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第二十四話

平和が日々が続いたのもほんの数日――。

書類整理が終わった翌日から、警備隊の仕事は事件等で多忙を極め、自身が受けた忠告もすっかり忘れていた。

そして、ある日の銀行強盗事件での現場検証に立ち会っていた彼女の元に部下からこんな報告を受けた。


「隊長、少しお話があるのですが……」


彼女の部下の一人であるストレートに伸ばした金髪の青年・ベリエスが何やら複雑な表情でノエルの元へと近づいてくる。

その表情から重要な用件を感じ取ったのか、彼女は作業を他の部下に任せ、彼の方へと歩み寄った。


「どうかしたの?」


「いえ……実は、フィオナ市内にあるサンベルノ郊外にて、不審者が見つかったという連絡が入りまして。こちらの独断では決めきれないと判断したので、隊長に指示を仰ぎたいのですが……」


不審者、という単語を聴いた瞬間、彼女の表情は鋭い表情へと変わった。

直ぐに近場にいた数人を引き寄せて指示を飛ばしていく。


「また何かあったら無線で連絡するのよ」


ノエルがそう言うと、部下一同は、了解しました、と軽く頭を下げて、サンベルノ郊外へと向かうために車に乗り込んで発進させた。

彼女はその後ろ姿を見届けた後、先ほど作業していた場所へと戻っていった。


◇◆◇


――あれから既に一時間。

彼女の現場検証の作業が終わり、サンベルノ郊外で作業している部下に連絡を取ろうとするが、無線での応答が無いことにノエルは苛立ちと不安を隠せなかった。

彼女は部下の教育に厳しい事で有名であるが、同時に部下からの信頼も絶大であり、連絡が途絶えるということはありえない筈だった。


「変ね……何かあったのかしら」


「サンベルノ郊外は此処から遠くは無いはずですし、無線圏外の場所でもありませんしね……。少し様子を見に行ってみますか?」


茶色の髪を切り上げ、薄いエメラルド色の瞳を持った青年は横に立っている彼女にそう聞いた。

ノエルも彼の意見に賛成らしく、そうね、と一言呟いた後、無線機をポケットにしまい込み、直ぐにサンベルノ郊外へと向かえる様に車の手配をし始める。

移動する車の中で彼女は窓の外を見上げながら、先日、ベリエスが言った発言が頭の中へと蘇ってくる。


――現在、こちらの身に危険が及んでいるとか


いくらなんでも偶然にしては出来すぎている。

こんなに簡単に結びつけるのもどうかしているだろう。

だが、自身の中で蠢いている第六感が警鐘を鳴らしているのは何故だろうか――。

そんな事を考えているうちにサンベルノ郊外へと車は進めていく。

やがて、狭い裏路地に車を進めていった時、道の脇に何かが倒れているの見つけた彼女は直ぐに車を止めるよう車内で叫んだ。


「止めて!」


彼女のいきなりの指示に驚いたのか、部下はブレーキを踏み急停車する。

慣性の法則から体が前方へと少し倒れるが、彼女は体勢を取り戻し、ドアを開けて下車する。

そして、倒れている物らしき所へ近づき足を止めると、予想外の光景が目に広がった。

止まった彼女の後ろにいる部下達も悲鳴を上げて、驚きの表情をあげている。


「……なんてことだ」


そこには彼女が所属している警備隊の服を着た男が血まみれで倒れていた。

服はずたずたに切り裂かれて、見るも無残な姿へと変貌している。

彼女は念のために、近づいて脈を取るが、既に男は死んでいるようだった。

信頼していた部下の残酷な最後の姿に彼女は怒りを露にする。


「誰がこんな事を……」


ノエルは視線を先に見渡した。

道には血痕が転々と続いており、何かの襲撃があった事は明白であった。

彼女は、何も言わずに急いで血痕がある先へと足を進めていく。

足を進めたその先には薄暗い広場があり、何処となく寂れた風景を醸し出していた。

だが、いつもの広場とは不釣合いの光景が彼女らの目に映った。

先ほど倒れていた警備隊の部下と同じ服を着た男らが、血まみれになって数人倒れており、その先で彼女らと同じ警備隊の服を着た金髪の青年が優雅に仁王立ちをしていた。


「遅かったじゃないですか。隊長という位があるんならもっと早く異変に気づくべきでしたよね」


不敵に――いや、不気味に笑いながらこちらを向いている青年の姿に彼女は驚きを隠せなかった。

彼女の後ろにいた部下達も同様の反応を示し、言葉を失っている。


「ベリエス、あんた――」


「ベリエス?ああ、この人の事か。いやぁ、彼がまさか貴女に忠告してくるとは。

そもそも、あの占い師が貴方の元を尋ねてくるなんて想定外だったし。それと、彼にはこれ以上面倒なこと起こされたら困るから……そこに吊り上げておいたぜ」


男が指すその先には、彼と同じ格好をしている青年が壁に貼り付けられた状態でいた。

恐らく、此処での男と入れ替わりの時にやられたのだろう。

その姿を見るにもう既に息はなさそうだった。


「じゃあ、サンベルノ郊外の通報は嘘だったの……?あんた……何者なの?私の部下をこんな事にしといてただで済むと思ってる?」


ノエルは歯を強くかみ締め、腰に掛けてあった拳銃を取り出し、中央へ立っている彼の方へと銃口を向けた。後ろにいた部下達もそれに倣い、彼に銃を向ける。

だが、中央にいる彼はその姿に全く臆することなく、彼女らを睨み付けていた。


「もうその時には既に入れ替わってたからな。気づかない貴女に対して笑いを堪えるほうが辛かったですよ……。それに、お嬢さん、何か勘違いしてますが、世の中、痛み無くして得るものはない。まあ、これだけ暇な警備隊だと、それに毒されて平和ボケしちゃうんでしょうね。最も、それが一番に顕著に現れてるのは貴女だったりするんだけど――」


「口が過ぎるのよ!黙りなさい!」


ノエルと部下は彼に向かって数発銃弾を打ち込む。

だが、男は何事にも臆することなく銃弾を避けた。

そして、彼の手に一つのナイフが握られる。

彼らが武器を持ち替えるほんの一瞬の隙を突いて、男はナイフを次々取り上げて投げていく。

ナイフは重力に逆らい、真っ直ぐに飛んでいき、部下の体に当たったのか後ろで小さな悲鳴が上がり始める。

彼女は持ち前の体術を利用し、攻撃を避けるが、流石に投げてくる数が多すぎたのかすべては避け切れなかった。

足や腕には擦り傷がいくつかついていく。

それと同時に男の攻撃スタイルを見た彼女は何かに気が付いたようだ。


「貴方……セレス・クレメンテね?」


男――セレス・クレメンテは大当たりと言わんばかりに軽い拍手をし、自身がつけていた変装用のマスクを剥ぎ取った。

灰色の髪を切り上げ、趣味がいいとは言えないピアスを右耳につけた彼は、何処かに楽しそうに彼女を見据える。

その姿をみた彼女は気に入らない、とばかりに歯を食いしばりさらに睨み付けた。


「ご名答。さすが、ソルドに幼馴染がいるから情報が早かったか。まあ……貴女の実力というものやらを見せてもらいましょうかね」


そう言ったと同時に、セレスはこちらに向かって駆け出す。

彼女はそんな彼の姿に動じることなく、腰に掛けてあった長刀を手に取り詰め寄っていった。

だが、所詮女の力。

詰め寄るノエルに彼の攻撃はあっさりとはじき返され、彼女は体制を崩した。

その一瞬の隙に、セレスは彼女に詰め寄り首元に数本のナイフを差し向けた。

ナイフは宙に浮き、全ての急所に差し向けられている為身動きが取れない。

そして、後ろで彼女に応戦していた部下は、既に全て負傷し、倒れこんでしまっている為、助けを求めることも出来ない。

苦虫を噛み潰した表情でノエルは彼を強く睨み付けた。

そんなノエルの姿にも臆することなく、セレスは何処か楽しそうな表情で彼女を見返す。


「貴女には彼の餌となる役目を果たしてもらいましょうかね」


そういったと同時に彼女の首元に男の手刀が入った。

首元に衝撃が走ると同時にノエルは気を失い、倒れこむ。


「やれやれ……お嬢様は中々気の強いお方みたいだ。エスコートする身の方も考えて欲しいね」


冗談交じりでありながらも、何処か嬉しそうにセレスはノエルを片手で抱きかかえてそう呟くと、あの小屋の外でやったように、地面に五芒星を描き、手をつけた途端、大きな光に包まれ、彼らの姿は一瞬にして消えてしまった。

残された部下達はその姿をただ呆然と見つめるしかなかった――。

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