第十四話
――?
自分は撃たれたはずだ。何故まだ生きているのだろう。
意識はまだあるし頭を撃たれた痕跡もない。
不思議に思い目を開けてみると彼に銃口を向けていた女が右手を押さえて肩で息をしていた。
撃たれたのはウィルではなく女の方だったのだ。
「うっ……あ……」
咄嗟の出来事に女は理解できずに右手に持っていた銃を手放してしまう。
そして彼女が後ろを振り返るとそこにはウィルと同じ黒いコートに身を包んだ男が冷たい目で敵を見下ろし拳銃を構えていた。
右腕の傷が痛むのか肩で息をしつつも、月明かりに黒髪を靡かせ燃え上がるような真紅の瞳を見据えてコートを翻し、冷たい眼差しでこちらを睨み付ける。
その人物の事をウィルは良く知っていた。
「アレン!」
アレンは辛そうに息をしている彼の方に目配せをすると直ぐに女の方に視線を戻した。
そして、躊躇なく、彼女に向かって数発弾丸を撃ち込むが、対する女は物ともせず大剣を振りかざし弾き返す。
「ちっ……厄介だな」
アレンはそう言うと、銃を後ろに納め、左手で腰につけてある短剣を数本取り出して女に投げつける。
当然のことながら女は大きく横に避けて大剣を使い叩き落とすが、それこそが彼の狙いだった。
女が投げられてきた短剣の方に意識が向いている一瞬の隙に、アレンの腰に収められている銀色と黒色の入り混じったの長剣を取り出し一気に詰め寄る。
彼の攻撃は利き手より精度が落ちるらしく、女の足元を軽く掠めただけで決定的な致命傷には至らない。それでも不意の攻撃は効いたのか、彼女の動きが若干鈍くなったように思える。
「ふっ……、あんたのお仲間も中々やるじゃない。もっとお相手してあげたいけど……。
さすがに今回は二対一じゃ、分が悪すぎたわね。また今度、相手してあげるわ――」
アレンが声を掛け、女の下へ寄ろうとしたとき辺りに白い煙が充満し始めた。
そして、霧が晴れてアレン達の視界が良くなった頃……。
地面に若干の血液痕を残したまま、女の姿は消えていた。
アレンは彼女を追おうとしたが、先ほどの戦いで体力がかなり消耗し上手く体に力が入らない。
それにウィルの事もあり、追撃するのを諦めた。
アレンは持っていた携帯電話で現在位置と逃走者の追撃、けが人がいるので緊急に救急隊を呼ぶよう仲間に伝えると、全身血まみれになっているウィルの元へと駆け寄った。
「大丈夫か!?おい、しっかりしろ!」
彼の体からは大量に血液が流れており、一刻も争う状況までに悪化して息遣いも荒い。
アレンは着ていたコートを脱いで生地の一部を歯で引きちぎり、右手の痛みを堪えながらも血が流れ出ている所を縛り止血していく。
「すみません……。私はアレンの補佐なのに守ることさえ……」
「今回は相手が異常すぎた。ただそれだけの事だ」
「でも……」
「今はそれ以上何も言うな!」
あまりの剣幕に何か呟こうとしたウィルは黙ってしまう。
数分後、路地近くからサイレンの音が鳴り響いてくる。
そして救急隊が到着した後、すぐさま彼らは近くの大型病院へと搬送されていった。