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第三十三話


その時、後ろから何らかの攻撃が振りかざされ、セレスの体が貫かれた。


「なっ――!?」


目の前の出来事がスローモーションで起きているかのように彼は一言言うと倒れてしまった。

後ろでは、金髪碧眼の女性が血に濡れた大剣を優雅に持ち、不気味に笑みを浮かべながら、沈んだ彼の体を見据えている。


「あら、ごめんなさい……。てっきり、アレンかと思ったわ。この暗闇の中じゃよく見えなくてねぇ」


突然の他の敵の登場にアレンはセレスを睨んでいたのをやめ、銃口を女に突きつける。

わざとらしい口調にセレスは怒りを隠せないが、刺された場所が悪かったのか、反撃して立ち上がる気力は無かった。

悔しそうに彼女の姿を見上げて睨みつけるしか無い。


「アマリエ……。貴様……!」


「ごめんなさいねぇ。これはあの方の命令だったりするの。だから、死んでくれない?」


甘ったるい、かつ冷たい声音を出し、剣を持ち直すと再び力を入れて彼の体を貫いた。

彼の体は攻撃を受けて、少し蠢きながらその動作を完全に停止させる。

彼女の容赦無い仲間の切り捨て行為に、アレンは不快そうに顔を歪ませた。


「お前ら、仮にも仲間じゃなかったのか?」


彼女の余りの卑劣な行為にアレンは怒りを覚えながら銃を持ち直した。

対する彼女は、剣を持ち直すと狂ったように大きく笑い始める。


「仲間?私らを裏切ってあんたに情報を渡そうとしたこいつが?笑わせてくれるじゃない、アレン・ハロルド。いやぁ、此処まで笑ったのは久しぶりだわ……」


彼女はケラケラと気味の悪い笑い方でアレンの方を見据えながらも、地面で息絶えているセレスの何度も剣で貫いた。

その姿に彼は嫌悪感を露にするしかない。


「お前って本当に最低だな」


「最低?冷たい目を宿しているあんたに言われる資格はなくってよ?」


「非情に仲間を捨てるお前と一緒にするな!」


そうアレンは叫ぶと彼女に向かって銃を撃ちつけるが、彼女は大剣を使い、弾を弾き返す。

彼は諦めたように銃をしまい込むと、先ほど使っていた近距離用の剣を取り出し、彼女に向かって走りだす。

対する彼女は来た攻撃を大剣で振りかざし、受け流す。


(ちっ、大剣の影響か……)


彼は彼女の攻撃の反動で、後ろに飛び、一時的に間合いを取ると、遠距離用として持っていた短剣を取り出し家の上の方へと投げつける。

投げられたナイフは真っ直ぐ飛んでいき、彼女の大剣で叩き落された。

そのタイミングを利用し、彼女の元へと踏み込もうとするが、彼の攻撃が一瞬当たる手前で、彼女の姿は消えてしまう。


(!?)


驚いて、後ろに気を回した時には既に遅く彼女の攻撃が迫っていた。

攻撃が当たるギリギリのタイミングで、彼は持っていた剣で彼女の肩を斬りつけ、かろうじて攻撃を逸らす。

対する彼女は斬りつけられた傷をものともせずにこちらへ踏み込んできた。


「前と同じ手は使わせなくってよ?」


彼女はそう言って、大剣を振りかざしながら、彼の足元を蹴り落とした。

アレンはバランスを崩し、倒れこんでしまう。

彼は上からの攻撃を避けようと剣をかざすが、大剣の力が強すぎて、彼女の攻撃を受けるのも時間の問題だった。


「まあ、ある程度は剣術が出来るみたいだけど、面白く無いわね。貴方の補佐のウィルの方がよっぽど強かったわよ?」


「そりゃ、そうだ……。あいつと僕を比べちゃいけないよ。あいつは組織の中で一番の剣術の使い手だからね」


「へえ……。じゃあ、貴方の後釜は全く困らないってことね」


キリキリと迫る攻撃にアレンは冷や汗を覚えた。

このままではまずいと思うが、両手がふさがっているせいか、これといった打開策が見つけられない。

しかし、アレンはこの状況にもかかわらず、いつもの強気な口調で彼女に対して言い返す。


「勘違いするなよ。僕はこのままむざむざと死ぬつもりはない」


「あら、そのセリフ、ウィルの時にも聞いたわ……。ほんと、貴方達って……気持ちが悪いぐらい似たよっているのね!さっさと死んで頂戴!」


彼女の攻撃が更に強まり、アレンの防御の限界を超えてしまったのか、一瞬、彼のところに隙ができる。

アマリエは躊躇することなく、その部分に大剣を振り下ろした。


◇◆◇


甲高い音を立て、何かが弾き飛ばされた。

アマリエは面倒くさそうに舌打ちすると、一旦身を引き体制を整える。

アレンの目の前には、長い銀髪を束ね、白銀の剣を構えた青年が立っていた。

急いできたのかその息は荒かったが、彼はアレンに対し、間に合ってよかったと呟く。


「大丈夫ですか、アレン?」


彼の目の前にいたのはアレシアで入院しているはずのウィル・アーヴィンだった。

青年はアレンの容態を確認しながらも、剣を持ち直し、目の前にいる敵を睨みつける。

彼に助けられたアレンは何故此処にいるのかと言わんばかりの表情を浮かべ、言葉を紡ぎ始めた。


「お前、どうして此処に……。というか何でこの場所が分かった」


連絡があったことは誰にも教えていないはずだ、とアレンは言うが、対するウィルは澄ました口調で彼に返す。


「病院を抜けだして来たんですよ。……始末書覚悟でね。それに、アレンの居場所を探し出す方法は容易かったですよ。『この辺でソルドの服を来た男が、何処かの場所を探して聞いて来なかったか?』と聞いて歩けば、直ぐに見当はつきます」


そんな事より、と彼は彼女の大剣の構えた姿を見据える。

ウィルの目の前にいるアマリエは彼の姿を見た瞬間、アレンとは違った、何処か懐かしそうな表情を浮かべて、こちらに向かって歩き始めた。


「あら……。あの事件以来、入院してたって風のうわさで聞いていたんだけど」


「もう少し休んでいたかったんですがね……。貴女を倒すためなら地獄の果てまで追いかけますよ」


ウィルは彼女に向かって白銀の剣を構え直した。

その目には、強い殺気が宿っている。

状況が理解出来ないアレンは、ウィルの方を見据え、構えている彼に聞いた。


「おい、ウィル、あの女とはどういう……」


「あの人は――。私の父親を殺したんですよ。私が幼かった頃にね」


予想外の言葉にアレンは言葉を失ってしまった。

彼とペアを組んで以来、一度もそういう話が出たことは無かったからだ。

話を聞いて表情が変わったアレンに気がついたのか、ウィルは、今まで黙っていてごめんなさい、といい、言葉を続ける。


「アレンを心配させたくなかったんですよ。この重荷は私だけが背負っていればいい。他人に背負わせる必要はないんです」


剣を携えた彼の表情は少し寂しげだった。

その時、アレンは彼の心情に気づく。

――昔の自分と似ている。真実を追い求め、(かたき)を討ちたいと誓ったあの時の表情に。

そうか、と彼は言うと剣を地面に刺して立ち上がると、ウィルと並んで剣を構える。


「そういう事なら、僕も手伝うよ。一人で背負うより、二人で背負った方が負担も少なくなるしな」


「アレン……」


「お前の重荷、僕も一緒に背負ってやるよ。さあ――行くぞ!」


アレンの合図と共に二人はアマリエに向かってかけ出す。

しかし、彼女の表情は先ほどと同じく何処か憂いの表情を浮かべているだけだった。


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