第119話 ホームレス・女王vsグレア帝国宰相
ある程度の自分たちの状況を把握した後、ウィスキー会はお開きになった。
お互いの立ち位置はあれで明確になった。
あとは向こうに委ねられる。ここで大きないくさをして、ヴォルフスブルクを叩き潰すのか……
それとも現状ではヴォルフスブルクの巨大化を見逃し将来の決戦に備えるための準備をおこなうのか。
どちらかにひとつだ。
今仕掛けるのであれば、こちらの方が軍事的に優位性を持っている。航空魔導士の練度は他の追随を許さない上に、グレア帝国自体の準備が整っていない。
最悪は物量で押し切るしかないのが向こうだ。もちろん、物量勝負ならこちらに勝算はほとんどないんだが……
だが、それ以上に向こう側に出血を強いることができる。塹壕戦術などこちらは未来の技術で武装しているんだ。
勝てなくても負けない戦い方ならできるはず。
たとえば、第一次世界大戦でフランスは生産人口をかなり失ったせいで、戦間期に大混乱が生まれた。経済は弱体化し、軍の近代化は遅れて、最終的には第二次世界大戦でドイツに惨敗するきっかけになっている。
俺がよく考えているマジノ線は若者を失い、人口ピラミッドがいびつ化したせいでマジノ線という大要塞に頼った戦略しか取れなかったともいえる。
向こう側に大ダメージを与えて、ある程度有利な条件で講和する。それが、現状で開戦した場合のベターな選択肢だ。
だから、どちらかと言えば現状での開戦は向こうは避けてくるはず。優秀であればあるほど、この予想を危惧しているはずだ。
つまり、向こうは今回の交渉でできる限りこちらの力を削ぐような無理難題を押し付けようとしてくる。現状の開戦はない。どちらがそれを言及してもブラフという共通認識を持てたはずだ。
「ふたりとも、高度な会話すぎてどんな含みを持たせているのか全然わからなかったです」
リーニャは悔しそうにつぶやく。
「大丈夫だ。俺もかなりギリギリだった。いくつも想定していたのに、その想定にあの宰相は思い付きでついて来やがる。ホンモノの怪物だよ、ありゃ……」
「意外ですね。クニカズ大佐は何でも知っているのかと」
「ふたりきりの時は大佐はいらない。同期だろ?」
「じゃあ、クニカズはこの後どうなると思うの?」
「おそらく、この場での開戦は双方が避けるはずだ。そして、俺たちの力をそぐような提案をごり押ししてくるはず。それが、女王陛下たちと予想した向こうの対応だよ」
「なら……」
「ああ、明日からは交渉のテーブルが戦場になる」




