第114話 最大の敵
王宮では、急に来訪した大物の対応に追われていた。
すでに政府首脳部は、対応を協議しており、オブザーバーとして俺が呼ばれた形だ。
「女王陛下!! クニカズ大佐がいらっしゃいました」
会議室の前で俺はいったん立ち止まってから中に入る。すでに、次官級以上の政府首脳部があつまっていた。もちろん、アルフレッドもいる。
「よく来てくれました。クニカズ、早速あなたの意見を教えてください。なぜこのタイミングで実質的なグレア帝国の指導者である宰相・ルパート=オーラリア辺境伯が突然来訪したのか」
俺が本来受け答えすら許されない場ではあるが、対グレア帝国戦略のほとんどは俺が担っているためここでしっかりと回答しなくてはいけないよな。
「グレア帝国宰相の突然の来訪ですが……おそらく、我らが進めている大ヴォルフスブルクの復活を妨害するつもりでしょう。すでに、港湾施設にスパイを侵入させるなど、秘密裏にこちらへの妨害工作をしかけていたはずですから。宰相の来訪は何日後になる予定ですか?」
「すでに、我が領内に入っているようだ。王都までは数日でやってくるだろう」
俺の質問にアルフレッドは困ったような顔で答える。両手を上げて、お手上げ状態だ。
「ならば、早期にこちらの準備を整えねばなりません。向こうの要求はきっとこうです。大ヴォルフスブルクの復活は許さない。よって、周辺領邦への圧力はおこなわないようにすること。そして、こちらが併合しようとしているシュバルツ-ボルミア両公国の独立を維持すること……」
「それでは、こちらがせっかく勝利した戦争の意味がなくなってしまうぞ。そのような要求は認められない!!」
大臣が叫ぶ。
ああそうだろう。まるで三国干渉だ。日清戦争の勝利で日本が獲得した遼東半島の支配権を、フランス・ドイツ・ロシアの圧略で返還を強要された事件だ。
それと酷似している。
「クニカズ。もし要求を断ればどうなると予測しますか?」
女王陛下は、混乱する面々を冷ややかに見ながらしっかりとした口調で問いかける。
「おそらく、軍事衝突でしょう。向こうは、グレアとマッシリアの軍事同盟を盾にしたこちらへの圧力です」
「軍務省作戦課長のあなたに聞きます。仮に、両国との戦争が勃発した場合の戦況予想は?」
ここはしっかり答えなくてはいけない。
日米開戦の前に山本五十六連合艦隊司令長官は、近衛文麿総理大臣から同様の質問をされて「ぜひやれと言われれば半年や1年の間は暴れてご覧にいれるが、2年、3年となればまったく確信は持てない」と答えた。
結果は彼の予測通りに進行し、真珠湾攻撃から連戦連勝を積み重ねた日本軍だったが、ミッドウェー海戦の大敗を契機に本土決戦一歩手前まで追い込まれた。
「負けるでしょう。まだ、航空戦力の増強は中途半端ですし、敵の数は圧倒的です。局地的な勝利は可能かもしれませんが、いつかは大敗します」
「……では、敵の要求を受け入れろと?」
「私に腹案があります」
俺は力強く答えた。




