表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/43

最終話

世界中の空が元に戻った頃。

フィオナにある警備隊の通信機能は回復し、直ぐに本部から人が要請され、街の入口で倒れていたミヤビと森の中心部で倒れていたアレンは直ぐ様病院へと運ばれた。

その容態は芳しくなく、医者からしてみれば二人共、命を取り留めていたのは奇跡ということらしい。

駆けつけたアドルフ達によって、街中は沈静化されたが、それまでの日数にかなり時間が掛かってしまった。


――そして、世界滅亡危機から一ヶ月。

入院生活はとても退屈なもので、絶対安静と言われているアレンは未だに病院の中を歩きまわることは出来なかった。

ベットの上で横になり、徐々に復興しているフィオナの街並みをニュースで眺めながらアレンは大きく息を吐き出す。


彼は未だに思い悩む時がある。

あの時の記憶は本当に現実だったのか、と。

そもそも、星脈術とやらがある事自体、オカルト的話にしか過ぎず、あの日に自らの身に起きた出来事をまだ信じられてなかった。

夢と思えばそれでも構わないだろう。

だが、それを否定すると、自分の姉の存在を否定するような気持ちになるのだ。


一体、どうしたものかな、とアレンは再び天井の方へ頭を上げると、ドアのノック音が響き渡った。

どうぞ、と彼は声を掛けると、そこには手や足に軽く包帯を巻き、病院着姿のミヤビが入ってきた。


「もう動いてもいいのか?」


「ああ。シェリーが使った癒しの力のおかげで一命は取り留めたし、回復も異常に早かったようでな。今週の検査結果によっては来週にでも退院出来るそうだ。ただし、修行に戻れるのはまだ先になりそうだがな」


そうか……良かったな、とアレンは言うと、そのまま黙って天井の方へ顔を向けた。

その表情に何か彼女は気がついたのか、アレンのベットに近づいて座ると、覗き込むようにして彼の顔を上から見下ろした。


「うわっ!?何だよ……」


「それはこっちの台詞だ。何か悩んでるんじゃないのか?」


図星の突かれ、思わずアレンは表情を曇らせながらも、深呼吸をし、彼女の方へ振り向くと、言葉を紡ぎ始めた。


「あの時の出来事は本当に現実だったのかな、って思ってさ」


「……街中の人々はあの神による封印の反動で、あの日の夜の記憶が曖昧になっているが、間違いなくあれは現実に起こったことだ。まさかとは思うが――アレンはあの時の出来事を後悔しているのか?」


予想外の言葉だったのか、アレンは驚いた表情を浮かべ思わず彼女の方を見据えた。

意味が分からないと言わんばかりに彼は怪訝そうな表情をすると、それを見かねた彼女はそのまま言葉を続ける。


「シェリーがそのまま冥界へ帰っていった時、何故、自分は追いかけていけなかったのか、とでも考えているのかと思ってな。私の思い過ごしならそれで構わないんだが」


彼女の言葉で何かに気がついたようにアレンは表情を一変させた。

そうか、あの時、たくさんの記憶が生まれたのは――僕に、選ばせるためだったのか。


死んだシェリーと共に歩む道と仲間と共に人生を歩む道。

その二つの道を見せることによって、僕という存在がどちらに行くのか試したと言うわけか。


全く、趣味の悪いことだな、とアレンは思い、自嘲気味に笑みを零す。

しかし、彼女は何故アレンが笑っているのか分からず、何か思い出したのか?と声を掛けた。


「いや……思い出したのは、皆との記憶だけさ」


◇◆◇


「全く……。外に出ると体力が消耗するっていうレベルじゃないわね」


暗く湿った地面と獣のようなざわめきが辺り一帯と響き渡る。

此処は、言わずと知れた冥界の地であり、生者は入ることすら許されない禁断の場所。

その場所に似つかわない、質素でありながら綺麗な服を着た少女は、城の外へと続く道へ歩き進めていた。


「まあ、あの神は冥界の王が責任を持って監視するって言ってたし……。もうあの世界が脅かされる事はないわね」


何処か安堵した表情を浮かべながらも、少女は少し寂しそうに目を細める。

僅かな時間ながらも、冥界の王の力を借りて地上に出た彼女は、自らの足に感じた地の暖かさが未だに感触として残っており、今のように思い出せる程とても暖かいものであった。

だが、生者としての時間はもう残っておらず、此処で冥界の仕事をするか、天界へ行ってひたすら退屈な日々を過ごすかのどちらかしか残されていない彼女にとって、彼らが住まう地上の世界は楽しくもあり、羨ましい物でもあった。


「アレン……凄く成長してたな」


最後に彼の姿を見たのは十年前。

彼女が死ぬ時にみた、悲しげな表情だった。

その表情をさせた原因であるシェリー・ハロルドは、死してなお、己が今まで行った行為の後悔と悲しみが一気に襲いかかってきた。

その力は絶大なものへと発展していき……危うく悪霊と化そうとしていた時に今の冥界の王に助けられたという一存がある。

そして、現在の彼女は冥界の王の手となり足となり、自らに残っていた魔力を駆使して、悪霊の排除と、此処に住む獣の面倒を一気に引き受けているのである。


『やはり……君は地上の世界へ未練があるのかね?』


シェリーの背後から一つの声が聞こえた。

彼女は振り向くと、その存在に向かって、いいえ、と否定の言葉を口にする。


「確かに私はもっとあの世界で過ごしてみたかった。でも、もう私は生きられないんです。生者じゃなくて死者だから」


『しかし、私の力を持ってすれば、君を一時的に帰還させるだけでもなく、肉体を創りだして、あの世界で生活させる事だって出来るだぞ?』


その言葉に彼女は、貴方も意地悪ね、と笑みを零すと、後ろにいるその存在に向かって再び話を紡ぎ始めた。


「もう答えは出てるじゃないですか。貴方があの子に見せた、道しるべの世界であの子は仲間と共に生きることを選んだ。失ったものはもう帰ってこない。それに、肉体に魂を乗せて生活させる行為は言わば転生すること。その人自身を生き返らせることではないんでしょう?」


もっとも、今回の件に関しては貴方の力でしてもギリギリだったんじゃないですか?と彼女はソレに向かって言う。

完璧な答えにその存在は黙りこんでしまうが、少し考えた素振りを見せるとソレは彼女の隣へ並んで再び話を始めた。


『全く……その鋭い勘は私も圧倒させるほどだな。お前は本当に補佐にふさわしい存在だ。何故、私の補佐とならない?』


「もうちょっと自由に遊んでみるほうが私にとっては楽しいですしね」


『やれやれ……。本当にお前はよく分からない存在だな』


じゃあ、次の仕事、頼んだぞ、とその存在は彼女に言い残して、反対方向の道を歩き始めた。


「了解しました……。冥界の王・ハデス様」


冥界の王に続いて足取りを進めると、次の仕事場へ行くために正門の扉に手を掛けたと同時に彼女の姿は何処かに消えてしまった。


◇◆◇


「アレンさん、お久しぶりです」


いつも彼の隣でデスク作業をしているスコットは復帰したアレンにそう声を掛けた。

後から聞いた話によれば、今まで仕事を怪我した中で一番酷く傷を負っていたらしく、リハビリを含め、退院までには半年ほどの月日を要してしまった。

倉庫内で倒れていたウィルとノエルは命に別状もなく、一ヶ月も立たない内に復帰してしまったらしい。

組織の皆が、アレンの退院祝いの言葉を掛けている中を通りぬけ、いつもの仕事場所へと席に着く。


「アレン、退院おめでとうございます」


いつも通り、綺麗な銀髪を靡かせ、こちらに近づいてきたのは、パートナーであるウィル・アーヴィンだった。

彼は書類をアレンに、今日はこれだけこなして下さい、と言って数十枚の紙と判子を手に渡した。

まさか、と思いつつもアレンは中身を見ると、長く書いてある文章が立ち並び、最後に判子を押すように書いてある紙がいくつもあった。


「書類整理は苦手なんだけどね」


「今日はアドルフさん、出張で居ないんですよ……。それに、暫くは実戦はさせずに事務処理させる、って言ってましたし。苦手な物は普通レベルまで引き上げるのがアレンのポリシーじゃありませんでした?」


「分かったよ。全く、お前に何言っても敵わんな」


苦笑いするアレンは早速作業に取り掛かった。

既にアドルフのサインとチェックが入っている紙をめくり、テンポよく判子を押していく。


「おっと……。インクがもう無いじゃないか」


アレンは引き出しを開け、判子のインクを取り出して継ぎ足そうとした時、ふと自らの机の上に置いてある電工時計が目に入った。

その表示されている日付を見て、ああそうか、とアレンは思い出したかのように小さく呟く。


「今日は……姉さんの命日だ」


彼が退院し、現場に復帰した日は奇しくも自らの姉の命日であり、その日は一日中、晴れ渡り、まるで空からアレンの復帰を祝っているかのようだった――


あとがき。


此処まで読んで下さりありがとうございます。

作者の雨音ナギです。

連載し始めて、約三年。

ようやく完結させることが出来ました。

いや、正直言ってちゃんと完結させる事が出来るとは思ってませんでした(笑)

多分、これで二作品目になるんじゃないでしょうか。


当初の小説のテーマは「復讐」

本当はもっとドロドロした主人公物を書こうと思ったのですが、中々難しく……。

なら、主人公が求める物を「真実」にしちゃえ、と言うことで途中からこうなりました。すみません……。

でも、個人的には最後の話を変えた割にはこういう結末もありだったんじゃないかな、と感じております。

オカルト・魔法・超能力物が好きな私にとっては、工業都市をテーマにした小説を書くのは正直しんどかったりしました。

魔法物が書きたくて書きたくてしょうが無い衝動に駆られるときもありましたしね。

もっと、舞台沿った物を沢山登場させるというのが次作品からの課題です……。


さて、続編という事なんですが、今のところ全く考えていません。

ただ、一年前から放置している、サイドストーリーのEin Band der Rache -another story-の方を更新していこうかと思います。

登場人物たちの昔話をメインに書きたいな、と思っている所存です。

更新は相変わらず不定期になると思いますが、また読んでいただけると嬉しいです。


次作品は、もう一つの幻想世界の方をメインに、そして、たまにanother storyの方を更新していこうかと思っておりますので、よろしくお願いします。

最後に……この作品を読んでいただきありがとうございました。


2012.2.12 雨音ナギ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ