」
俺は説明のために壇上に上がる。
「まずは、皆さん。我々が置かれている状況について説明させていただきます。我々は、グレア帝国との冷戦に突入しました。冷戦とは私の世界の用語です。本当の戦いは発生しないが、常に緊張感を持ちつつ軍事的にも政治的にも経済的にも対立している状況だと考えてください」
米ソ冷戦。米中冷戦。国力が匹敵し合う国家が2つ生まれた瞬間に対立は発生するのが歴史の定跡だ。
「そして、いつかは開戦すると考えておいてください」
俺たちの世界の冷戦が戦争にならなかったのは、お互いに強力な核兵器を持っていたことが理由として挙がる。戦争をはじめてしまえば、お互いに壊滅的な状況になる。その前提があったため、冷戦は熱戦にならなかった。
だが、この世界ではその抑止力がない。ならば、いつかは開戦すると考えた方がいい。
会場は苦い顔の軍人がうなっていた。
「そして、今後の戦争は変わります。さきに、ヴォルフスブルク―グレアの両国間合意によって航空魔力の魔力道具は世界中に拡散することになります。我々は今までは陸だけを考えていれば戦争ができました。しかし、ここからは戦場は平面ではなく立体になるのです。敵がいつ空からやってくるかわかりません。戦場の常識はがらりと変わります」
まずはこれを言わないといけないよな。
「では、クニカズ? 今後の対応は?」
女王陛下が聞き返す。
「まずは、陸上部隊に対空兵器の配備をしなくてはいけません。さらに、航空魔導士をさらに育成します。技術や戦略については、こちらのほうが利がありますので、そちらを維持しなくてはいけません。航空戦力が我々の生命線になるんです」
そして、俺は続けた。すべてはグレアに匹敵する国家を建国するためだ。
「そして、こちらを発表させていただきます」
資料が配られる。
「これは……」
「なんだ……」
「皆様にお配りしたものは、ヴォルフスブルク憲法の草案です。そして、この憲法の発布は、次のことを意味します」
俺は一呼吸を終えて言葉に出す。
「グレア帝国に匹敵するもうひとつの超大国、ヴォルフスブルク帝国の建国です」




