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君の夢を見よう(正規順)  作者: しょうこう
1/18

23回目 海は五度も嘲笑う

こちらは正規順に並べたものです

ランダム版と内容は同じになります

「この夕陽も何回目だ……」

 梅雨も終わり、今日は一日中太陽が元気に顔を出し続けていた。

 砂浜は、とても裸足では歩けなかっただろう。

 絶好の海日和と言っても差し支えのない一日だが、まだ人がごった返す時期でもなかったので、遊ぶにはもってこいの日だっただろう。

 そして今はもう人もまばらになってきている。

 そんな中、俺、生田伊織(いくたいおり)は、人の流れに逆らうように、波打ち際に立って夕陽を見ていた。

「何たそがれてんの?」

 そして、同じように人の流れに逆らって俺の隣に来たのは真田明日香(さなだあすか)。俺の彼女だ。

「たそがれたくもなるよ」

「なにかっこつけてんのよ」

 吐き捨てるかのように言葉を発した俺を、からかうように笑いながら、顔を覗き込んでくる明日香。しかし俺はそれを意に介さず、夕陽をじっと見つめたままだった。

「……どうしたの? 何かあった? 今日だっていきなり海行こうなんて言い出すし」

 今日はただの平日だ。いつものように大学の講義があったのだが、俺が明日香に海に行こうと誘い、半ば無理矢理遊びに来ていた。

「…………別に、気分だよ」

 俺はくるりと体を反転させ、今度は人の流れに加わる。

 そして明日香も、俺を追いかけるように続いた。


「今回は車で来たんだよな?」

「今回はって、前にも来たっけ?」

「……いや、こっちの話」

 着替えて合流した俺たちは、駐車場の方へと歩いていた。

「なにそれ。やっぱり疲れてるんじゃない?」

 明日香は少し心配そうに俺の横顔を見つめてくる。

「疲れてないと言えば嘘になるな」

「うわー、めんどくさい言い方。やっぱり電車で来た方が良かったんじゃないの?」

「電車にはあまりいい思い出がないんだ」

「え? 何かあったっけ?」

「『あった』なのか『ある』なのかは知らんけどな」

「……どゆこと?」

 目を細め、少し眉間にしわを寄せながら話す俺に、明日香は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

「轢かれたんだよ。……何度もな」

「え?」

 茶化すわけでもなく、トーンを落とすわけでもなく、淡々と言葉を紡いだ俺に、明日香は思わず足を止めた。

 流し目で明日香の方を見たあと、俺は歩みを止めて半身になった。

「冗談だ。何度も電車に轢かれてたら、今の俺は何なんだよ」

 今度は少しおどけてみせた。

 戸惑っていた明日香も「そうだよね」と安堵の息を漏らして、小走りに俺の元に来る。

 しかし、対照的に俺の顔はまた少し曇っていった。

 これからのこと、そしてその先のことを考えると、あまり笑顔ではいられない。

「伊織!」

 そんな状態で歩を進めていれば、周囲への注意は散漫になってしまう。

 明日香に名前を呼ばれ、足を止めて顔を上げた時にはもう遅い。

 俺は横断歩道を少し歩いたところ、片側一車線の車道の真ん中に立っていた。

 右側から時速六十キロほどで近づいてくる大型トラックが、もうすぐそこまで来ている。

 ブレーキはもう間に合わないだろう。

 青ざめていくトラックの運転手とは対照的に、俺は冷静そのものだった。


「慣れって怖いな」


 鈍い音が、辺りに響いた。

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