第108話 ホームレスさらに昇進する
こうして、ヴォルフスブルクはさらに領土を広げた。ヴォルフスブルクの周辺領邦のなかでも特に強かったボルミア公国・シュバルツ公国を事実上併合した。これによって、国力はより強大となった。
もともとヴォルフスブルクと周辺領邦は、ひとつの国家だった。だが、巨大すぎる国力を警戒した周辺諸国の介入を招き、今のような状態になってしまったらしい。
だからこそ、ヴォルフスブルクは常に警戒されて、包囲網が敷かれていたのだ。ローザンブルク帝国を撃破したとことで、そのくびきは解き放たれて大国化の流れは止まらなくなっている。
周辺領邦の内でも特に強力な公国が軍門に下ったことで、それよりも小国はこちらになびきつつある。
「お疲れ様でした、クニカズ。あなたのおかげで今回も大きな成果を獲得できましたね」
「さすがは、クニカズだ。まさか、20人で第二防衛線を無力化するとは思わなかった」
すべてが終わった後、ウイリーとアルフレッド、俺の3人は祝杯をあげていた。
グレタ産のシングルモルトウィスキーを3人でゆっくりと飲んでいく。
「ああ、ふたりとも俺たちの計画は順調だ。ほとんどの周辺領邦はこちらに従順になるだろう。大ヴォルフスブルクのほうの計画案で地域の統一が可能になる。そうすれば、単純な国力ならば、グレア帝国すら上回る超大国が誕生する」
そう、これが俺の計画だ。
かつて存在していた大国の復活だ。それも、ヴォルフスブルク王国を中心とした超大国を建国し、新しい国際秩序を作り上げる。
超大国の存在は、諸刃の剣だが……
うまく使えば、世界に大きな安定をもたらす。
大国がいくら束なっても勝負できないほどの国力を持った国があれば、世界は基本的に平和になる。
超大国、例えば19世紀の大英帝国やソ連崩壊後のアメリカ合衆国のようなものだ。
他の追随を許さない国力を持った超大国が存在すれば、破滅的な戦争は発生しにくくなる。
そして、訪れるのは安定的な平和の時代だ。最も超大国に匹敵する国家が生まれた場合は、その平和はもろくも崩壊するわけだが……
俺たちが目指すのは、ヴォルフスブルクが超大国となり、この世界に数十年もしくは数百年間の平和をもたらすことだ。
これなら歴史的に考えても実現可能な現実的な選択肢だ。永遠の平和というものは理想だが、残念ながら実現できる保証はない。国際連盟・軍縮・集団的安全保障……人類は理想を叶えるためにいくつもの価値観を作ったが、戦争撲滅は達成できなかった。
だからこそ、俺たちは現実的な平和の実現を目指す。
ロウソクの灯りに、ウィスキーは美しく輝いている。甘くまろやかな酒を楽しみながら、俺たち3人は今回の勝利を祝った。




