第二十二話
アドルフを背負って寮の二人部屋に帰ったアレンは彼をベットの上に寝かせた後、何気なく自分の携帯を開いた。
一件メールが着ている。
どうやら送り主はノエルらしい。
内容を見てみると、無事に自分が住んでいるフィオナの駅に着いたということだった。
ノエルが無事に着いたことにほっと胸を撫で下ろしつつ、彼女への返信へは明日にしようと携帯を閉じた後、アレンは自分の上のベットへと横になった。
よほど疲れていたのか、彼は寝転んだ瞬間、瞼が重くなり気がついたら寝てしまっていた――。
翌朝。
目が覚めたのは朝の十時を過ぎてからだ。
此処最近は仕事ばかりで、お酒を飲む暇がなく、久々に飲んだせいか少し体が重たい。
意外にもアレンが目を覚まして起き上がった時には既にアドルフは支度を始めていた。
アドルフは気が付いたのか仕事の資料に目を通しながらも彼の方を見やった。
「起きたのか」
「それはこっちの台詞ですよ。公園で酔って寝てしまった人の方が早く起きてるってどういう事ですか」
アレンは少し苦笑いを浮かべた。
その様子をみたアドルフは確かに何でだろうな、と軽く笑い、言葉を続ける。
「昔から父親の仕事の関係上、早起きすることが多くてな。それで身についたのかもしれんな。昨日はその……すまなかった」
「いえ……管理職ゆえの悩みだったんでしょうし。いつもアドルフさんは僕の悩みを聞いてくれてるんだし、お相子ですよ。それより――父親の仕事の関係上?折角の機会だから聞きますけど、アドルフさんの父親ってどんな仕事してるんですか?」
「ん?そういえば、話をしていなかったか。俺の父親はとある組織の管理職でな。主に人事を担当してた。彼の洞察力は並知れぬ物があって、連れて来た人間はとてつもない能力を持った人間ばかりだった。それに他人の事に首突っ込むのが凄く好きで――」
その時、ドアのノック音が部屋に鳴り響いた。
アドルフは手持ちの資料を机の上におき、ドアの小さな窓を少し覗いてから扉を開いた。
扉の前に現れたのは煌びやかな黒髪を靡かせ、アレンと同じ組織服に身を包んだ男性だった。
初老を超えているであろうその男はアドルフの姿を見た瞬間、にこやかな表情を浮かべる。
「おお、部屋に居たか。いつも時間に厳しいアドルフが現れないからどうしたのかと思って探したんだぞ。昼から仕事の打ち合わせがあるから早めに来て欲しいんだが――っ?」
男性はアドルフの横に居たアレンに気がついたのだろう。
それと同時にアレンも嬉しさと驚きが混じった表情を浮かべ笑顔で彼に近寄っていく。
「ミランさん!久しぶりです!国立アルマヴィオラ学校の入学試験以来ですね」
「おお、アレン。そうだな、あの時以来だな……。もうあれから三年経つのか。時が経つのは早いものだ」
「おい……父さん、アレンを知っているのか?」
互いが顔見知りだったことにアドルフは少し驚いている。
だが、当のアレンはそのことよりも今、彼がいった言葉を聞き返さずにはいられなかった。
「アドルフさん今なんて……?父さん?」
「ああ、ミラン・クライドは俺の父親だよ。それより何故、アレンが父さんを知っている?」
訝しげな表情を浮かべたアドルフを見て、ミランは簡単に説明をし始めた。
「アレン君は昔、私が人事部時代に組織にスカウトした一人でね。その時に彼と出会ったのだよ。もっとも、それ以降、役職関係上出会うことはなかったがね」
「なるほど……父さんがあの時話していたのはアレンの事だったのか……」
「そういう事だ。さて、そろそろ世間話もこのぐらいにして出かけようか。
アドルフ、やはり君が居ないと仕事は円滑には進められない」
「分かった。直ぐに準備する」
アドルフはそういって机の上の資料を片付け、鞄の中に収めた。
そして、小型ナイフや警棒などの必要な道具を全て服の中や腰に納めた後、靴を履いてアレンに背を向ける。
「俺は父さんと打ち合わせに行ってくる。アレンは昨日打ち合わせで指示されたとおり、ウィルの容態の確認と街の警備に当たってくれ」
「了解しました」
二人が出て行くのを見送ったアレンは一息ついて椅子に座った。
そして、遅めの朝食を摂った後、組織服に着替えて襟をきちんと正す。
必要な道具類を全て腰に収め、鍵が閉まっていることを確認してから、今日の仕事に当たる為アレンは寮の部屋を後にした。