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6:塞翁が……

「……ふう……」




 更にその翌日。オレはホテルの部屋で目を覚ました。カーテンを開けると、気持ちのよい朝の日差しが差し込む。この時代にいられるのも後3時間ほどか。そう考えると少し感慨深いものがあるな。


 ……オフクロを突き飛ばした後、即座に時が動きだした。オレも『オレ』もオフクロも、全員無事……と言う訳には行かなかった。オレと『オレ』は擦り傷程度で済んだが、オフクロはオレが突き飛ばした際、後頭部を強打したらしく、意識不明となってしまった。や、緊急事態だったから、手加減なんてしてられなかったんだって。しょうがないだろ。あのままだったら確実に即死だったんだから、結果オーライって事で宜しく頼む。

 で、その後当然警察やら救急車やらを呼んだ訳だが、オレは身分を証明出来ないし、事情も話せないので面倒な事になる前にホテルへ逃げて来た。オフクロが心配で殆ど眠れなかったが、明け方にはいつの間にか眠っていたようだ。


「よし……」


 オレは軽く顔を洗って、澱のように沈殿した眠気と疲労を洗い流し、コートを羽織って部屋を後にした。




 フロントで部屋を引き払い、オレはオフクロが入院している病院にやって来た。受付で「親族」とだけ名乗り、オフクロの居場所を聞いた。どうやらまだ意識が戻ってないようだが、取り敢えず一般病棟の個室にいるらしい。近くを歩いていた看護婦の話だと、検査結果はまだ出ていないらしく、詳しい事は分かっていないそうだ。ただの脳震盪の可能性もあれば、脳挫傷や脳内出血、ヘタをすれば記憶障害、半身不随、果てはこのまま寝たきりになる可能性もあるのだと言う。……オレがもっと冷静に対処出来ていればこんな事にはならなかったのかもな……。そう思うと、何か居た堪れない。

 オレは部屋の前までやってきたが、病室に入る事は躊躇われた。オレの所為で昏睡状態になったオフクロを見るのは辛かったし、万が一にもオヤジと顔を合わせる訳には行かないからだ。


 オレが部屋の前でまごまごしていると、唐突にドアが開く。身構えていると……中から『オレ』が出て来た。


「……?」


 部屋の前で立ち尽くすオレを不審に思い、可愛らしく小首を傾げる『オレ』。そして思い出したようにオレに話しかけてきた。


「あ、きのうのおにいちゃん? きのうはどうもありがとう!」


 オレは無言で腰を屈める。知らない内に笑みが浮かんでいた。……オレにもこんな可愛らしい時期があったんだな……。


「パパはうちにかえっちゃったけど、パパから『きのうのおにいちゃんにあったらなまえをきいておけ』っていわれたんだ。おにいちゃんのなまえはなんてゆーの?」


 オレはしばし思案した後、素直に口を開く。


「オレの名前は……オレの名前も、『秋臣』って言うんだ。『秋臣くん』」


 それを聞いた『オレ』は心底嬉しそうに、


「へぇ~。ぼくとおなじなまえなんだ。すご~い! おにいちゃんってカッコいいよね! パパがいってたよ。『おにいちゃんはいのちのおんじん』なんだって。『いのちのおんじん』ってなに? ってきいたら、『ウルトラマンみたいなものだ』って、パパいってた。すごいな~! おにいちゃんウルトラマンなんだ~! ぼくおおきくなったらおにいちゃんみたいになりたいなぁ~!」


 そんな事を、口にした。

 オレは照れくさくなって、『オレ』を抱き締める。「君の将来の姿が今のオレだ」って言ったら、一体どんな顔をするだろうな。何か……すごく救われた気分になった。この言葉を貰えただけでも、オレは過去に来た意味があったかもしれない。


「これからは、キミがパパとママを守ってやってくれよ。出来るか?」


 オレは『オレ』から体を離し、一つだけ、『オレ』に問いかける。すると当然のように




「うん!!」




 淀みの無い、明確な返事。それを聞き届けると、オレはもう一度『オレ』を強く抱き締めて、オフクロの様子も見ずに病院を後にした―――――



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