第二十話
ウィルのお見舞いを済ませた二人は駅前でノエルと別れ、ミーティア本部へと向かった。
現在、アレシア全域に外出禁止令が敷かれて居る為、街中には誰一人歩いていない。
もっとも唯一歩いているのは街中の警備をしている警護の人々だけで、商店街も大型量販店も飲食店も全て臨時休業の看板を出して店を閉めている。
「僕はにぎやかなより静かなほうが好きだけど、此処まで行くと味気ないな」
「仕方ないだろう。反逆者がうろついているかもしれないんだ。今は組織連中にしか攻撃してないみたいだが、いつ市民に刃を向けるか分からない。外出禁止令を出さざる得ないだろう。もっとも、この国の中で一番安全だと言われていた都市がこの前の事件で神話が崩れたからな。ミーティアとしては何とかしたい一方なんだろうが……」
そんな会話をしつつも二人はミーティア本部の玄関へと歩いていく。
現在の本部は以前に比べて厳重な警備が敷かれているのか、身分証明書の他に入室証明書まで書かされるようになっていた。
必要な書類を書き込んだ後、彼らは受付嬢に案内されエレベーターに乗り込み、フェリクスの待つ管理室へと向かっていった。
管理室ではフェリクスの他に二十人程度のミーティアの幹部が集まっていた。
流石、国の中枢を担っている組織だ。このぐらい人数が居ないと各支部を統括するのも大変だろう。
フェリクスは彼らを席に薦めると同時に自らも椅子に腰をかける。
そして、それまで話をしていた幹部達は沈黙し座った彼らに一斉に視線を向けた。
全員揃ったのを確認し、フェリクスは彼らに今回の集まりの目的を話し始めた。
「今回君たちを呼んだのは、証言の聴取と今後の計画の為だ。特にアレン君はセレスに会っている。あの男が一体何をしたのか詳しく事情を聞きたい」
「聴取の為、ですか……」
アレンは予想はしていたのかそれ以上何も言わない。
だが、聴取は苦手なのか少し困ったような顔を浮かべる。
それを見ていた他の幹部は彼を安心させる為にこう言った。
「大丈夫。聴取と言っても尋問するような真似はしない。神に誓って約束しよう。確かに我らミーティアと対立派ソルドは本来ならば相反している組織だ。しかし、今は緊急事態だ。そんな事を言ってる暇は無い。現に、今回の事件で死人が出てしまっているからな」
「分かりました。……それなら聴取を受けても構いません」
「そうと決まったら、アレンは別室に移動してもらう。アドルフには今後の計画について話を進めておきたい」
了解しました、とアレンは返事をし席を立つ。
そして、ミーティアの書記官に連れられて部屋を出た。
部屋を出た彼をアドルフは軽く目で見送った後、フェリクスに話しかけた。
「で、何故俺が呼ばれたんだ?ミーティアとソルドの合同戦略計画の話をするのであれば、俺の親父を連れて来て話をつければ良いだろう。
あの人は人事・戦略・主導を束ねている組織の最高責任者のはずだ。俺と一緒にアレシアに来たから市内に居るだろうし、飽くまでも俺の仕事は親父から来た組織の命令を管理する事だ。勝手に部下の主導を取って突っ込む事は基本的には許されていないし、そもそも管轄外だ」
「まあまあ。そうも言わずに私の話を聞いてくれないか、アドルフ」
フェリクスは彼を宥めるような口調で話しかけ始める。
さっきの話で少しざわめいていた幹部達は皆、黙り彼の話を聞き始めた。
「今回君に来てもらったのは、他でもない。君のその管理能力の力を借りたいからだ。
君の情報管理能力はずば抜けている。訓練学校時代の君はその能力が既に出ていたな。
二年生の時の夏に私の事が好きな女の子の情報がまるっと全部欲しいって言ったら、わずか十分足らずで全て集めてしまったものな……。あれには流石に私も舌を巻くようなものがあって……」
フェリクスがその話をし始めた瞬間、見る見るうちにアドルフの顔は赤くなり、彼を怒鳴りつけた。
「馬鹿!その話はやめろよ!……つまり、俺が今後の計画を上手く情報統制して各組織の部下達に指示していけばいいのだな?」
「そういう事だ。勿論、今後の合同戦略計画はソルドの組織機関長……君のお父様に伝えておく。ミーティアの幹部が此処と各支部を合わせるとかなりの人数になり、情報統制が難しいのだよ。一度誤報が回ってしまうと修正するのに時間が掛かる。情報の素早さと的確さは君に勝るものはないと思っている。
だから、君を推薦したんだ。今日はその事を話す為に此処に来て貰ったのだよ」
「だったら、ウィルのお見舞いに来たあの時に一言言えばいいものを……」
「いや……まあ、言いそびれてしまってね。今日、アレン君が証言の聴取に来るのなら、ついでに君も一緒に来てもらおうかと思って……」
「なんだよ……水臭いな……。分かった、じゃあ、詳細な戦略計画は親父によろしく頼むな。俺は他のソルド支部の様子を見てくるから」
アドルフは他の幹部達にそう伝えて席を外す。
そして、幹部の一人から合同戦略計画の詳細機密文章書類を手渡されフェリクスにお父様によろしく、と一言告げられ管理室を後にした。