第109話 ホームレス、大佐になるってよ
『またまた、クニカズ中佐が大活躍!!』
『わずか20名の少数精鋭部隊が、敵国の防衛ラインを破壊!?』
『まさに、救国の英雄……』
『軍事の天才、現る』
『両公国は降伏。事実上の属国化に成功』
『グレア帝国、マッシリア王国に次ぐ国力を持った大国の誕生』
ヴォルフスブルクのメディアは勝利に歓喜していた。今まで弱小国家だった自国が、戦争に勝利を重ねているわけだ。熱狂しない方が無理ってもんだが……
だが、この熱狂はある意味では諸刃の剣だ。民衆の熱狂は、時に政府の判断を誤らせることに繋がりかねない。
日比谷焼き討ち事件なんかがそうだ。
日露戦争で国力の限界に達した日本は、ポーツマス条約でロシアと和平の道を選んだが、講和内容に不服の群衆が暴動を起こしたのだ。
新聞を中心としたメディアや政治家たちは戦争での華々しい勝利を宣伝していたがために、賠償金なしの講和は認められなかったのだ。それも、厳しい日本の懐事情は国家機密で敵国に利益を与える可能性もあったので公表できなかったこともマイナスに影響した。
この暴動において対応を誤っていれば、日露戦争が継続されて、戦争に勝つよりも先に経済が崩壊していた可能性すらある。
これは政治における難問のひとつだ。
だが、今回は完全な勝利で作戦目的は達成された。あまり自虐的になるのもよくないだろう。
俺は作戦の成功によって、大佐まで昇進することになる。
大佐は、連隊長や艦長を務めることができるくらい偉い。陸上部隊なら連隊(数千人)の部下を持つことになる。
軍事参議官室長から軍務省作戦課長にキャリアアップだ。
今までは女王陛下の直属ということで、ある意味では超法規的措置で作戦の立案に携わっていたが……これで実質的な責任者として、大手を振って作戦立案が可能になる。
これでより航空魔導士がより効率的に動けるような立案が可能になる。クリスタも中佐として一緒に昇進させてもらったから、補給関係の近代化もどんどん進むはずだ。彼には、作戦課長補佐兼兵站班長を任せる。あとは、リーニャも呼び寄せるつもりだ。大学の同期を集めて、一気に軍の近代化を成し遂げる原動力にする。
順調すぎるな。
「(ずいぶんと上機嫌ですね、センパイ?)」
「ああ……ここまで来たからな」
「(なら今日は私とも祝杯をあげてくださいよ。今回は料理頑張っちゃいますよ!)」
「楽しみにしているよ」
久しぶりの王都の部屋での休日を楽しみにしながら、俺は夕焼けの空を眺めていた。




