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第三十四話

二人は同時に駆け出すと、アマリエに向かって攻撃を振り下ろした。

しかし、二人を相手にしている彼女は優雅な表情を浮かべ、大剣を片手に持ったまま、腰にかけてあった中距離用の刀を取り出す。

その刃は彼らが持っている刃よりも鋭くて長い。

彼女は大剣を前に出し、長刀を後ろに回すと、彼らの攻撃を同時に受け流した。

二人は攻撃を受け流されたまま、そのまま飛ばされるが、上手く受け身を取って着地すると、目の前で起きた出来事に驚きを隠せなかった。


「おい、大剣と長刀で二つの攻撃を受け流す奴なんて初めて見たぞ」


「私もです……。大剣を持ちながら、長刀を操るなんて……。あの華奢な体のどこにそんな力があるんでしょう……」


全くだ、とアレンは剣を構え直すと彼は隣にいるウィルに告げた。


「冷や汗が止まらないんだが……。僕だけか?」


そう告げるアレンにウィルはいえ、私もです、と言って同意を示す。

彼らの顔色は先ほどとは打って変わって、若干青ざめた表情をしていた。


「今までの中で一番やばい敵に出会ったのかも……」


彼らがこそこそと話している様子が気に入らなかったのか、アマリエは刀と剣を持ったまま、不愉快そうに顔を歪ませた。


「ごちゃごちゃと五月蝿いわねえ。そんなに物足りないのぉ?だったらもうちょっと遊ばせてあげるけど?」


――彼女が、笑った瞬間。

室内の温度が急激に下がった気がした。

勿論、実際には温度は下がってはいない。

彼女の発した殺気がとてつもなく強く、彼らにその圧力がふりかかったからだ。

アマリエは、剣を構え直すと、今度は彼らがいる方へと走りだした。

彼女のスピードは早く、彼らにとっては一瞬の出来事だった。

ウィルは、持っていた長剣を使い、攻撃を受け流そうとする。隣にいたアレンは間に合わないと悟ったのか、攻撃を逸らすように剣を弾かせた。

直撃こそしなかったが、アレンは体制を崩し、攻撃を弾いた剣は地面を擦り合わせ、奥の方へと飛んでいってしまう。

すかさず、立ち上がり、腰にかけてあった二丁拳銃を取り出し、彼女の方へと向け発砲しようとしたその時、後ろから何らかの気配を感じた。


(!?)


アレンは身の危険を感じ、体を動かそうとするが、彼の体は止まったままだった。

彼は首だけを後ろに振り向かせると、背後では神経質そうな男がこちらを向き、睨みつけていた。

男は自らの手を一回捻ると、アレンの体は押し倒され、彼の体はまるで上に重石が乗っているかのように動かなくなる。そして体全体に圧力がかかっているせいか声が出せない。

しかし、彼女の攻撃を受けるのに必死のウィルはまだ気がついていなかった。


「アマリエ、貴女だけいつまでそうやってるおつもりですか」


男の声に気がついたのか、ウィルは彼女の攻撃を警戒しながら周りに意識を向け、彼の方を見やった。

近くにいるアレンは張り付けにあったように体を広げ、そのまま動いていない姿を見て、

ようやく、異変に気づいたウィルは彼女の攻撃の隙をついて、アレンの元へと駆け寄ろうとするが、彼女はそれを許さず、動こうとしたウィルの背後を取ってしまった。

背中に軽く傷を入れられ、病み上がりの彼はその痛みに耐えられず、膝をついた。

彼女は荒くウィルの腕を取り上げて、彼の首元に大剣を差し向けると、声を掛けてきた男のほうへと視線を向けた。


「エルザ、その言い方だと、私が彼らを奪い取って遊んでた、っていう風に聞こえるけど?」


「事実じゃないのですか?」


「ふん……。分かったわよ、あんたの好きにしなさいよ」


エルザの言い方が気に入らなかったのかアマリエは機嫌の悪い口調で言うと、ウィルの背中を蹴り倒して彼のほうへと差し出した。

彼はウィルの方へ視線を向けると、先ほどと同じように右手を差し出す。

そして、振りかざし、一度手首を捻ると、ウィルの体は飛ばされ、ある地点の場所へと落ちた。

彼の体もアレンと同じように、張り付け状態の格好となる。


「後一つ……なんですけどね……」


エルザがそう呟いた時、室内中央部分から何かの光が発せられる。

そして、彼らが眩しい、と思った瞬間、光は消え失せ、そこには二人の人物が立っていた。

一人は赤髪を整え、今は虚ろな赤目を宿している少女と、もう一人はクリーム色の優しい色合いの髪型とは対照的な鋭く黒い目付きを持った中年というには少し若い男が彼らの方に視線を向けていた。

男のほうに面識があるのか、エルザは一歩ずつ彼の方へと足を進めていく。


「レクシメンス様、お待ちしておりました」


エルザは深々と男……レクシメンス・コルネールに頭を下げた。

レクシメンスはもういい、頭をあげなさい、と言って、彼に頭を上げさせる。


「いやいや、君が作った薬が効いたようでね。煩かった彼女も静かになってよかったよ。

此処までご苦労だった。アマリエ、エルザ。予定より少し時間が掛かってしまったが、無事、エネルギー源を確保できて良かったよ。――しかし、あいつの姿は嫌なぐらい彼女に似ているな」


レクシメンスは、張り付けられて動けないアレンの元へと歩いて行く。

睨みつけているアレンを男は嘲笑うかのように、見下した表情を浮かべた。


「シェリーがわざわざ命がけでお前を守ったのに、自ら、源として足を運ぶとは……。馬鹿としかいいようがないな」


「……何故、姉さんのことを知っている?」


アレンは先ほど出せなかった声が出せたことに心のなかで安堵すると同時に、突如、出てきた自分の姉の話題に疑問を持ち、男を睨みつけた。

しかし、彼の問いに男はククク……と気持ちの悪い笑みを浮かべているだけだ。

彼は少し間を開け一息吸うとこれでもかというぐらい口調を上げて喋り始める。


「何故?私がシェリーを殺したからだよ」


その瞬間、辺りの音が無音になった――気がした。

アレンは驚きで声が出せず、思考回路を停止させてしまった。

我に返った彼は、真実を知る人物に近づけたと確信したと同時に、男に対しての憎悪が沸き起こる。


「じゃあ、あの時の追っ手はお前だったのか?」


「いいや、追っ手は私の部下だ。私は一切手を汚しちゃいない」


「貴様……何のために姉さんを殺したんだ!」


あっけらかんとして言う男に怒りが爆発したのか、アレンの怒号がこれでもかというぐらい部屋中に響き渡る。

レクシメンスは思わず耳を塞ぎ、鬱陶しそうに見ると彼の首元を掴んだ。


「あいつらはね、私を裏切ろうとしたんだよ?裏切り者には罰を……。当然の報いだと思わないかい?」


「裏切り……者だと?」


「十八年前、私はこの術式を完成させるために、二人の人物に組織に入れた。

お前の姉のシェリー・ハロルドとあそこにいるウィル・アーヴィンの父親であるヴィクトル・アーヴィンの二人にな。

ただ、この二人は真実にいち早く気づき、シェリーはお前を守るために死んで、ヴィクトルは重要資料を持ち出して摘発するために、そこのアマリエに粛清されたってわけだ」


レクシメンスが淡々と真実を語る口調はもはや事務的であった。

彼ら二人は、お互いの肉親に共通点があったと気づくと共に、今から行おうとしている彼の行動に嫌な予感を感じさせずには居られない。

しかし、彼らの思いに気づくことなく、レクシメンスはエルザに指示を飛ばし、彼女をあるポイントへと連れていった。

丁度、彼ら三人のポイントを繋ぎ合わせると三角形のような形になっている。

レクシメンスは隣にいたエルザにこう言い放った。


「さあ、始めようか――」

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