第7話 勝郎が実家に用があるとかで家を空けている。久しぶりの一人の晩飯だ。
今日さ、仕事上がりに近所のスーパーへ行ったんだよ。晩飯を買うためにね。
俺は、ビール3缶と ささみチーズかつ を購入することにしたんだ。
レジにもって行くとさ、おばちゃんが値段を言いながらレジを通す訳だよ。
そこで事件だ!!!
おばちゃんがささみチーズかつを持ったら容器から飛び出してレジ台の上に落ちちまったんだ。ころもがレジ台の上で花火のように飛び散ったんだよ。
すいません。取り替えますか?
っておばちゃんは謝ってきたんだけどさ。
いや、いいっす。交換できないんですよ。これ最後の一個なんで。
俺はそう返した。
馬鹿やろう!!!!何言ってんだ俺!!!
最後の一個とかそんなの関係ないだろ!!!
代わりの何かと変えてもらえばいいだろ!!!
別にささみチーズかつじゃなくても飯は食えるだろ!!!
レジ台に派手に落ちた上におばちゃんが素手で持ち上げて
容器に戻したささみチーズかつだぞ!!!
こんな物食いたくねーだろ!
1秒後に自分の口から出た言葉を心の底から悔いた。
食いたくねーけど悔いてしまった。
おばちゃんはごめんなさいってもう一度言ったんだ。
しかし、その時の俺はさっきまでの偽善者の顔じゃない。
たぶん、すごくいやな顔してたんだと思う。
だって、俺の顔を見たおばちゃんの顔もすごくゆがんだから・・・。
何だかすごくいやな気分だったけど 、一度 いいです って言っちゃった手前 やっぱ換えてください がどうしても言えなかった。
そのまま、ささみチーズかつと家まで帰ってきてしまった。
それでも今日の晩飯の事を考えると気分が最悪で・・・。
ちゃんと換えてくれって言えなかった自分が許せなくて。
まだ間に合う、やっぱ換えてくれって言いに行こうか?
いや、それはさすがに恥ずかしいだろ?
あ、レシートが既に無い・・・。
じゃぁこうしよう。
ささみチーズかつのことは忘れて別のおかずを買いにいこう。
時計を見ると・・・余計なこと考えている間にスーパー閉店時間
ぁぁぁぁぁぁぁsfjklsdj最悪だ!!!
なんて最悪な選択肢を選んじまったんだ。
俺の気分も悪いし、おばちゃんの気分も悪いだろう。
交換してもらえば俺の気分も晴れるし、おばちゃんもいやな気分は和らぐだろう。
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さて、この気分を何とかしなきゃ・・・。
そうだ、このささみチーズかつ、確かにレジ台には落ちたけど地面に落ちたわけじゃない。
まぁ・・・・食えなくは無い。
もし・・・・これが美味ければ、そして、食後に腹痛にならなければ、問題ないはずだ。
俺の晩飯は滞りなく済む。
いや、食って腹痛になったらもっと最悪だ。ここでささみチーズかつを捨てれば、最悪な流れはここで断ち切れるか?
いや、それじゃ何か泣き寝入りっつうか・・・負けた気がしてしょうがない。
そうさ、腹痛さえ無ければ全てがチャラだ。
しかし・・・、
腹痛がちらつく・・・。
ここは、勝負だ。
戦って、死ぬか?
戦わずして、生き恥か?
または
戦って、勝つか?
俺には覚悟が必要だった。
このささみチーズかつを食うためには、このささみチーズかつを食うことを肯定する何かが必要だった。何でもいい。ただ背中を押してくれる何かが必要だ。
ささみチーズかつを肯定するために俺は考え方を変える。
そう、もし俺がこのささみチーズかつを交換してしまったら、当然こいつは捨てられてしまう。 ささみといっても元は生物。ささみを捨ててしまったら、ささみの命を冒涜することになる。
ささみはもう死んでしまったんだ。ささみの命を肯定してやれるのは今や俺だけだ!俺がここで腹痛を恐れてささみを捨ててしまったら、ささみの命は不当に扱われたことになる。
ささみは・・・否定されてしまうんだ。
ささ美、生前の君は・・・一体どんなだっただろう?
やさしくて、元気一杯で・・・恋愛にはちょっと不器用で・・・それでも友達を思いやる気持ちは誰にも負けない。
ささ美!!!
俺はお前を・・・肯定する!!!
もはや、腹痛などを恐れていた自分が恥ずかしい。適当な何かに交換しなくて良かったとすら思っている。
それじゃ、俺、 今から戦ってくる!!!
あぁ 死にゃしないさ。