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第118話 ホームレスと政治家

 宰相は俺の言葉にわずかな時間、逡巡(しゅんじゅん)するかのように言葉を飲み込んだ。

 その数分間は、ある意味では世界を変えてしまうほどの沈黙の時間だった。

 そして、俺は彼が正解にたどり着くと過信していた。


 グレア帝国の名産品である高級ウィスキーを一口飲みこむと彼は目を閉じて、こちらの問題に答えた。


「なるほど、キミはこの国際秩序の破壊者になるつもりだな。一見はこの現状の体制を維持しているように見えて……」


「……」

 俺は核心を突かれて黙秘した。


「キミの考えはある意味では、国際秩序の現状維持をかかげているように見える。ヴォルフスブルクは古くから周辺諸国にとっては忌み嫌われるものだった。国力の潜在能力が高すぎるからだ。だからこそ、周辺諸国・領邦は団結して包囲網を敷いた。大陸において、ヴォルフスブルクは孤立した悪魔なんだよ」


「私は矛盾しているように見えますが、その秩序を少しだけ変えるだけで大陸に平和な時代を作り出せると考えております。ヴォルフスブルク対周辺諸国という構図は変えずにです」


()まんだね。たしかに、その構図は変わらない。だが、中身はまるで別物だ。外見上は変わっていなくも、周辺諸国を取り込み、新しい覇権国家が誕生していることだ。その覇権国家の圧倒的な力によって周辺諸国はまとまることを強いられる」


「……」

 やはり、核心をついてきたか。そう今までの状況は簡単だ。ヴォルフスブルクにヘイトを集めて、周辺諸国は団結する。そして、ガス抜き程度にヴォルフスブルクと小競り合いを起こさせて、秩序を維持する。これが現状の国際秩序だ。


 ただ、これはいつか破滅する。ヴォルフスブルクがしびれを切らして、戦争を起こし崩壊すれば簡単に周辺諸国の団結の意味はなくなる。そうすれば、次の標的は間違いなくグレアになるはずだ。だから、グレアはこの状況をできる限り続けなくてはいけない。


 さらに、グレア産の武器を同盟諸国に売ることで大きな利益をもたらしていたはずだ。ヴォルフスブルクの周辺領邦を事実上の壁にすることで発展を享受していた。


 つまり、この状況を作り出して最も利益を上げていたのはグレア帝国なんだ。

 だが、ヴォルフスブルクが巨大化し周辺諸国を飲みんだ場合……


 今までの武器売買の利益はなくなり、直接的な脅威を感じることになるからだ。


 だからこそ、ヴォルフスブルクの巨大化はグレア帝国にとっては最悪の状況になる。だからこそ、宰相自ら乗り込んできたんだ。


「キミたちの計画を進めるならばやはりどこかで戦わねばならないようだね?」

 怪物(宰相)は不敵に笑った。

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