第八話
最初に沈黙を破ったのはウィルだった。
彼は少し考えた様子でアレンを見て言葉を紡ぎ始める。
「アレン、此処はお言葉に甘えましょうよ?復旧までいつまで掛かるか分からないですし……」
ウィルの賛成にノエルは嬉しそうな表情を浮かべて彼の腰に肘を突いた。
「あら、銀髪のお兄さんもいいこというじゃない。そうよー。折角私がアレンの為にと思って言ってるのにー」
ノエルの言い方にアレンは内心少しムッとなるが、確かにウィルの言うとおり復旧までにいつまで掛かるか分からないのだ。
此処でじっとしていたらアレシアに着くのが遅くなってしまうだろう。
「はぁ……。お前に借りを作るのは嫌だったんだが。状況が状況だしな。頼むよ」
「本当!?じゃあちょっと待っててね!」
まだアレンは何処となく嫌そうな顔を浮かべていたが、ノエルは嬉しそうな表情を浮かべ、すぐさま部下を呼び出し何が何でも直ぐに車を手配するように、と命令したのだった。
――数分後。
三人は駅のホームを抜け駅前広場へとやってきた。
彼女の命令通り、広場の前の道路には「フィオナ第一警備隊」と書かれた一台の青い車が止まっている。
「本当にありがとうございます。助かりますよ」
「ううん。車一台貸し出すぐらい大丈夫よ。ウィルさん。さ、二人とも乗って乗って。本当は私が運転してあげればいいんだけれど、此処の事後処理やらなきゃならないから……」
心の底から本当に申し訳ないと思っているのだろうか、彼女の表情は先ほどとは違い少し沈んで見える。
「ったく……色々大変だろうけれど、無理せず頑張れよ。ノエル」
そんな様子を見兼ねてアレンは後ろを向いたまま彼女に聞こえるか聞こえないぐらいかの声でぼそりと呟いた。
「えっ……?うん……。分かってるよ」
まさかアレンからそんな事を言われると思ってなかったのだろう。
ノエルは頬を少し赤らめ俯いたままそう答えた。
そんな二人の様子をウィルは微笑ましく見つめながらも先に車に乗り込む。
実は彼なりの気遣いだったのがアレンは先に置いていかれると思って勘違いをし慌ててウィルの後に続き、車に乗り込んでしまった。
折角のチャンスだったのに、とウィルは思いつつも乗ってきたアレンのために右に寄り席を空けドアを閉めた。
二人が乗ったのを運転手は確認した後、エンジンを掛け車を動かし始める。
そして彼らは車の窓を開け、ノエルの姿が見えなくなるまで手を振り続けたのだった。