第三話
「遅いですよ、アレン。待ち合わせ時刻から既に十分経過してます」
待たされて不機嫌なのか少し苛立っている声音でこちらに走り向かってくるアレンに対してそう言った。
彼は申し訳ない表情を浮かべ紙袋を持ったまま、悪いなと一言いって、軽く頭を下げた。
「ちょっとお腹が空いてこれ買ってたものだから」
彼は自分が持っていた茶色い紙袋を指してウィルに見せた。
何が入っているのかと思い、ウィルは茶色い紙袋の中身を覗き込む。
袋の中身を見た瞬間、彼は驚いた表情を浮かべた。
「サンドウィッチ?それにやけに大きいサンドウィッチですね」
確かに普通のサンドウィッチよりふた周り大きい。
例えて言うとすれば、ハンバーガーのビックサイズぐらいだろう。
その大きいサンドウィッチが四つも入っているのだ。
驚くのも無理は無い。
驚いている彼をよそに、アレンはサンドウィッチが入った袋を持ち直し、再び話し始める。
「これ、ミックスサンドって言って、結構美味しいんだ。向こうに着くまで此処から数時間は掛かるだろう?丁度いいと思ってさ」
待ち合わせ時刻に遅れ、その理由がサンドウィッチを買っていたという事実にウィルは小さく溜息を付くしかない。
「まったく……。もうそろそろ列車の出発時刻になりますから、急いで四番ホームに行かないと間に合いませんよ?」
ウィルは紙袋を持ったアレンをちらりと横目で見やり、人を掻き分け駅のチケット売り場へと入っていく。
「って……ちょっと待てよ!」
彼の少し冷めた態度に若干焦りを覚えながらも、アレンは置いていかれないよう周りがたくさんの人が行きかう中、早足でウィルの後について行った。
「特急の北のアレシア方面です……。いや、二人です。銀貨二枚ですね」
アレンはウィルの姿を追っていくと、既に彼はチケット売り場で特急のアレシア行きのチケットを購入しているようだった。
ウィルは小窓の向こうにいるチケット販売員に銀貨二枚を手渡し、二枚の赤色のチケットを受け取ると、こちらに向かって走ってきたアレンに手渡す。
「チケットは買っておきましたよ。さて、四番ホームへ急ぎましょうか」
「あ、ああ」
見失わないように走ってきたせいかアレンは荷物を持ち、肩で息をしながら、四番ホームへと続く階段をウィルと共に一歩づつ降りていく。
ホームに着くと、黒く風情を醸し出した大きな列車が止まっており、今か今かと出発を待っていた。
アレン達は乗車口の前にいる駅員にチケットを手渡し、切符を切ってもらった後、すぐさま列車に乗り込むと、彼らの乗車と同時に列車のドアが閉まり、一歩ずつ加速し始め列車は動き始めた。
「何処に座る?」
「ここら辺にしましょうか」
列車が発車した後、彼らは前の車両から最後尾の車両へと移動し、机を隔てて向かい合って席に座り腰を下ろしていた。
今回乗った列車は、昔使われていた在来線の黒い列車の為、少し揺れが気になるが、二人は構わず話を続けている。
「じゃあ、食べるか」
そう言ってアレンは持っていた茶色い紙袋を机の上に置きサンドウィッチを取り出し、ウィルに手渡した。
「ありがとうございます、それにしてもこのサンドウィッチ本当に大きいですね……」
「ん、まあな。二つ食べたら夜まで持つと思うぞ?まあ、食べてみなよ。美味しいから」
笑顔でアレンにそう促されてウィルは一通り見回すと大きなサンドウィッチを両手で持ち。一口食べる。
すると、ウィルの表情はさっきまで不機嫌だった表情がたちまち明るくなった。
「確かに……!これは美味しいですね」
「だろ?やっぱり、メリーさんのサンドウィッチが一番だな」
アレンも袋からサンドウィッチを取り出し、これでもかというぐらいに頬張り食べ進めていく。
二人がサンドウィッチを食べ進め、一つ目の長いトンネルを抜けた頃、列車の景色はいつも見ている穏やかなヴィオラの景色ではなく、工業的な建物が立ち並ぶ景色に変わっていった。




