第十六話
「悪い……ちょっと感情が高ぶってしまった」
「いえ……、それはお互い様ですから」
お互いに気まずい空気が流れる。
その時、ドアのノック音が聞こえ扉が開いた。
ドアの方に目を向けるとミーティアの幹部であるフェリクスと彼らの上司のアドルフの二人が入ってきた。
アドルフの方は報告を聞いて駆けつけたのだろう。
その表情はとても固い。
「二人とも大丈夫か?」
アドルフは心配したような声音で彼らを見るが、どうみても大丈夫な様子ではない姿を見て苦々しい表情を浮かべる。
その姿を見て、アレンは痛まれないと思ったのか微笑し茶化すような口調で言った。
「大丈夫ですよ、二人とも無事ですから。なあ、ウィル?」
「ええ。見た目は結構痛々しいですけど、大したことはありませんから……」
彼のその姿を見て、意図に気がついたのかウィルも合わせるように頷く。
だが、二人の思いとは裏腹にアドルフは突如、彼らを睨み付け怒鳴り始めた。
「何が大丈夫だ!お前ら無理してるんだろう!?二人とも顔は笑ってるが目が笑ってない。
特にウィル、お前は痛みで顔が引きつってる!
人がどれだけ心配したと思ったら二人揃ってヘラヘラ笑いやがって……!」
アドルフは感情の自制が利かなくなってしまったのか、アレンの右頬に平手で一発打ち付けた。
アレンやウィルは突然の状況に目を開き、隣に居たフェリクスもまさかそんな事するとは思わなかった様子で彼を見ている。
ウィルの方にも一発撃とうとしたのをすかさずフェリクスは我に返り、上がったアドルフの手を掴んで止めた。
「フェリクス、何するんだ!こいつらは俺の気持ちも知らずに……!」
「アドルフ、まずは落ち着くんだ」
静かな声音でアドルフを諭す。
彼はまだ納得してない表情を浮かべながらも手を下ろした。
一呼吸置き、フェリクスは話始める。
「アレン君たちは辛い表情を見せてアドルフを心配させたくなかったんだよ。
だからああやって自分たちは大丈夫だよ、って笑ってたんだよ。
自分のせいで彼らを此処まで傷つけたと責任に駆られてるお前の辛い顔を見たくないなりの彼らの気遣いだ」
冷静になったアドルフは今、自分がしでかした事を思い出すと羞恥で顔が赤くなった。
彼らは辛いながらも自分に此処まで気を使ってくれていたのか。
そう思うと涙が出そうになるが、此処はぐっとこらえて彼らを見つめる。
そして、アレンの頬に手をかざして一言呟いた。
「いきなり頬を叩いて済まなかった。叩いた俺が言うのもなんだが、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、そこまで柔に訓練に臨んでませんから。気にしないで下さい」
アレンはそういってアドルフに笑いかける。
その後、どうしたらいいのか分からずアドルフはバツの悪そうな顔をし、目を泳がせる。
そして半ばやけくそ気味にこう言い放った。
「二人とも何か食べたい物はあるか?さっきの詫びだ。俺が買ってきてやる!何でも言え!」
まさかそんな発言が出るとは思わなかったのか彼らは一瞬驚いた顔を浮かべたが、
直ぐに表情を戻し、それなら……と彼らは口々に自分が今欲しい食べ物の希望を言い始めた。
「本当ですか?じゃあ、僕は特大プリンに、チョコレートケーキ、チーズケーキ、モンブラン、後、最近、巷で流行ってるお隣のデザートの杏仁豆腐って言うのも食べてみたいです!ウィル、お前は何にする?」
「そうですね……。私は今、こんな状態なので……。食べやすい食べ物がいいですね。プリンとかゼリーとか」
現在の時刻は深夜を回っている。
開いている店といえばかなり限られてくるだろう。
確かに何でも買ってくるとは言ったが今の状況を照らし合わせてみて、限度というものは分からないのだろうか……と、アドルフは一回ため息をつきながらも、彼らの注文を一つ残らずメモに取っていく。
「ったく、こいつらだけは……。特にアレン、お前そんなに食べてたら太るぞ。
それじゃ買いに行ってくるからな。フェリクス、今この時間に開いてる店屋は何処にあるんだ?この国最大の都市だったらこのぐらいの注文を揃えれる所あるんだろう?分かったらとっとと教えて案内しやがれ」
「本当に君は素直じゃないんだから……。いいよ、付き合う」
恥ずかしいのか、アドルフの横暴な言い方にフェリクスは苦笑いを浮かべつつも二人は彼らの希望のデザートを買いに行くため部屋を出て行ったのだった――。