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アフターストーリー:据え膳食わぬは……

「……ううん……」


「…………………」




 オレの名は藤堂(とうどう) 秋臣(あきおみ)。以前、何気に人類初なんじゃねえかと思われる、『バックトゥザフューチャー』よろしく過去にタイムスリップした、あの薄幸の青年がオレだ。何だかよく分からんが、一応物語が終わって悠々自適に堕落した日々を送っていた所、どっかのバカに『ネタが降りてきたから出て来い』と拉致られ、今こうしている。


「……あふぅ……」


「…………………」


 えっと、現状を説明しよう。取りあえず、ここはオレの部屋。そして目の前には、必要以上に色っぽい寝息を立てながら熟睡している女の子が一人。

 彼女の名前は君枝(きみえだ) 可憐(かれん)。オレと同じ大学に通う同じゼミの女の子だ。『名は体を表す』を地で行くまさに可憐な美少女で通っていて、大学内でも狙ってるヤツは多いという。しかも奇蹟な事に、現在彼氏はいないらしい。かく言うオレも狙っていたりする訳だが……何故そんな万年愛欠乏症のオレに、このような幸運(?)が舞い降りているのかというと………






 ―――話は30分ほど前に遡る。


 ゼミ合宿の最終日、打ち上げ飲み会へと雪崩れ込んでそのまま二次会・三次会と店を渡り歩き、そろそろお開きになろうかと言う頃。何やら妙に酔っ払った可憐ちゃんは、『終電無くなったから帰れない』と言ってきた。その頃には皆持ち合わせもなく、三割増しのタクシーで帰ろうにも誰も金を貸してやれない。そもそもこんなに酔っ払ってタクシーに乗ってしまえば、追加料金を払わなければならなくなるであろう事は目に見えている。

 そんな訳で、残っているメンツでは一番家が近いオレが泊めてやるという事がなし崩し的に決定されてしまったのである。勿論オレとしては願ったり叶ったり。この時間ならオフクロは寝てるし、オヤジは出張でいない。外見では死ぬ気で平静を取り繕いながらも、心の中では「フィィィィィッシュ!!!」と叫びながら桃源郷を300km/hでアルティミットドライヴィングしていた。

 ……しかし可憐ちゃんはそんなオレに


「あきおみきゅんはやさひーから、らいじょーふらよねっ☆(『秋臣くんは優しいから、大丈夫だよね』と言っている)」


 と、蕩けるような極上の笑顔&萌え度激烈アップの呂律が回らない口調&ほんのり染まった頬が色気度リミットブレイクのトリプルパンチで、マジ何かの呪詛かと思うほどの一撃をぶちかましてきたのである。これでは後が怖くて迂闊な事は出来ない。………あ、いや、最初から迂闊も何もないのだが。勿論何もしませんよ? オレは紳士だからな。あっはっはっは(号泣)。


 で、予想以上に酔っ払っていて殆ど歩けない可憐ちゃんを引きずるようにして家に連れて帰ったのだが……当然オレは女の子の介抱なんて出来ないから、仕方なしに寝ていたオフクロを起こして手を借りる事に。……だが、今思えばこれが間違いだった。

 オフクロは手早く処置(酔い止めの薬を飲ませ、パジャマに着替えさせ、メイクを落とす)を済ませ、さっさと部屋を出て行ったのだが……出て行く直前に、耳を疑う一言を残す。




「秋臣。ちゃんと付けなさいよ?」




 ……死んでしまえクソババア。過去に戻った事をマジで後悔した瞬間だった―――






 と、まあこのような紆余曲折を経て現在に至る訳だが……この状況はホントにどうしたものか。目の前にはオレのベッドで無防備に寝ている可憐ちゃんがいる。オレも日々可愛いなぁと思っていて、最近ようやく少しは喋れるようになったばかりの間柄。ここでのマイナスポイントは非常に痛い。今までの苦労が水泡と帰してしまう事は自明の理だ。

 ……だが……


「……あ……はぁん……」


「……………………」


 ……何つーかさ。ここまで来ると、『実は寝てなくて、オレの事誘ってんじゃね?』とまで自分勝手な妄想を膨らましてしまう訳よ。や、男は大体皆そんなもんだって。これって世に言う『据え膳食わねば男の恥』ってヤツか? これは据え膳か? 据え膳なのか? 据え膳とみなしてしまっていいのか!? どーなんだ!? 誰か答えてくれ!! ぎぶみーあんさー!!


 ……いかん。興奮してくると頭の中がカオスってしまう……。誰かに聞いた所で答えてくれる親切な存在はいねえし。オレの中の悪魔っ子な部分だけが『うけけけ! もったいねえぞ? このチャンスを逃したら一生彼女も出来ずに淋しい人生を送る事になるんだぞ? それでもいいんか? ええのんか? 人肌はあったかいぞ~!』などと心が折れそうになる非常に不親切極まりない囁きを繰り返している。もう頭の中はごちゃごちゃでエントロピーは極限まで増大していた。……この見えそで見えない絶妙なチラリズムはオフクロプロデュースか……。何考えてんだ、あのババア……。


「……よし、こんな時は筋トレだ!!」


 唐突に立ち上がる。何故にこの状況で筋トレなのか自分でもさっぱり意味が分からなかったが、取りあえず動いて気を紛らわせないとどうにもならない。

 そんな訳で、どこぞのビリーさんよろしく、真夜中に筋トレを開始するチキンな紳士。まずはスクワット100回だ!! ワンモアセッ!!






「……ふみゅう……」


「……………………」


 失敗した。やっぱり筋トレなんかやらなきゃよかった。

 やり始めはまだよかった。順調に筋トレメニューをこなしていったオレだが、暫くして異変が起きた。それは腕立て伏せをやっていた時の事。想像力逞しい人なら分かると思うが……いや……まあ、その……何つーか……腕立ての動きが……“行為”を想起させてしまって……。

 オレは前屈みで部屋の隅へ移動し、膝を抱える。……情けねえ。何か惨めになって来た……。


「……ううん……」


 可憐ちゃんが寝返りを打ってこちらを向く。そうなると当然、寝顔がバッチリ見えてしまう訳で。


「…………………………………………」


 ……こ、これはやべえ……。マジ可愛すぎる……。や、勿論起きている時も可愛いんだけど、寝顔は寝顔で何処の天使が寝ているのかと思うほど。しかもこの寝顔をオレだけが独占していると思うと、尚更………。


「…………………………………………………」


 ……あれ? 何かオレ、知らない内に可憐ちゃんに近寄ってる? このまま進むとあと数十cmで顔が触れ合う。ちょっと待て、オレ。だから彼女には何もしないって決めただろうが。今の関係が水の泡になってもいいのか? よくねえだろ? じゃあ離れろよ、オレ。


「…………………………………………………………」


 ……あ、何かダメっぽい。身体が全く言う事聞かねえ。オレの視界には、彼女のひたすら柔らかそうな唇しか映ってない。


「…………………………………………………………………」


 ここまで来たら行っちまうか? でも流石に何か理由が必要だな……。う~ん……あ、そうか。宿泊費って事にすりゃあいいんじゃん。頭いいな、オレ。キスの一つや二つで一晩泊めてあげるんだ。感謝されこそすれ、怒られる道理はないはずだ。

 ……我ながらすンげー暴論なのは分かっているが、こうでも思わないと正当化出来ない。いや、この場合行動の正当化って言うより、免罪符を得ているって表現の方が正しいだろう。まあこの際どうでもいいや。形の整った品のいい唇が既に眼前に迫っている。もう色々と遅い。


 それでは、全ての命に感謝して、いただきます。鷹のアニキ! オレはこれから貴方に一歩近づきますっ!! 見守っていてくださいねっ!!


 正に唇同士が触れ合おうとしている、その刹那―――






「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーーーーーーン♪」






 ドンガラガッシャーン!! と、天地がひっくり返ったかのような衝撃とともに、それはそれは盛大に窓ガラスが蹴破られる。オレは神速で可憐ちゃんから身を離す。……この窓って確か、ワイヤー入りの強化ガラスだったよね……? しかもこの部屋2階だよね……? こんな常識さえも通じない人外甚だしいマネをするのはオレの知り合いの中で一人しかいない。


 そう。ピンクの髪を翻す、自称『時を司る神様』。オレにとっては疫病神以外の何者でもない存在、『エミット』その人である。……つーか全く呼んだ覚えはありませんが。何処の大魔王デスカ?


「ちょ……」


 オレがエミットに何かを言おうとした瞬間……




「ちょっと!! 今の物凄い音は何!? どんなプレイをしてんのアンタたち!?」


 


 バーンと入り口ドアが開いて、オフクロが部屋に様子を見に来た。……来るのが早すぎませんか、お母様? それにプレイて……。あんた間違いなく隣の部屋で聞き耳立ててただろう。

 オフクロはオレの部屋の真ん中に仁王立ちしているエミットの姿を認めると、何故か訳知り顔で不敵に微笑む。


「ふっ……秋臣。アンタもなかなかやるわね。グッジョブ。まあせいぜい頑張りなさい」


 親指を立てて部屋を出て行くオフクロ。……親、特に母親としてその発言は如何なものなのか。どーでもいいが、これ見よがしにマムシドリンクを置いていくのはやめて欲しい。

 取り敢えず何か色々邪魔されて色々壊されて、非常に複雑な心境だった為、マムシドリンクを破壊された窓から「こんちくしょーーーーー!!」とブン投げた。140km/hでかっ飛んでいく茶色の瓶。隣の家の窓ガラスを突き破ったのはご愛嬌だろう。その程度ではオレの胸の内は静まらん。


「……で、そこな貴様は何しに来たんだ? 随分とど派手なご登場だったが」


 オレはこれでもかってほどのケンカ腰で自称神様を問い詰める。もう事と次第によっちゃあ例え神様であろうと何だろうと容赦しねえ。……が、その腰はすぐに折られる事となる。


「だって……秋臣くんの様子を見てたら、何か面白そうな事になってたんだもん。耐え切れずに乱入しちゃいました。てへっ♪」


 …………『壁に耳あり障子に目あり』とはまさにこの事か。比喩でも誇張でも何でもなくマジで目と耳が付いてやがった。……未遂で済んでよかったかもしれない。それにしても、オレのプライバシーは何処へ行った?

 可憐ちゃんを見つめる。いくら酔っ払っていたとはいえ、このカオティックな状況でも全く起きる気配もなく完全に熟睡している。……意外と図太いのかもな、この子。


「何でいちいちオレの事なんか監視すんだよ、お前……」


「えっ……? え、えっと………それは……………」


「ああ、そうか。そういう事か。もしかしてお前…………」


「………はあ、仕方ない。白状しましょう。実は私、秋臣くんが…………」




「そこまでして、オレにタイムパトロールをやらせたいのか。だからオレはそんなのやらねえって言ってるだろうが」




「…………………………………」


 藤堂秋臣21歳。友人からはたまに『鈍感野郎』と言われますけど、それが何か?

 エミットが何故か若干目に涙を溜めてこちらを睨んでるが、気にしない。こやつの奇行は今に始まった事ではない。そんなもんをいちいち気にしていたらこちらの身が持たん。


「ふん、いーわよいーわよ。せっかく『エミットルート』を攻略したら、とってもいい事があるって教えてあげようと思ってたのに。そんなにその子がいいなら、浮気でも二股でも妻妾同衾さいしょうどうきんでも何でもすればいーじゃない!」


 ……また訳の分からん事を……。何故付き合ってさえもいないのに浮気やら二股やら妻妾同衾やらになるのかはさて置いて、理不尽神様は取りあえず何かご立腹の様子。話くらいは合わせてやった方が身の為だ。ここでの対応次第で後の被害が随分違うと思う。


「じゃあ『エミットルート』を攻略するとどうなるんだ? 何か非常に死亡フラグやバッドエンド満載っぽいルートタイトルだが」


「……そんなに知りたい? じゃあ仕方ないわね。貴方にだけ特別に教えてあげましょう!」


 一瞬で立ち直る暴走神様。多少慣れてきたとはいえ、未だ理解は出来てない。多分一生理解は出来ないだろう。


「『エミットルート』を攻略するとねぇ~♪ 卒業式の日に『伝説の樹』の下で私から告白を受けるのよっ!」


「……またレトロなネタを持ち出しおって……」


「あ、でも注意してね。いくら好感度が高くても、パラメータが全部100以上ないと攻略出来ないから♪」


「それはお前じゃなくて藤○○織だろうが。多分付いて来れてない人多いと思うからその辺でやめとけ」


「それでね、実は私には『METIメーティ』って名前の妹がいるんだけどね」


「これまたTIMEのアナグラムか。その内『ITEMアイテム』さんとか出て来そうだな」


 で。




「攻略後にはなんと、夢の『姉妹丼』が堪能出来るのよ~♪」




 ものすンげー爆弾発言をなさる我らが神様エミット様。


「だからバカかっ!? いきなりなんて事言うんだお前!?」


「だって『姉妹丼』って『漢のロマン』でしょ? 最たるものでしょ?」


「……いや、まあ……否定はしないが………」


 オレもバカだった。

 画面の前の良い子の皆、『姉妹丼』の意味が分からなくても、決してお父さんお母さんに聞いてはいけないよ。……や、お父さんなら嬉々として解説してくれるかも知れないが……で、でもやっぱり聞いちゃダメだ! お兄さんと皆との約束だ!!

 …………何か壁越しに忍び笑いが聞こえる…………。あのババア………。オレは壁に一発蹴りをくれて、壊れた窓さえ放っておいてソファに寝そべってタオルケットを頭まで被る。何つーかもう疲れた……。怒る気力もねえ。


「知るか。もう寝てやる。勝手にしやがれ」


 不貞寝である。つまり、オレの完全敗北。あとは人類滅亡でも新世界創造でも好きにやればいいさ。


「あれ? 寝ちゃうの? こ~んな美味しいシチュエーションを目の前にして?」


 ………。


「あ、そーだ♪ どうせだったらこの子いじって遊んじゃおう♪」


 ……………。


ゴソゴソ……


 ものすげー気になる衣擦れの音。暫くして………




「うは~☆ 秋臣くん! ピンクよピンク!!」




 ピンクはお前の髪の色だろうが。……と突っ込んでおかないとえらい事になるのは明白。………いかん、そう考えるだけでダメだ。心が折れそうだ。オレの中の悪魔っ子がこの邪魔なタオルケットを今まさに剥ぎ取らんとしている。……と絶妙なタイミングで壁から忍び笑い。あのババアの思うツボにならない為にも、ここは堪えねば。えーっと、それならアレだ。呪文を唱えよう。よっしゃ行くぞ。精神集中! 大器晩成! 馬耳東風! 悪逆無道! 心頭滅却すれば火もまた涼し! 大山鳴動して鼠一匹! 覆水盆に返らず! 体は剣で出来ているぅぅぅぅぅーーーーーーーーー!!!




「ぐごーーーーーzzz」




 寝た。オレ完膚なきまでに寝た。どうやら呪文が効いたらしい。我ながら泣けて来るほどの単純な構造だ。


「うそ!? ホントに寝ちゃったの!? 信じられない……。もしかして不能者? 若いのに可哀想……。お~い、秋臣く~ん? 私今、素っ裸よ~? 起きないと損するわよ~?」


 三万光年向こうからエミットの失礼な言葉が聞こえるが、もう遅い。オレは酩酊状態にも似た夢幻の海を漂い、そして沈んでいった―――


















ピピピ……


 朝7時。オレは携帯のアラームで目を覚ます。……はて? 今日は休みだからアラームは解除しといたはずだが………? 記憶違いか? まあオレも多少酔っ払っていたから操作を誤ったのかも知れない。

 部屋の様子を確認。エミットの姿は見当たらない。ついでに昨夜見るも無残に破壊された窓は、嘘のように元通りになっていた。……腐っても神様、と言った所か。自分でも少しは反省したのかも。

 オレは未だ鳴り響くアラームを解除しようと部屋の中央にあるテーブルに手を伸ばす。その刹那……………


「……………………」


 のっそりと起き上がった可憐ちゃんと目が合った。オレはその場でフリーズ。……………だって……………可憐ちゃんの格好が…………………。


「…………………?」


 未だ夢虚ろなのか、焦点の定まらない瞳でオレ、部屋の様子、自分の格好を確認している。で………




「いやあああああああああああぁぁぁぁっ!?」




 身を縮こまらせて絶叫した。………まあそうなるわな。だって可憐ちゃんの格好、オフクロが着せたパジャマの前がパックリとご開帳している。おまけに下着を着けていない。昨夜エミットが『ピンク』だと言っていただろう部分は残念ながら見えなかったが、白くてきめ細かい肌がもろに露出していた。……あのバカ、そのままにしていったな……。まあ事故とは言えお陰でいいもん見させてもらったが。今だけナイショでエミットに感謝。グッジョブ。


「……あ、え~っと………」


 オレはようやくフリーズが解け、声を発する。何を言おうかしばし逡巡したが……そこで非常にマズイ事に気が付き愕然とした。

 

 可憐ちゃんは当然エミットの存在を知らない。今現在ここにいない以上、昨夜エミットがこの部屋にいた事を証明する術がない。窓ガラスも綺麗に直ってる訳だし。そうなりゃ必然、可憐ちゃんにイタズラしたのはオレ以外にいない事になる。仮にオフクロに着替えさせられた事は覚えていたとしても、その後は完全に熟睡していたので、その間の事は可憐ちゃんが知る由もない。

 ……あ、今気付いたけど、もしかしてアラームの設定をしたのはエミットではなかろうか。オレが可憐ちゃんより先に起きれば証拠を隠滅出来るし、エミットを探す時間もある。だが、部屋の中央に置かれた携帯のアラームが朝7時なんていう絶妙な時間で鳴れば、可憐ちゃんも同時に起きるだろう。恐らくその事を計算して、わざとアラームを設定して自らは姿を消したのだ。


 サーーーーっと血の気が引いていく。可憐ちゃんは夏用ブランケットで体を隠しながら、プルプルと震えていた。


「ち、違うんだ可憐ちゃん! これは誤解なんだ!! 実は昨日の夜はこの部屋にもう一人………」


 今更何を言っても無駄な気はしたが、流石に何も言わない訳にはいかない。……昨日に引き続き、情けねえ……。


「……………秋臣くんの……………」


 蚊の鳴くような小さな声でオレの名を呟く。で………






「ばかぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!」






 怒れる可憐大魔神様。可憐ちゃんのいるベッドとオレのいるソファまではざっと2m以上あるのに、何故かオレの全身を拳の雨が貫く。


「げふぅ!?」


 その一発一発が非常に的確、速く、且つ重い。外面破壊を主とした攻撃ではなく、内面に響いてくるそのテクニックは、明らかに素人のそれじゃない。達人領域の何かを駆使している。……可憐ちゃんに彼氏がいない理由が、何となく分かってしまったかもしれない……。


「信じてたのにっ!! うわーーーーん!!」


 可憐ちゃんは自分の服を引っ掴むと、突風のようなスピードで部屋を出て行く。


「ちょ……待って!!」


 流石にコレはマズイと、オレもボコボコにされながらも即座に後を追う。

 可憐ちゃんはもう既に階段を下り、玄関に到達している。しかももう私服に着替え終わっている。……なんつー早業……。世界ビックリなんとかに出られるんじゃね? ………って関心してる場合じゃない!

 オレは転げるように……てか転がりながら階段を下る。


「可憐ちゃん待って!!」


 勢いに任せて、可憐ちゃんを捕まえようとした瞬間―――




「死んじゃえーーーーーーーーーっ!!」


グシャッ!!




 芸術的なカウンターが炸裂した。う~む、どうやら彼女、東西問わず格闘技に精通してるようだ。本格的にやってなきゃこんな亀○さん家もビックリのカウンターは綺麗に入らない。

 最後通牒のように玄関ドアが閉まる。オレは流石に動けない。あれだけ見事なものを貰っちまったら、どこぞの○ョーさんでもロッ○ーさんでも○歩くんでも無理だろう。




「あ~あ、フラレちゃったね秋臣くん」


「まあ人生なんてこんなもんよ。挫けるな、少年」




 一部始終を見てたっぽい変態コンビ、満を持して登場。……完全にお前らの所為だけどな。


「やっぱり秋臣にはエミットさんが必要なのよ! これからも秋臣をよろしくね!!」


「はいお母様!!」


 二人は手を取り合う。……いつの間に仲良くなったんだ、あんたら……。変態同士、何か通じ合うものがあるのかもしれない。……つーかエミット、『お母様』はやめてくれ。


 もう色々と修復出来ない事になりつつあるオレの日常。そんな事を憂いて、オレは再び意識を失うのであった。


 


 この後エミットにタイムスリップを要求して、何故かデートさせられたのはまた別の話―――――













教訓。『据え膳食わぬは殴られ損』 by藤堂秋臣



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