元社畜おばs… お姉さんの異世界召喚
この物語はフィクションです。現行法とは一切関係ありませんし、登場人物は架空の人物なのでご了承を\(^o^)/
私は柳田ゆき、30歳独身である。結婚の予定所か彼氏いない歴も10年… 高校生の時に付き合った彼氏と大学2年の時に別れてそれ以来フリーだったという事だね!
大学を卒業後に就職したIT系企業も超絶ブラックで、なんとかなんとか時間をかけてようやく3日前に退職する事が出来た。
長く染みついた脅迫概念というか、仕事をしないと怒られてしまうというのが怖くて、気が付くと毎日のように深夜まで残業、休日なんて記憶にすらない程のダメ企業っぷりだったが、3か月前にとうとう体を壊してしまい、通勤中に過労で倒れた。
過労という事で3日間の入院となったわけだが、入院中に上司が見舞いに来たことがあって、ちょうどその時私を心配して来てくれた友人がいたのだけど…
その友人の事は見えていないのか、病室に入るなり上司は私を罵倒し始めたのだ。
やれ『お前が入院なんて気の抜けた事をやっているから同僚たちが苦しんでいる』とか、『3日も入院だと? 今月の給料は無いと思えよ!』とか… まぁ散々言ってきたわけだ。
それを傍で聞いていた友人が、『アンタの職場はおかしい! 今すぐ辞めて訴えるべきだ!』
非常に憤慨した顔でそう言ってきたのだ。
ほとんど洗脳状態にあった私は職場がどうのというよりも、同僚にかかっているであろう『迷惑』の方が重く感じてしまい、3日も入院なんてできないなんて言いながら退院しようとしてたらしい。あんまり覚えていないんだけど…
そんな訳で、怒りまくった友人が奮起し、あの手この手で退職届を受け取らない職場に対して手を尽くし、最終的には退職届を内容証明で送り付けるなんて荒業を展開し、無理矢理受理させることに成功した。
当然会社にはタイムカードなんて物が存在しているので、それを基準に残業代の請求し、満額では無いけれど、計算上の3分の1の残業代で手を打ち、無事に無職への転職に成功したのである。
労働基準局も入れてのやり取りだったけど、退職の期日までの間に決着がついて本当に安堵している。
そして… 今日は無職になって3日目。この2日間は本当に寝ているだけで時間が過ぎてしまったけど、ようやっと心に余裕が生まれた気がして、退職金を使って色々と買い物をしようと企んでいた。
そんな日の朝8時、空腹に耐えきれずに近所のコンビニにお弁当を買いに歩いていた。
私はもう30歳、世の中ではすでにおばさんと呼ばれてしまう年齢だけど、気持ちは大学を卒業した時のまま成長していない。なので… 気持ちだけは若いつもりでいた。
さすがに若いつもりの女性… 近所のコンビニに買い物だとは言え、部屋着で外に出るというのは無理な事。ラフな服装でも良いと思うけど、世間様に無職をアピールしたって意味が無い。
そんなときの妥協案として… 着古したパンツスーツにパンプスという通勤スタイルで歩いていたのだ。
残業代… 総額の3分の1とはいえ、8年分の計算だったので、300万円オーバーの臨時収入。ちょっと朝食の買い物だって豪快にやってやった。
なぜか2個のお弁当にカップサラダ、甘いカフェオレにスポーツドリンクと美味しい水を手に取り、挙句の果てにはプリンとショートケーキにチョコレートまで。
コンビニの会計で初めて2000円を突破した。
すっかり重くなったコンビニ袋を両手に持ち、自宅アパートへと帰る。
時間も時間だけあって、通りを歩いているのは近所の高校に通う生徒ばかり。良いな~若いな~とチラ見しながら歩いていた…!
「きゃああ!」
「ちょっ、なにこれ?」
「ぅおおお!」
前方を歩いていた高校生たちが急に騒ぎ出した。一体何が? 寝惚けていた頭が覚醒し、その高校生たちの元へと行く。
「どうしたの? 何かあった… ええ?」
挙動不審になっている3人の高校生の元へと駆け寄ると、足元がなんだか光っているのが目についた。
男子生徒が1人、女子生徒が2人いたんだけど、気が付いた時にはその光は勢いを増し、とてもじゃないけど眼が開けられないほどの輝きを放ちだした。
「これって今流行りのラノベ転移?」
そんな事を口にした瞬間光は収まり、なにやら神殿のような雰囲気の場所に立っている事に気が付いたのだった。
周囲には疲れ切って息も絶え絶えという風の人が10人くらいいた。その風貌はいかにも神官です!と無言のアピールをしていた。
「おい!ここは一体どこなんだよ!」
男子生徒が突然声をあげた、確かに私もそう思うよ… ここはどこ? と。
女子生徒の2人はお互い抱き合っている体勢で周囲を見渡し、すっかり青い顔をしていた。
「おお! 無事に召喚は成功したようだな。よくぞ我らが呼ぶ声に応えてくれた、礼を言うぞ」
「いや、応えてないし… 完全に無理矢理連れ込まれたし」
「…」
おお、男子高校生の君、なかなかレスポンスが早いねぇ。でも相手はなんだか偉そうな感じだよ? もう少し言葉を選んだ方が良いと思うけどね。
「我らの呼ぶ声に応えてくれたお前達にやってもらいたい事があるのだ!」
あら、そのまま続けるんだ… この偉そうな人のメンタルも相当ね。
「この大陸には東西南北にそれぞれ1体ずつ、災いを呼ぶドラゴンが住み着いているのだ。大陸東部に位置する我が国にも1体のドラゴンがいる、お前達の仕事はそのドラゴンを討伐だ! 大神官、この者達の鑑定を」
「はっ!」
はい? ドラゴンを討伐しろだって? 何を言っているのかなこの人は。
ドラゴンと言えば… ファンタジーの世界では常に最強の呼び声の高い最強種族じゃなかった? 確かにファンタジーではドラゴン退治は定番中の定番かもしれないけど、実際にやるなんて考えもしないんですけど?
「では… まずはアナタから。 …おお! この者は『聖騎士』ですぞ! なんと素晴らしい!」
ほほーぅ、男子高校生の彼は聖騎士ですか。まぁ聖なる騎士ってくらいだからお強いのでしょう。
その後、順番に鑑定というのをやらされて、女子高生1号ちゃん、小柄で黒髪ストレートの美人さんは『聖女』と断定。女子高生2号ちゃん、ショートカットのスポーティな感じのスレンダー美人さんは『賢者』と断定。
最後は私となった… あるぇー? 聖騎士に聖女賢者ときたら、私は勇者って事? そんな重そうな役職はいらないんですけど?
「むむ? 職業が表示されないですな…」
本当だ、その鑑定結果は私にも見えているけど、職業の所が『???』と表示されている。その下には収納と表示され、さらにその下には赤い文字で『コピー』と書かれていた。しかし、勇者じゃなくて本当に良かったよぉ。
「しかもスキルは収納のみとは… 殿下、この者は使えませんぞ?」
ん? コピーの方は見えていないのかな? こんなに目立つように赤字で出ているのに…
じろーっと赤字で表示されているコピーの部分を見つめていると、なんと詳細が見えてきた。
スキル【コピー】
生物以外ならどんなものでも完璧に複製する。成長する物であれば、コピーで複製した物でも成長する。コピーする場合はその物に触れていないといけない。
いやいや、これはすごくない? まず最初にコピーするべきものは決まったね。全身を包むこの服だね! 下着も含む。
見た所中世っぽい雰囲気があるから、服とか下着とか… 好みの物が無い可能性の方が高いわよね。何よりも、世界から信頼されているメイドインジャパンの服… これ以外着る気はしないかな。
いやー良いスキルが手に入って本当に良かった。大体こういった場合は元の世界には帰れないパターンが多いからね、日本産の物が着れるっていうのはでかいよ!
しかも『どんなものでも』ときたか… それなら最悪の場合、お金をコピーすれば生きて行けるだろうしね。
しかし… 個人のステータスってこれしか見れないのかな? もっと詳細なのがあればいいんだけど…
そんな事を思っていたら、自分の目の前に半透明のプレートのようなものが出てきた。そしてそれにはこう書かれている。
ユキ・ヤナギタ Lv.1
職業???
腕力:12
体力:10
知力:17
魔力:20
敏捷:8
スキル:収納
ユニークスキル:コピー
あらあら、この世界はレベル制って事なのかな? それにしても数値は低いわよねぇ… でも収納魔法は便利よね、これを持ったまま日本に帰りたいわ。
そしてコピー… これはユニークスキルだったのね。やっぱり特別な力だったんだ…
そういえば、さっきはコピーの所を凝視していたら詳細が見れたわね… ならば、収納魔法も詳細が見れるかも!
そう思い、収納魔法の部分をじろっと見つめる
スキル【収納】
生物以外ならどんなものでも収納する事が出来る。収納空間内は別次元のため、時間の流れが異なる。収納空間の時間の流れは現在の次元の1万分の1である。
【収納物一覧】
唐揚げ弁当×1 いなり寿司6個セット×1 ツナと卵のサラダ(中華ドレッシング)×1 とろけるカフェオレ500ml×1 スポーツドリンク500ml×1 美味しい水2L×1 いちごショートケーキ×1 焼きプリン×1 一口チョコ120グラム×1 革の鞄×1
わーお、買ったばかりだった商品が全部収納に入ってるよ! ちゃんと自分の持ってたハンドバッグまで! このバッグの中にはちょっとした化粧品とか入っているし、すごく助かるわぁ。
あ、これら全部コピーしておかないといけないね。
「殿下、この者はいかがいたしますか? 収納スキル程度であれば、我が国にも大勢おりますが」
「ふむぅ…」
このおっさん… 大神官とか言ってたっけ、なかなかムカつくね… どれ、せっかくだから色々と実験させてもらうとしますか。
私の肩に手を置いて偉そうにしている大神官に向かって心の中でつぶやく。
『コピー』
すると… 見えていた私のステータスに変化があった。
スキル【コピー】の下に新しく追加されている部分が! そしてそこには、スキル【鑑定】と… そして職業【???】の隣に【大神官】と…
なるほどね! スキルとかそんな物までコピーできちゃうんだ。これってすごくない?
そう思いつつ、顔に出さないようニマっていると、大神官と偉そうな殿下さんとの会話がまだ続いていた。
「そうだな、使えん者はいらん! 外に放り出せ! ……いや待て、どうだ? この俺様の性処理の道具としてなら王城に居させてやっても構わんが?」
「放り出してください!」
おっと、無意識だったけどノータイムで返事をしていたよ。
ちなみに私の容姿だけど… 大学生の頃は綺麗とか美人だとか言われていて、ついでに言えば夜の蝶みたいとも言われていた。要するに年齢よりも年上にみられてケバイって事なんだよね… しかもだよ、就職してからほとんど仕事しかしてない毎日だったから、お洒落にも本当に疎くなったし、化粧だって最小限… すっかり落ちぶれてたんだよね。
そんな私を性処理の道具だって? この殿下とやら… どんな性癖をしているんだか。
「そうだ、放り出される前に聞いておきたいんですけど。元の世界には帰れるんですか?」
「あ? そんな訳がないだろう。呼び出すだけでどれほどの人員と金を使ったと思っているんだ? それに送り返す術なんか伝わっておらん! まぁせいぜい頑張って生き残るんだな」
ああそうですか、帰れないって言うなら腹をくくるしかないわねぇ…
そうだ、このコピーってスキルは別に相手のスキルを奪う訳じゃなさそうだし、コピーしても相手のスキルはそのままだと思うから、いっその事聖女ちゃんと賢者ちゃんのスキルもコピーさせてもらおうかな。そうすれば生存率はググっと上がる事でしょう! 更に言えば、聖騎士君のスキルもください!
思い立ったが吉日、早速行動を開始しよう。全く…15連勤20連勤が通常業務だった社畜を舐めるなよ? ちょっとやそっとの苦境じゃへこたれないんだからねっ!
あわあわしている女子高生たちの方に向き、てくてくと歩いていく。
「なにやら大変な事になったけど、頑張ってね。私は放り出されるみたいだし、日本には帰れないみたいだから、どこかで何とかやっていく事にするから」
そんな事を言いつつ聖女ちゃんの肩に手を置く… (コピー!)
そして賢者ちゃんに右手を差し出して、釣られて手を出してきたので賢者ちゃんと握手… (コピー!)
せっかくだし聖騎士君はっと… おや? なんか睨まれてる?
「全く、何の力も持たないなんて… アンタは日本人の恥だな! 追放された先では日本人だと名乗らないでくれよ? 俺達の名に傷がつくから」
「は? 何言ってるの? それに日本人は関係ないでしょう? なにこの子アホなの?」
「なんだと!?」
突然ディスってきたので条件反射でついつい返してしまった。でも仕方ないよね? 言うに事欠いて日本人の恥だって? その前にまず私達を誘拐してきた挙句に放り出すとか言っているポンコツ殿下を責めなさいよ!
聖騎士君が顔を真っ赤にさせながら私の肩をどついてきた… チャーンス! (コピー!)
「ちょっとアンタ、何を馬鹿な事を言ってるわけ? アンタが一番日本の恥じゃない!」
「うん、なんか見損なったよ」
おお! 女子高生ちゃんズが私を援護してくれてるよ!
「アンタ聖騎士だっけ? それじゃアンタが1人でドラゴンとやらを倒してくればいいじゃない。私も追放されるわ」
「私も追放希望で… あんな人と一緒だなんて完全に無理」
「まぁまぁ落ち着いて、とりあえずアホの子は放っておいて今後の事を考えましょう?」
「そうですねおb… お姉さん!」
ちょっと聖女ちゃん? 今なんて言おうとしたのかしら? まぁこの子達から見れば確かにおばさんかもしれないけど…
そんな私達のやり取りを呆然としながら見ている殿下とやら… 大神官も同様なので今がチャンスかな?
「それじゃ聖騎士の彼がやる気に満ちているようなので私達はこれで失礼しますね。この建物の出口まで案内してもらえますか?」
シラーっとした空気の中、出入り口付近にいた革鎧を着た人にそう声をかけてみた。
「え? あーいや、しかし…」
「あの殿下と呼ばれる方が仰っていたでしょう? 放り出せ…と」
「まぁそうだが…」
ちっ、なかなかしぶといな。殿下と大神官が声をあげる前にさっさと逃げ出したいっていうのにこの人は!
「勝手に出ていっても良いんですが、間違いなく道に迷ってしまいますよ? 部外者に見られたくない物だってたくさんあるでしょう… そうならないためには真っ直ぐ外まで案内するのが一番良い解決策です。あちらは取り込んでいるようなので今の内に!」
「う…うむ」
よっしゃ!
振り返ってみると、聖女ちゃんと賢者ちゃんも私に続いてきているね…
でも仕方ないよね? 普通の高校生にドラゴン退治を任せるなんて… しかもあんな上から目線で命令だなんて無理に決まっている。
あの聖騎士君はきっとラノベに毒されてしまっていたんだろうね…
その後、流れるようにお城の外まで案内してもらい、城下町へと辿り着いた。
「ふー、やっと抜け出せたね。あ、今更だけど私は柳田ゆきっていうのよ、よろしくね」
「私は鈴木伊智子です。聖女とか言われました」
「あ、私は賢者って言われたわ、松井秀子っていうの。ドラゴン退治なんてやってられないっすよね」
「とりあえず関わったら面倒な事になりそうだから、この町を出ちゃう方向で考えてるけど… それでいいかな?」
「はい、でも食べ物もお金も無いけどどうしましょう」
「それについてはちょっと考えがあるわ。そこら辺は私に任せてちょうだい」
「え? でもお姉さん収納スキルしか無いって言ってたけど、大丈夫なんすか?」
「ええ、ここだけの話… 私にはユニークスキルっていうのがあったのよね。あの大神官っておっさんには見えなかったみたいだけど」
「「ユニークスキル!」」
「あ、でもそんな大したものじゃないのよ? 過度な期待は無しでお願いね」
目抜き通りと思われる太い道を歩きながら軽く説明する… 2種類だけどお弁当があって、それをコピーできる事。もちろん飲み物もチョコもケーキも…
ついでに着ている服もコピーしちゃえば破れてしまっても大丈夫な事。ただ… 自分自身のレベルが低いため、スキルとはいえポンポン使うのは避けたい事。
「コピーですか… 使い方次第ではかなり無双できそうですね!」
「うん、そうだと思う。大神官が持ってた鑑定スキルもコピーしてあるし、聖騎士のもコピーしちゃった!」
てへっとカミングアウトをしてみる。だが聖女と賢者をコピーした事は黙っておこう…
「すごいじゃないっすか! 聖女に賢者だと後衛職だから危ないかなーって思ってたけど、これなら完璧っすね!」
「うんうん、後はレベル上げ? すれば安心できますね」
「そうでしょそうでしょ、とりあえずカフェオレとスポドリ…どっちがいい?」
「「カフェオレで!」」
聖女であるイチコちゃんに賢者のヒデコちゃん… この2人が普通の考えを持った子で良かったわぁ。まぁあの聖騎士君は残念思考だったけど、頑張ってドラゴン倒してね? うまくいけば英雄になれるかもよ?
3人は道端でカフェオレのぺットボトルを掲げて乾杯するのであった。