第8話 帰ってきた勝郎
「おかえり、もう大丈夫なのかい?」
『あぁ、葬式やら相続やら、一通り済ませてやっと落ち着いたところだ。帰ってきて早々なんだけどさ、君に聞きたいことがある』
「・・・あぁ、何だい?」
『親父が残した遺産の中に、君の名前があった。君は僕の親父の所持品だったのかい?』
「・・・昔話をしてもいいかな。お前の質問に答えるためにとても大切なことだ」
『・・・・』
「俺がまだ幼いころ、俺の両親は突然自殺すると言い出したんだ・・・
城君、突然なんだけど、パパとママは自殺をすることにしたんだ。理由はいろいろあるけど、借金がその一つかな。このまま死ぬまで地獄のように働くとぎりぎり返せるくらいの借金なんだけど、今死ねば臓器や皮膚など移植資源を売ることで全部返せるんだ。何十年も苦しい思いして働くより、今死ぬのも一つの選択肢として、ありかなぁって思ったんだ。
ただね。心配なのは城君だ。パパとママがいなくなったら、寂しくて生きていけないんじゃないかな?だからどうかな?みんなで一緒に自殺してしまうのは?
「俺はまだ幼かったから、死ぬということがよくわかってなかった。ただ漠然と死ぬのは怖いなぁと思ってたんだ。だから、死ぬのは嫌だと答えた。そしたら、両親は俺を残してあっさりと自殺してしまった」
城君、寂しくなったらいつでもパパとママのところへおいで。先に行ってるからね。
「俺の手元には1か月分程度の生活費と、1か月後に売り払われる家と、何枚かの資料が残されていた。資料ってのは、近隣の孤児を受け入れてくれる施設のリストや、自殺支援会社のリスト、それと子供でも雇ってもらえる仕事のリストなんかだった」
「とりあえず、2週間くらいは泣きながら生きていたんだ。だけど寂しいからやっぱり両親を追いかけようかなぁって思ってた。そんな時にお前の親父さんが募集している仕事の記事を見つけたんだ」
『親父はどんな人員を募集していたんだい?何の仕事をさせるために?』
「募集内容は <息子と友達になってくれる人> だった。俺は君とタメだから、募集の条件も満たしていた」
『・・・なんだよ・・・それ』
「君の親父さんに会って、話を聞いたよ」
私が求めているのは、息子の友達になってくれる人なんだ。ただし、ただの友達ではない。どんなことがあっても裏切らない絶対的な存在になってくれる人だ。つまり、息子が学校でおもらしして、クラス全員に馬鹿にされたとしても庇ってくれる。不良の先輩に目をつけられていじめられていても必ず助けに来てくれる。そんな人材を求めているんだ。もし、君がこの仕事を引き受けてくれるというのなら、君の人生を作り直してあげよう。君の家を用意するし、世話係もつける。私の息子と同じ学校に通わせるし、生活費の工面もしてあげる。その代わり君の人権をもらいたい。転校手続きが済んだら君は速やかに私の息子と友達になってもらう。そしてどんなことがあっても裏切らない親友になってもらう。万が一息子が学校でいじめにあうなどして、自殺に追い込まれた場合、君は私の権限で処分させてもらう。つまり死んでもらう。失敗したら死ぬ。そういう覚悟でこの仕事に臨んでほしい。
「自殺は弱者にとって大事な逃げ道だ。最後の手段だけどね。決して悪いことではない。ただし、父親からしたら息子の自殺なんてとんでもない話だ。是非避けたい。子供の自殺の大半は学校でのいじめが原因だ。お前の親父さんは心配性だったんだな」
『それで君は、その仕事を引き受けたんだな』
「あぁ、当時の俺はかなり追い詰められていたからね、この仕事を引き受けるしか生きる道は残ってなかった。ただ、<命がけの仕事>だってビビらされた割には、とても簡単な仕事だった。お前はすごくいい奴だったから、俺なんか雇わなくたって友達もたくさんいたし、いじめられるようなヘマをするタイプでもなかった。俺は正直何もしていない。結果、ただお前の親父さんに養ってもらっただけだな」
『僕と君が小学校、中学校、高校、大学と全て同じ学校を卒業したのも、君が合わせてきたからなのか?』
「もちろんだ。俺はいざというときお前を守るのが仕事だからね。近くにいることが望ましいだろ」
『君の職業が自殺支援なのも?』
「あぁ、俺が自殺の専門家になっておけば、お前は死にたくなったら俺に相談するだろう。俺はお前の自殺をそこで止めることができる」
『・・・・・』
「ただ、一つ言わせてくれ。始まり方は確かに雇われるという形だった。だけど、ずっと友情ごっこしていたという訳じゃない。・・・その・・・つまりあれだ。俺は本物の友情的なものをちゃんと感じてお前の隣にいたつもりだ。雇われとかそういうのを関係なく、俺は居心地がいいからここにいる。それだけだ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、さすがにびっくりする話だったが、その点は僕も同じだ。親父は心配性が過ぎてもはやアホだが、人を雇う目は確かだったようだな』
「さて、本日からあなたが私の所持者ということですが、いかがいたしましょうか?」
『そうだなぁ・・・まぁ・・・・・・・・・・・ひとまず呑むしかないな』
「ご安心くださいご主人様。ビールは、冷やしておきました」
『おっいいねっ!』
「おいおい、ここは<突然敬語なんて気持ち悪い。やめろよ。>とか言って俺をタメ口に戻すところだろ!」