第1話 怖がりな城(じょう)
確か・・・12時過ぎだったと思う。正確な時間はわからない。
昨日は仕事上がりに呑みに行って、十分に酔っぱらって帰ってきたんだ。
家に着いたら風呂に入って、すぐに寝たんだと思う。あぁ記憶はほとんどない。多分そんな感じだと思うだけだ。
夜中にさ、猛烈な尿意で目が覚めたんだ。え?たぶん2時か・・・3時か、その辺だろうよ。だから、正確な時間はわからないって。何せ相当酔ってたからな。
よろよろと布団から這い出して、トイレへ向かったわけさ。
で、トイレの前で俺はノックをしたんだ。そしたらさ、
・・・コンコン
ノックが返ってきたんだ。
あぁ、すんません。 とかそんなことをしゃべりながら、俺は玄関から外へ出て、その辺の道端で用をたして帰ってきたんだ。
さて、もうひと眠りするかなぁ・・・と思った瞬間、一瞬だけ我に返ったんだ。
何度も言うが、俺は当時相当に酔っていた。だから普通あり得ないことをやってしまった。
俺さぁ、一人暮らしじゃん?
一人暮らしの俺の家には、俺のためのトイレがついている。俺だけのためにね。
もちろん客がいて、客が望むのであれば、そのトイレは快く貸し出すよ。
客が・・・居ればね。
昨日の夜中に我が家のトイレを使うのは、俺だけのはずなんだ。
なんでノックなんてしてしまったのかは、わからない。
ただ、ノックは、 返ってきたんだ。
俺はその晩、頭まで布団にくるまって震えたよ。
酔いなんて一気に冷めちまって、一睡もできなかった。
っという訳だから、俺はしばらく家には帰らない。
当分の間、お前の家に厄介なるつもりなんで、よろしく頼む。