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第二十七話

一方、頼まれていた仕事が早めに終わったアレンは、ウィルの容態を見に行くため、彼の入院先へと向かっていた。

見舞いの品なのか、彼の手には林檎や蜜柑などの果物が入った袋が下げられている。

その袋を持ったままメインストリートを抜けて、横断歩道を渡ると、白く大きな建物が彼の目に映った。

「アレシア総合病院」と書いてある大きく掲げられた看板をちらりと見やると、外来用のドアを開けてエレベーターに乗り込み、彼の部屋がある六階のボタンを押す。

電光板の数は増え、アナウンスと共に目的の階へつくと、エレベーターを降りて彼の部屋へと向かう。

二回ノックをしてからドアを開けると、丁度ウィルは看護師に付き添われて何らかの検査をしていたようだった。


「あっ、すみません。検査中でしたか。」


「いえ、丁度今終わったところなので。では、これにて失礼します。また何かあればナースコールしてくださいね」


申し訳なさそうに謝るアレンの姿を見て、女性看護師はにこやかにそう返すと、検査用の道具を持って一礼し、部屋を後にした。

ウィルはその姿を見届けると、自らのベットの横に置いてある椅子をアレンに勧める。彼は荷物をベットの横に置いてある小さな机の上に置くと、その椅子に座った。


「調子はどうだ?」


「だいぶ良くなってますよ。来週辺りには退院の可能性もあるらしいです」


「そうか。それなら良かった」


アレンは安心したようにウィルに笑いかけると、ウィルも彼につられるように笑みを返した。

だいぶ回復している様子に彼はホッと胸を撫で下ろす。


「それより、捜査状況の方はどうなったんですか?」


未だにメディアのニュースで取り上げられているからなのか、ウィルは心配そうに彼にそう尋ねる。

だが、聞かれた彼は首を横に振り、あれ以降、何も発展したことはない、と一言述べるしか無い。


「そうですか……。そろそろ敵側も進展があってもいい頃なんですけどね」


「悪いな。お前の為にも、早くアイツらを見つけないといけないと思っているんだが……」


彼の思いつめた表情を見て、ウィルはそんなに思いつめないでください、と彼を宥めた。

でも……とアレンは呟くが、その言葉をウィルは遮る。


「敵側が何もしてないということは、まだその準備ができてないって事ですよ。焦らずじっくり行きましょう」


「全く……お前は本当に優しいな」


慰めの言葉を掛けてくれたウィルにアレンはそう言って、机に置いてあった袋に手を掛けると中から蜜柑を取り出した。

食べるか?と聞くアレンにウィルは頷くと一つ渡す。そして、アレンも袋から一つ取ってから剥き始める。

剥いた蜜柑を口に運ぼうとした時、アレンのポケットの中に入っている携帯から着信が入った。

机の上に置いてあったティッシュを一枚取り、食べかけの蜜柑をそこへ置くと、ウィルに一言断り、部屋の外に出て急いで談話室へ向かう。

そして、着信表示を確認すると彼は直ぐに電話に出た。


「もしもし」


「おお、アレンか。今大丈夫か?」


電話の主は上司のアドルフのようだ。その口調はいつもと変わらない。

ただ、彼は今日、本部に向かう以外何も用事は無かったはずだ。何かあったのだろうか、とアレンは考えを巡らせると返事を直ぐに返した。


「ええ。大丈夫ですよ。どうかしたんですか?」


「実は、アレンに身辺警護を頼みたいと思ってな。私の親友のフェリクス・ウィルへイムだ」


突然の知り合いの身辺警護の仕事に彼は一瞬戸惑った表情を浮かべるが、電話口のアドルフは構わず話を続ける。


「最近物騒なのは知っているだろう?フェリクスはミーティアの十二幹部の中でも最高幹部に値する人物なんだ。当然、そのぐらいの地位の人物ならば、防犯を強化していかなければならなくてな。警備隊の連中でもいいのだが、あの二人の襲撃の可能性となると警備に不安が残る。そこで白羽の矢が立ったのが、アレンと言うわけだ。お前なら、あの連中に太刀打ち出来るとミーティア幹部が目をつけたらしい。良かったな」


トントン拍子に話が進んで行くのにアレンは落ち着きを隠せず、ちょっと待ってください、とアドルフに一言言うと、今、怪訝に思っていることを全て話し始めた。


「ちょっと突然過ぎませんか?それに、僕は街の見回りのシフトもありますし……」


「その件に関しては私がシフト変更させてもらった。心配することは何も無い」


余りにもあっけらかんというアドルフにアレンはそれ以上何も言えずにYESの返事を返すしかない。


「はあ……そうですか。警備はいつ頃からです?」


「今日の夕方頃から警護をして欲しいという要望だ。夕方六時にフェリクスがいるミーティア幹部室に行ってくれ」


分かりました、と何処か不服の表情を浮かべながら電話を切り、談話室に設置してある待合用のソファーに腰を掛けると今通話した携帯電話の画面を虚ろに見つめる。

そして、彼は一回ため息をつくと立ち上がるとウィルのいる病室へと戻っていった。


「どうかしたんですか?」


出て行く前とは違う彼の表情を見て何か感づいたのか、ウィルは心配そうに声を掛ける。

アレンは、要点を掻い摘んで、先ほどのアドルフの電話の内容を話し始めた。

彼から全ての話を聴き終えたウィルも怪訝そうに顔をしかませている。


「確かに話の筋は通ってますが……。何故今更?警護するのならば、私たちの襲撃事件があった次の日からしたほうが良かったのに……」


既にあの時の襲撃事件から一週間が経過している。

このタイミングでミーティアの最高幹部の警護をするという指示内容を彼らが不思議に思うのも無理は無いだろう。


「まあ、仕事だと言うのならば行くしか無いな。そろそろ夕方の五時前だし……。このまま外に出て本部に向かうよ」


そう言ってアレンは食べかけの蜜柑を全て食べてから椅子から立ち上がる。

持ってきた果物類を冷蔵庫の中にしまい、じゃあ、また来るからな、と一言、アレンはウィルに微笑み掛けると彼の病室を後にしたのだった。


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