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第三十六話


レクシメンスはその様子に興味深く眼差しを示し、エルザとアマリエはそれぞれの形で向かってくるアレンに対して戦闘態勢に入る。

一番最初に攻撃を回したのはアマリエだった。

彼女は大剣を構えて体を捻って跳躍すると彼に向かって攻撃を振り下ろすが、対するアレンはまるでその攻撃を見切っているかのように直ぐに避けてしまった。


(――何よ、この動き……!)


いつも非道なぐらい冷静なアマリエだが、この時ばかりは焦燥感を感じさせずには居られなかった。

彼女は自らの頭身ほどある大きな剣を携え、隙のない攻撃を突いていくが彼は子どもと遊んでいるかのように軽い調子で攻撃を受け流す上、その速さも尋常ではなく彼女はアレンの姿を追うのがやっとだった。


(これじゃ、埒があかない)


まだ戦闘が再開してから数分足らずであるが、彼女の体力は既に疲弊し始めていた。

アマリエは仕方なしに隣にいたエルザに目配せすると、それに気がついた彼は先ほど発動前にやった動きを止める術を発動させるが彼には全く効かない。


(何だと!?)


己の力に絶対的な自信を持っていたエルザは術が効かないことに驚きを隠せずにいた。

シェリーが自らの体を使い、戦闘を繰り広げられている光景にアレンは内心舌を巻いていた。

流石だな、とアレンは自らの内にいるシェリーに対して言うと、彼女は当然とばかりに言葉を返した。


(あの女の動きは確かに隙が少なく動きを掴みづらいが……。本人が自覚していない程の僅かな癖がある)


指摘され、アレンは思わず自らの視界に広がるアマリエの攻撃を見るが、癖らしい癖は見当たらない。

強いて分析するならば、己の攻撃時に動作を絞り、相手に隙を与えず攻撃を受け流している事ぐらいだろう。

アレンはそれ以外には考えれない、と呟くと、彼女は目の前の者に対して冷静な口調で話をし始める。


(彼女は高い確率で身を翻しながら相手の攻撃を弾き返している。身を翻すのは、攻守共にとても有効な方法だが、一瞬、相手に背を向ける事になりあまり多用することは好まれない。だが、この女は自分に絶対的な自信を持っているからこそ、ああいう動きをするのだろうな)


アレンの実戦経験もそれなりに自信はあったが、彼女に指摘された癖に彼は気が付かなかった。

彼の感情に気がついたのか、彼女は生徒に対して教えるような口調で言葉を紡ぎだす。


(まあ、お前もまだまだ経験不足って事だ。だが、しかし――)


途中でそう言うと、アレンの体を操っているシェリーは持っていた剣を僅かに宙に浮かせ持ち直し、攻撃を落とそうとしながら足を少し上げて彼女の足元へと入れた。

その動作は通常に呼吸を行うぐらいのほんの少しの瞬間で繰り広げられ、アマリエの足元は完全に掬われてしまう。

彼女がバランスを崩して地面に体を落とすとシェリーはそのまま追撃を行うと、腰にかけてあった二つの短剣を取り出し彼女の両手と両足に突き刺した。

嫌な音が走り、激痛が走ったのか彼女の顔は痛みに歪ませ、悲鳴を上げて、気を失ってしまった。

暫くは目を覚まさないだろう。もし、覚ましたとしてもこの重症の傷ではまともには立ち上がれずに戦うこともままならないはずだ。

シェリーはそんな事を考えながら目の前に倒れている敵の姿を冷たく見下ろすと、言い掛けていた言葉の続きを再び言い始める。


(運動神経と攻撃センスは悪くない。寧ろ、この感覚は私が生きていた頃に使っていた自分の体に近い状態だろう。伊達にソルドでの二つの名を持ってはいないって所か。

才能はあるんだから、後はもっと様々なスタイルの攻撃方法をを学んで戦術とセンスを磨くことだな)


お前はまだ、勘に頼りすぎているという彼女の指摘に、アレンは思わず内心で苦笑いを隠せない。

実際、アレンの戦闘では己の直感を使い、手持ちの武器を駆使して使うという事が多かったからだ。

彼の気持ちを汲み取ったのか、シェリーは、勘を使うなとは言っていない、と言葉を置くと再び彼の意識の中で話をし始める。


(己の勘は重要だ。だが、それに頼りすぎていたら咄嗟の事態にも対応できない。今回のような事例でな。自分の攻撃をどうやって効かせるかと考えるのではなく、相手の能力を使って出し抜くかという攻撃スタイルにした方がいい)


アレンは綺麗に体を着地させ、フォームを整える。

まずは一人、と中にいる彼女は呟くと、エルザとレクシメンスがいる方へと視線を向けた。

中央にある黒い人型物体は徐々に形が現れており、完成されるのももう時間の問題だった。


(まずいな……。これ以上は待っていられない。次は操っているあいつを倒すしか――)


彼女が次にエルザに攻撃を定めて動こうとした時。

突如、大きな笑いが響き渡った。

その声の主はエルザで、狂ったように目を開き、アレンの姿を見下すように眺めている。

隣にいたレクシメンスは彼の突然の笑い声に驚いた様子を浮かべているようだった。


「私の攻撃の術が効かないとは……。流石、脈術を学んだ者は違いますな」


対するシェリーはその表情を見るやいなや不快感を露わにし、言葉を吐き捨てる。


「その顔、いつ見ても気持ち悪いな。お前の攻撃は単純すぎるだけだ。そんなもの、脈式の逆転でどうにでも止められる」


「ほう……。今は弟の体に憑依させてやっと動けるだけのか弱い人間が私に勝てるとでも?それは傑作ですな」


不気味さが増した表情を浮かべたエルザは満足したようにアレンを見据えると、隣にいたレクシメンスの腹部をナイフで突き刺した。


「なっ……!?」


流石に予想外の出来事だったのか、エルザ以外の彼らは驚いた表情を浮かべた。

刺されたレクシメンスは痛みで地面に膝をついてしまう。

思ったよりエルザは深く突き刺したのか、彼の辺りには純血に染まった液体が広がっていく。


「エルザ、お前、何を……!」


ひどく驚いた様子でレクシメンスはエルザに対して問うが、彼は面倒くさそうに突き刺したナイフを弄ぶと血走った目で倒れている上司に対して気味の悪い笑みを零しながら落ち着いた口調で話を始めた。


「レクシメンス様、グラディウスの力を増幅させるための物って何か知っています?」


ニヤニヤと笑みを浮かべている彼に何か気がついたようにレクシメンスは息を飲んだ。

お前……まさか……と彼は酷く蒼白した様子で言葉を紡ぐが、エルザは全くと言っていいほど聞く耳を持たない。


「自分だけ代価なしで物を手に入れようなんて……美しくないですもんね」


エルザは右手を差し出し、何かの力を込めた。

その力は倒れているレクシメンスに対して反応し、彼の体は中央に降り立っているグラディウスの元へと飛ばされていく。


『……』


中央にいるグラディウスは飛ばされたレクシメンスの姿を見ると黒い手を差し出し、口に入れると壮絶な悲鳴と絶叫を上げながらも徐々に飲み込まれていき、完全に彼の声は聞こえなくなった。

恐らくあの状態では彼が生きている保証は皆無に等しいだろう。

それと同時にシェリーは、やられた、と舌打ちをして、自らが操っている彼の顔を大きく歪ませた。


レクシメンスを飲み込んだグラディウスの体は完全に形成され、目が大きく開かれる。

空間から巨大な槍を取り出すと、大きな咆哮を上げた。

神の声は反響し、室内にはめられていた窓枠のガラスは全て割れて吹き飛び、建物全体の揺れは激しくなり、天井は打ちひしがれ、コンクリートの欠片が何個か落ちてきた。

幸いにも倒れているノエルとウィルに当たらなかったことに感謝しつつも、アレンは目の前に存在する大きな敵を厳しい面持ちで見上げた。


「畜生、グラディウスが完全に復活してしまった……!」



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