第七話
「この方とはお知り合いなんですか?アレン」
突然の出来事にウィルは口をあんぐりさせており、上手く状況が飲み込めていないらしい。
アレンは嫌そうな表情を浮かべると、目の前にいる少女について説明し始めた。
「ああ、こいつはノエル・イザベラ。まあ、何だ?腐れ縁って奴だな」
吐き捨てるように言うアレンに対して少女――ノエルは気に入らなかったらしく頬を膨らませ、アレンの背中を少し強く叩いた。
まるで鞭を打ったかのように威勢のいい音が辺りに響き渡る。
何が起こったのかと驚き、作業をしていた隊員達はこちらに視線を向けた。
「痛ッ!何するんだお前!」
そんな様子に気づくはずもなくアレンは小さく悲鳴を上げ叩かれた背中を手で擦り、ノエルを睨みつけた。
余程、強く叩かれたのか少し涙目になっている。
そんな彼をノエルはちらりと横目で見やり右手を頭で抱え、はぁ……と溜息を付くと、何処か呆れた口調で言葉を続けた。
「もう……違うでしょう!私とアレンは幼馴染なのに……。どうしてそんなに素直になれない訳!――ところで、隣にいる銀髪の美青年の方は?」
ノエルはさっきの膨れっ面の表情から一変、嬉しそうな表情を浮かべ、未だ背中の痛みに唸っているアレンの横腹に右肘を突きながらそう尋ねた。
未だに彼は、お前手加減とか知らないのかよ……とぼやきつつも隣に居るウィルを見据えて簡単に紹介をし始めた。
「ウィル・アーヴィン。僕のパートナーだよ」
そう言われ、ウィルは軽くノエルの方を見据え軽く会釈をし、
「ウィル・アーヴィンです。どうぞよろしく」
と長い銀髪を揺らしノエルに向かって微笑を浮かべた。
彼女もそれに倣い、警備隊のシンボルである羽の付いた帽子を取り外し笑顔を浮かべ軽く会釈をする。
「そうなんですか!いやぁ、かっこいいですね……。本当、誰かさんと大違いで」
「何だと?」
ノエルは帽子を持ったまま少し意地悪な笑みを浮かべて、アレンを見やったことに気が付いたのか、未だ背中を擦りながらも彼は彼女をまた睨みつけた。
「まあまあ、お二人さん……」
これ以上不穏な空気にさせないためにも間にウィルが割って入り二人を宥める。ノエルとアレンは未だ不満そうな表情を浮かべながらも彼の言葉に従うのだった。
◇◆◇
「……と言うわけなんだが」
今回のアレシアの事に関しての簡単な説明を終えた後、ノエルは持っていた羽根が付いた帽子を弄びながらアレンの説明を軽く聞き流していたようだった。
あまりにもその態度が聞いているようには思えなかった為、アレンは訝しげな表情を浮かべノエルの方を向いて尋ねる。
「お前、本当に聞いてたのか?」
「聞いてたわよ、ちゃんと。要はあんたがドンパチやらかして列車が使えなくなってアレシア方面へ行くのが難しくなったってことでしょ?」
「あ、ああ。まぁ、そう言うことだな」
アレンは頭の四隅の何処かで言葉に引っ掛かりを覚えながらも頷き帰す。
彼女は情報を統括するのが職業なだけであって要点要所の所だけは掴めているらしい。
その時、何か閃いたのか彼女の口からとんでもない言葉が発せられた。
「じゃあ……、私の警備隊の車使えば?」
「は?」
一瞬、アレンとウィルは顔を見合わせ驚いた表情を浮かべその場に立ち尽くした。
アレンはあのなぁ……とこめかみをビクつかせ右手を頭に当てながらも言葉を続ける。
「僕達が警備隊の車を勝手に乗り回せると思う?第一、他の組織から何か借りる時にはこっちの上の幹部からの許可が必要で……」
「だから、警備隊の中で一番偉い私がいいって言ってるじゃない。あんたの組織のお偉いさんには私が話を付けとくから。それでいいでしょ?」
あまりにもノエルの言葉があっけらかんとし過ぎていて二人は黙ってしまう。