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第二十一話

アドルフが今後の事について管理室で話をしていた頃――。

アレンはミーティアの書記官に連れられて、聴取室へと足を運んでいた。

中に入るとソルド聴取室と同じような質素なテーブルと椅子が対面に並んでいる光景が目に入り、今から尋問を受けるような感覚へ陥るような気がしてならず、彼は少し表情を強張らせていた。


「じゃあ、そこの席に座ってください」


書記官に促され、アレンは席に座る。

それと同時に書記官は席に座りノートを開いて聴取を始めた。


「ええっと……アレン・ハロルドさんですね。男の攻撃の特徴やその他分かるような事が何かあれば教えていただきたいのですが……」


「男の主な攻撃の特徴は投げナイフでの意思操作ですかね。今知ってること以外で分かることといえば、右耳に十字架のピアスをしていたことと腕に何らかのブレスネットをしていたことですかね」


「十字架のピアスはこちらでも情報がありましたが……ブレスネットですか。それは……うちの中ではまだ聞かない話ですね。他に何かありますか?」


「いえ、それ以外には思い当たらなくて……」


「そうですか。聴取のご協力感謝します。もう戻られても結構ですよ」


案外あっさりと聴取は終了し、アレンはドアを開けて部屋の外に出た。

と、同時にアドルフも話が終わったのか管理室から出てきたようだ。

フェリクスと少し何か会話した後、見る見るうちに不機嫌な表情へと変わっていく。

扉が閉まった後、アドルフは玄関に向かう為、エレベーターの所へと歩き始めていた。


「全く……あいつは昔から変わらんな。俺がお前のために女の子のデータ集めただけなのに……他の幹部らに勘違いされたらどうするつもりなんだよ……」


「どうしたんですか?」


背後にアレンが居ることに気がつかず、アドルフは驚き躓いて転んでしまった。

その様子が妙におかしくてアレンは笑い始めたが、当のアドルフはますます不機嫌になるばかりだ。

アレンとしてはいつも彼らを纏めているアドルフの焦り具合が気になるが、聞いてもなんでもない、と答えるばかりでこちらとしてはあまり面白くない。


「女の子がどうとかって聞こえたんですけど……何やらかしたんですか?僕、嫌ですよ。ソルドの権限でアドルフさんをわいせつ罪なんかで捕まえるなんて」


「わいせつ罪だと!?んなこと一つもしてないって言ってるだろ!」


さらに機嫌が悪くなり、アレンの頬っぺたを抓り出す。

いつもの倍ぐらいの力で抓ったらしく、ギブ!ギブですから、やめてください!とミーティア本部内で声が響き渡ってしまい、何事かと部屋を飛び出してきたフェリクスが二人に向かって説教をし始めたのは言うまでもない。



彼らが説教から開放されたのはそれから一時間後の事であり、時刻は既に夜の九時を回っていた。

思いのほかフェリクスの説教が長くなってしまったからである。

二人はミーティア本部を出た後、借りているミーティアの寮の部屋に帰る為に暗くなった大通りの道を二人で歩いて並ぶ姿は少し童心に返ったように見えた。

依然として辺りは街灯以外の明かりはなく、寂しい光景が連なっている。

最初に口火を切ったのはアレンだった。


「アドルフさんが怒られるなんて本当に珍しいですね」


「全部お前のせいだろう!お前があんなでかい声で叫ぶから……」


「だって、痛いもんは痛いですよ!それにやったのはアドルフさんだし?僕悪くないですし?」


元の原因を作ったのは確かにアドルフの為、彼に対して反論が出来ず黙り込んでしまう。

そんなアドルフの姿を見かねたアレンは、じゃあ、気晴らしの為にどっかで買って飲みましょうよ!といつもの軽口で言った。

どうせ、真面目なアドルフはいつもの通り、馬鹿かお前は!仕事が優先だろう!と突っ込むだろうと予想していたのだが、返ってきた言葉は思いもよらない返事だった。


「ああ、たまには悪くないかも知れんな。そこの自販機で缶ビール買ってこい」


「本当にいいんですか?」


「いいから、ずべこべ言わず買って来い!」


アドルフにそう怒鳴られ、渡されたお金で缶ビール二つを買ってくる。

そして、近くの公園のベンチに座りそれを彼に渡すと彼はすぐさま缶をあけ一気に飲み干す。その表情はどこか憂いに満ちていた。


「やっぱりビールは美味いな。つまみがあればもっと良いんだろうが、この状況じゃあな……何日ぶりに酒を飲んだんだろうな」


「まあ、コンビニも全部閉まっちゃってますからね。今あるとすれば自販機だけだし。明日には警報レベルが下げられるみたいですから、店は開き始めるんでしょうけどね……。そんな事言うなんていつものアドルフさんらしくないですよ?」


組織内で一番仕事に厳しいと言われるアドルフがこんな事をするのは珍しい。

いつもと違う彼をアレンが心配するのは無理は無いだろう。

アドルフは一つため息をついて、缶ビールを軽く回しながら何処か吐き捨てるような口調でアレンに言った。


「まあ、上司やってると色々と悩みはあるもんなんだよ……。それでさ、アレン……」


「何ですか?」


いきなり話を振られるとは思わなかったのかアレンは少し驚いたようにアドルフに視線を向ける。

そして、いつもの彼らしくない調子で言葉を紡ぎ始めた。


「俺ってさ……。本当にちゃんとお前らを纏められてるのかな」


「どうしたんですか?急に……」


彼の意外な本音にアレンは驚きを隠せなかった。

アドルフは自分の仕事に誇りを持っている。だからこそ他人にも自分にも厳しい。

その懸命な姿を毎日見ているアレンにとって羨ましくも尊敬できる上司だと思っていたからだ。

当のアドルフはそんなアレンの反応を気にしつつも、少し自嘲的な口調で言葉を続ける。


「いや、お前らってさどんな仕事でもちゃんとこなして無事に帰ってきてたじゃないか。

けど、今回のお前らは瀕死になりながら帰ってきたからさ……。

あの時の姿が目から離れなくてな……。自分の可愛い部下があんな姿になって必死に生きようとする姿を見ると自分の存在が怪しくなってきてな。もし、俺がもっと情報を集めて置いたら、お前らに此処まで痛い傷も負わずに済んだかもしれないって思うと……管理長失格だなって……」


「そんなこと無いですよ!」


あまりの弱音の吐き具合を見かねたのか、アレンは強い口調でアドルフの言葉を遮った。

彼は驚いて目を見開いている。


「そんなこと言うなんて……アドルフさんらしくないですよ!僕とウィルにとってはアドルフさんは憧れの上司です。今回の事件は恐らく、僕達が相手してなきゃ死人が出てました。

そのぐらい強い相手だったんです。情報が集められなかったんじゃなくて、相手の存在が謎過ぎて情報が出てこなかったんですよ。こればかりは誰にも責める事は出来ない。だからそんな表情で謝らないでください。あなたの情報管理が素晴らしいのは誰よりも知ってるんだから」


「……そうだな。こんな話をして済まなかった。ただ、俺の役割がずっと不安で仕方なかったんだ……。お前らが俺を必要以上に信頼してるのは良く分かってるからこそ、こうやって打ち明けちまったのかもしれないな……」


「ほんと、アドルフさんらしくないですよ。でも、いつでも僕らは貴方を信頼してますから。第一、アドルフさんの情報処理能力はほんと目に見張るものがあって……っ?」


不安を打ち明けられて安心したのか、アドルフは手に缶ビールを持ったまま寝てしまっていた。

敵の今後の動きは一切分からない。

だからこそ、アドルフは不安で仕方ないのだろう。

今は安心できる環境をアドルフに作ってあげる必要がある。

その為には自分達が出来る限りの努力をしてあげよう。

そう思い立ち、アレンは持っていた缶ビールを一気に飲み干し、近場のゴミ箱に捨てた後、アドルフを背負って帰る為に歩き始めた。

辺りの街灯が少ないせいか、帰る時の夜空はヴィオラで見ていた時より少しばかり綺麗に輝いていたように見えた。

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