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白鳥の唄

作者: イプシロン

第一歌『冬の終わり』

ミレーの口承が伝えたる、島をめぐった闘いは、

長く激しく続きたり。ダナの神々息きらし、

勝利はミレーの一族の、手中に落ちて終わりたり。

陽光このむ一族は、地上を住処(すみか)と選びとり、

慈悲もてダナらの獄舎にと、地底(ちぞこ)を与えて良しとせし。


年は過ぎ去りそののちに、ミレーの口承に見えるのは、

赤毛の王の時代なり。ボォヴと呼ばれる名君は、

一つの遇を犯したり。弟リールの僭称に、

怒ったボォヴに畏れらむ、宮殿(いえ)焼かれたる()の妻は、

悶え苦しみ死にしなり。末期の息が届いたか

なんたることと悲しみが、空を覆って涙せし、

(にび)の雨もて悲しみが、天から降って涙せし。


名君ボォヴは悲嘆して、弟リールに憐憫の、

情を抱いて暗悔し、鬱勃として奮い立ち、

我が珠玉(しゅぎょく)たる()揃いの、真珠のいずれを()後妻(よめ)と、

与えたること、それのみを、

弟リールの慰めと、亡き妻への供養かと、

思い定めてこころせし。思い定めて使者たてし。


使いのことば疑うも、耳朶と耳朶うつ(のり)たしか、

妻の墓前に打ち萎れ、リールはその身を震わせた。

涙の瀑布で墓碑洗い、妻よお前は許すのか?

ただそれだけに思い病む。ただそれだけに思い病む。

其の身の恥となるにせよ、長く妻をば偲ばんと、

その真心だけが脈々と、(しん)(ぞう)を鳴らしたる、

その鳴らしたる確信を、彼は信じて()せざりし。

その鳴動つきぬ真心を、彼は信じて疑せざりし。


弟リールの傷心と、その真心を照覧し、

運の女神は微笑んで、だまって天で肯いた。

かくしてリールは訪宮し、三つぶの珠玉(たま)を吟味せし。

長女(おさ)なる真珠(たま)のその姫は、イーヴという名で叡智もち、

次女(つぎ)なる真珠のその姫は、エヴァという名で美貌もち、

末娘(すえ)なる真珠のその姫は、アルヴァという名で無邪気なり。

いずれおとらぬ姫君に、リールはしばしば悩みたり。

実に無邪気は(すが)しいが、時に放恣でありたりと、

リールは察して不安せし。世に美貌は捨てがたし、

しかるに美貌は衰えん。リールは時を(はかり)とし、

時にて滅せぬ叡智もつ、イーヴを妻に(めと)りかし。


婚儀の祝宴ひらかれて、七日(なぬか)七夜(ななよ)つづきたり。

王ボォヴとその(てい)リール、血をば分けたり一族なりと、

穿(うが)れた軋轢うめんとし、七日と七夜むきあえり。

余興もこころを和ますと、ボォヴは自ら(まじ)のうて、

リールとその妻イーヴとの、幸運(さち)を念じて(うろ)のうた。

「時を(はかり)とせしことは、広く(ひら)く」と霊は()し。

弟リールは猜疑せし、いま一度と声になす。

再び呼ばれた霊の声、(ぼく)にしたがい伝えるは、

「時を秤とせしことは、長く保つ」と霊は降し。

弟リールは猜疑せど、広く長くを良しとせり。

広く長くを良しとして、兄弟(あに おとうと)は和解せり。

かくて王宮(おうぐ)(さい)された、七日と七夜の祝宴は、

卜と和解をもたらして、冬の終わりをつげながら、

春の訪れつげたりし。春の訪れつげたりし。

第二歌を書くかは検討中……。

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