第四話
「どうやら、ヴィオラを抜けて、第二工業都市のフィオナの近くまで来たみたいですね」
「ああ。そうだな。だが、フィオナだったらアレシアまでまだまだだろう。先は長いな」
「そうですね」
第二工業都市とあってか、工業の発達が他の地域に比べてめまぐるしいようだ。
工場からは常に煙突から煙が出ており、工場の中で人々が汗を流し働いていることは何となく想像できる。
他の地域ではまだ未発達な階段が動いて人々を楽に移動させる技術のエスカレーターや
今までの無線回線から、高速に大量のデータをスムーズに送れる光通信といったものまで日常的に使われているらしい。
「工業都市とあってか、色々と発展しているみたいだな。ヴィオラからこれだけ近いのに
仕事に関係していなかったこともあってまったく行ったことがない。今度機会があったら行ってみたいものだな」
アレンはそう言って窓の外に広がる景色を眺めながらも、袋に入っているもう一つのサンドウィッチに手を伸ばそうとしたとき、突然、大きな爆音と共に列車内で激しい揺れが起こった。
列車は爆音と共に停車したようである。
その時、激しい音を立て黒い布で顔を隠した数人の男が列車のドアを薙ぎ倒し入ってきた。
ある男は乗っていた乗客に向けて銃を構え、またある男はナイフを乗客の首元に当てつけ動けなくさせている。
「おい、てめぇら動くんじゃないぞ!動いたら……こうするぞ!」
リーダー格と思われる男は持っていたライフル銃の銃口を上に向け一発放つ。
その銃声音に乗っていた乗客らは身震いをし、悲鳴を上げた。
「五月蝿い!黙ってろ!」
男は上にもう一発銃を撃ち、乗客を静かにさせ、同時に持っていた黒い袋を持ち出した。
「ふん……。中々聞き分けのいい奴らじゃねぇか。次、悲鳴を上げたら唯で済むと思うなよ?」
ニヤリと不気味な笑みを零し、近くにいた男の仲間を呼び寄せ集める。
「おい、乗客から金目のものを取って来い!」
了解したという面持ちで男の仲間数人が一斉に散らばった。
彼らは前方車両から周っていき、乗客の首に武器を突きつけ、金目の物を奪い去る。
空っぽだった黒い袋の中には次々と金の懐中時計や貴金属などが集められていった。
そして、男達はアレン達が座っている後方車両に向かって来ている。
「こちらに向かってきてますね。アレン……ってこの場に及んで何しているんですか」
男達に聞こえないようアレンの耳元で声を潜めて言うウィルだったが、アレンはさほど気にしてない様子で、外の景色を眺めながら黙々とサンドウィッチを食べ続けている。
「ん?なんか言ったか?」
彼は食べている口を動かし、向かい側に座っているウィルに視線を向けたが、今、彼が言ったことを全く聞いていなかったらしい。
「いえ、何でもありま……」
ウィルは額に手を当て、溜息をつきそう言おうとしたその時、
「おい、てめぇら、金を出しな!」
男が武器をちらつかせ物品を要求してきた。
彼らは一番後ろに座っていたアレン達のところまで来たらしい。
早く金品を手にして逃走したいのか二人に武器を突きつけ、急かした口調で言う。
ウィルは男達に逆らわないよう持っていた持ち物を男達に渡す。
しかし、アレンだけは恐ろしいぐらい黙々とサンドウィッチを頬張っており男達の方すら見ていない。
「おい、さっさと出しやがれ!」
首元にナイフをちらつかせ、催促するがアレンはまるで聞こえていないかのように無視をしている。
「お前、死にたいのか?だったら望みどおりにしてやるよ!」
その姿に男は怒りの頂点に達したのか声を荒げてそう言うと、ナイフをアレンに向かって振り下ろした。
◇◆◇
「調子扱いているのもいい加減にしろよ?」
ナイフが振り下ろされる寸前、アレンはサンドウィッチを銜えたまま、男のほうを見向きもせずに腕を掴み、動きを止めていた。
「なっ……!」
突然の出来事に男は動揺を隠せない。
なぜなら、彼はこちらを見向きもせずにナイフを止めたのだから。
「く、くそぉぉぉぉおおお!」
逆上した男はもう片方の手でアレンに殴りかかろうとするが、その寸前に彼はもう片方の手で男の鳩尾に殴りを入れた。
同時に男は意識を失い地に伏せる。
その様子を見てか、仲間の男達は乗客たちに武器を突きつけていたのをやめてアレンの方に視線を向けて武器を構える。
仲間の人数はざっと四、五人程度だろうか。
人数は少ないながらも武器は中々のものを備えている。
「さぁ?武器を持ってないお前らに俺達に勝てるかな?」
挑発とも取れる男らの発言に対してアレンは食べていたサンドウィッチを机の上に置き、不敵な笑みを浮かべた。
「勝てる?笑わせんな。お前らなんか敵の数に入ってねぇんだよ」
「何だと?てめえ、調子乗ってんじゃねぇぞ!」
銃を持った男達はアレンに向かって数発の弾丸を撃ちこむが、まるでアレンは軌道を読んでいるかのように降り注ぐ銃弾を避けていく。
幸いにも、この車両には他の客は乗って居ない為、流れ弾があたることはないだろう。
「くっそ!何故当たらないんだ!」
苛々した様子で無我夢中で銃を撃ちつける男達。
しかし、当のアレンはその様子を楽しむかのように男達の攻撃を避けていく。
「お前らと僕じゃ格が違いすぎるんだよ」
「!?」
その瞬間、アレンの姿は男達の前から消え去る。
そして、ある男が後ろを振り向いた瞬間、アレンの蹴りが男の腹に入り持っていた銃を手放し苦しそうな表情で地面に手をつく。
あまりにも自分達との格の違いに青ざめた表情で男達は唯呆然と見ているしかない。
「お前……。何者だ」
短刀を手に持った男は青ざめた様子でアレンを見つめてそう尋ねた。
アレンは身を翻して男のほうを向くが目が笑っていない。
「誰?『冷酷のアレン』と言ったら分かるかな?」
「冷酷のアレン!?」
残っていた男達の仲間はさっきの青ざめた表情から一変、驚きの表情へと変わる。
「こいつ、ソルドの奴だったのか。だったら尚更だ……。皆、こいつをやっちまえ!」
未だ、青ざめた表情を浮かべながらも残っていた男らは武器を手にして、アレンへと一斉に襲い掛かってきた。
「ちっ……。汚い奴らだ」
舌打ちをし、コートを翻すと腰に付けてある近距離用の短刀を取り出し構える。
それと同時に短刀を持った男はアレンに切り付けかかろうとするが、彼はそれを流し後ろへと回り男に短刀の嶺の部分を勢い良く男の首元に入れる。
「っ!」
首元を強く打ち込まれた男は瞬時に意識を失い地に失せるが、同時に二人の男がアレンの背後に回りこちらへと向かってきていた。
(しまった!)
そう思ったときにはもう遅く挟み撃ち状態になり二人の攻撃はアレンの方に直撃するかと思えたが、一向に二人の攻撃が彼に来ることはない。
アレンは瞑った目を開けると、彼に襲い掛かろうとしていた男二人は武器を手に持ったまま倒れていた。
「もう……アレンがやっていることを見てるとこっちがひやひやしてきますよ」
倒れている男たちの後ろを見ると、彼のパートナーのウィル・アーヴィンが銀髪を揺らし澄ました顔でこちらを見据えていた。
「……ウィル助かった」
起き上がり安堵の表情を浮かべ、そう言うアレン。
ウィルは男達の後ろに回り、彼が愛用している長剣の柄を使い男の首元に殴りこんだようだ。