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第三十二話


日が落ち、森から見える街の明かりが夜の夜景へと変わっていった頃。

突如、地面の上に五芒星の形が浮き上がり、一瞬光ると、一人の男がその場に立ち尽くしていた。

外見に似合わぬコートを着込み、灰色の髪を整え右耳に趣味の悪い十字架のピアスをした男――セレス・クレメンテはある任務を遂行するためにフィオナ郊外にある倉庫へとやってきた。

薄暗い中に佇む倉庫は何処か不気味であるが、その姿を見る度に彼の中にある何かが駆り立てられる。

彼は術を発動するために利用した地面に突き刺したナイフを全て抜き取ると、いつもの懐の場所へとしまい込んだ。


(――いよいよ、か)


アレンをおびき寄せる手段はエルザが上手くやっているだろう。

セレスに与えられた役目は、こちらに来たアレンと戦い、捕まえた後、彼自身の中に秘めてある力を引き出すことであるが、彼は未だにそんな事が可能であるのか信用ならなかった。


(――あの時以来、あいつに教えて貰った脈術は実際に発動したから、非オカルト思考の私でも信用できるようになった。しかし、大地の流れを利用し、自らの体を転移させるぐらいの能力しか持たないこの術に世界の破滅を迎えるほどの力があるとは思えない。『ヴィザード』の連中は一体、何が目的なのだ?)


彼が所属している組織……通称『ヴィザード』はこの国の三大組織とは違う方向性を持っている特殊な組織だった。

メンバーである彼ですら、彼女ら幹部の本当の真意を知らない。

世界を創造させる為に、と彼らは言っているが、それも本当かどうか怪しいものだった。


セレスがこの組織に所属したのは数年前に起こったある事件がきっかけとなった。

重大な事故を起こした責任として、当時所属していたミーティアから追放された時、とある地方のバーでこの組織の長と名乗る男との出会った。

彼は『レクシメンス・コルネール』と名乗り、日陰者としての生活を送っていたセレスの正体を見破っていた。

そして、彼の一生の生活と高額な給料を保証する見返りとして、自らが立ち上げた組織に所属するように条件を差し出した。

当然、昔のセレスにとっては、魅力的な条件であり、断る要素も一切無かったため、二つ返事で、彼の部下として日々、手駒として動いてきたが――。


(果たして、あいつは私の事をどう思ってスカウトしたのだろうか……。その真意は本人のみぞ知るという事なのだろうか――)


そう思考に耽っていたセレスの前にある人物がこちらに向かって歩いてきた。

薄暗い部屋の中ではその人物の顔はぼんやりとしかわからない。

しかし、向こうの持っている光源がこちらに近づき、大きく光るとその人物の表情が映し出された。


「よう、久しぶりだな。セレス・クレメンテ」


組織で支給されている携帯用の黒い懐中電灯を手に持ち、セレスに向けて光を当てていたのはアレン・ハロルドだった。

だが、真紅の瞳に映っている目は冷たく、その表情は誘拐されたノエルに対しての怒りに満ちていた。

姿を見る限りでも、彼が相当、憤りを感じていることは、セレスにとって肌に感じるぐらいよく分かる。


「約束通り、一人で来たか。てっきり、約束を破って数人の仲間を連れてくると思っていたのだが」


「見くびるなよ。僕はそこまで弱いやつじゃない」


「――罠とわかってこっちに来たのか?」


暗闇の中で不気味に笑うセレスにアレンは吐き捨てるように言い返す。


「正直、この倉庫に来るまで、罠だとは思わなかった。まさか、電話番号の発信地を偽造するなんて予想外だったしな。――ノエルは何処だ?」


「罠を出しぬいたというわけか。面白いやつだ。その表情、アマリエが見たら喜ぶだろうな。あの女は狂気にまみれた物が大好きだから」


言葉を無視し話を続けるセレスに、アレンは何も言わずに懐中電灯を切ってしまうと自らの愛銃を取り出し、銃口をセレスの方に向けた。

その目は殺気に満ちており、見る者からすれば背筋が凍るほどだ。

彼は静かに口を開き、目の前にいる敵に向かって言い放った。


「僕の言葉、聞こえなかった?ノエルは何処にいるかって聞いてるんだよ!」


アレンはそう大声で叫ぶと、男に向かって数発打ち込んだ。

セレスは走って避け、その姿を何処か不快そうに彼を睨みつけると懐からいつも使っているナイフを数本取り出す。


「やれやれ……。彼女といい、貴様といい、血の気が多すぎるんだ……よ!」


彼はナイフを数本取り出して投げ出す。

アレンはナイフの攻撃を避け、跳ね返ってくるナイフに対し、腰にかけていた近距離用の剣を素早く取り出し、叩き落す。


「前と同じと思うなよ、セレス!」


右手に剣を持って、飛び回るナイフを交わしながら、左手に持った銃で、動きまわるセレスを狙い撃ちする。

その攻撃が出来るのは、組織の中でも剣と銃にどちらとも高度な技術に精通しているアレンだけにしか出来ない技だ。

彼が撃った弾が掠めたのか、セレスの頬に一筋の血が流れる。


「流石、組織の中でも、二つの名を持っているだけの実力はある……。実に面白い」


「お前の御託はいいんだよ。早くノエルの居場所を吐け!」


銃を撃つ手を止めずにアレンは男を睨み続ける。

男はその姿に満足したように、攻撃を避けながらも、ナイフを操っていく。

やがて、アレンの銃の弾は切れるが、直ぐに手馴れた手つきで追加していく。


(――少し、使いすぎたか)


念には念を入れて、弾は多く追加して持ってはきていたが、男の避けるスピードが早いため弾が追いつかない。残る弾は少なくなっていった。

数発は男の体に当たっており、時折、辛く動いている姿を見受けられる。

だが、残りの弾は全て無駄となり、持っている弾だけがどんどん消費されていく。

対するセレスの攻撃武器であるナイフは、彼が操作をやめるか、ナイフ自体を壊さない限り、半永久的に飛び続けているため、アレンの武器である銃が使えなくなるのも時間の問題であった。


(少し、賭けになるけど……。やってみるか)


アレンは銃をホルダーにしまい込むと、腰にかかっていた黒と銀の入り混じった長剣を取り出した。

そして、ナイフの攻撃を撃ち落としながらも、セレスの元へと走り詰めていく。

突然の攻撃手段の変更にセレスは一瞬戸惑うが、勝ち誇った表情を浮かべた。


(ほう、弾が無くなったか……。ならば、チャンスだ……!)


持っているナイフを彼に投げつける。

だが、アレンはその攻撃を避け、一気にセレスの懐へと詰め寄ると、持っていた剣を彼の方へと振りかざす。


(何……!?)


当然、セレスは攻撃を避けるために体を捻るが、その狙いが逸れたタイミングがアレンの狙っていた瞬間だった。

剣はセレスの体に向けて振りかざされたのではなく、彼が手首に付けていたブレスレットの方へ向けられていた。

フェイントを仕掛けられたセレスは、その部分はまるでノーマークだった為、防ぐことが出来ずにそのまま攻撃を受けてしまう。

切られたブレスレットにはヒビが入ると同時に、彼の足元へと落ち、小さな電気を発しながら壊れていく。そして、飛び回っていたナイフは力を無くした後、重力に従い、下に落ちていった。

一瞬の気を取られたセレスが次に目に入ったのは、アレンが彼に向けて足を蹴り上げる姿だった。


真っ向から攻撃を受けたセレスは体制を戻すことなく飛ばされ、地面に叩きつけられる。

その衝撃で何処か痛めたのか、胸を押さえながら、苦しそうに息をするが、アレンはその姿を黙って見据えながらこちらに近づくと、剣を彼の首元へと差し出す。

アレンの手元から続く、殺気を含んだひやりとした感触にセレスは寒気を覚えた。


「答えてもらおうか。ノエルは何処にいる?」


「さあね。私は、アレン・ハロルドをおびき寄せるように命じられただけだから何処にいるのか知らない」


「嘘を付くなよ!」


アレンは怒鳴ると、持っていた銃を取り出し、一発撃った。

弾はセレスの体に当たる寸前の地面に撃ちつけられており、どうやら威嚇用に放った一発だったようだ。


「――僕は目的を果たすためなら銃を放つことも厭わない。次に喋らなかったら、その頭、吹っ飛ばすけど?」


狂気の表情を浮かべ、銃口を狙うその姿を見たセレスは今までにないぐらいの身の危険を感じた。

やがて、諦めたように、溜息をつくと、彼に向かって話を始めた。


「分かった。彼女の居場所は――」


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