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第十三話

「あら、もうこんなところまで来ちゃったのねー」


満月の夜。

雲ひとつない夜空に、女の金髪がゆらりと風に靡いた。

肌が白くとても綺麗な顔立ちに対して、彼女の表情は狂気に満ちており戦いに慣れない一般人が見たらその雰囲気に圧倒されるだろう。

此処はアレンがいるブロード地区とは真反対に位置するシルビア地区。

周りを照らしているのは月の光だけという暗い路地の真ん中に女が不敵な笑みを浮かべ、退屈そうにウィルを見つめているところだった。

ウィルは薄明かりに照らされた女の顔を見て表情が一変する。


「貴女は、あの時の」


「ああ、何処かで見たと思ったらあの時の少年だったのね。(ばら)しそこねて行方を捜してたんだけど見つからなかった。でも、まさかこんなところで会えるとはね」


何処か憂いに満ちている女の顔を見てウィルは奥歯を噛み締めた。

あの時、彼は女の行方をしらみつぶしに捜してたからだ。


「貴女の顔は一度たりとも忘れたことはありませんよ。――十八年前のあの日からね」


「十八年前のあの日……ねぇ。あの時の貴方はとても歪んだ表情を浮かべていてもっとなぶり殺しに――」


「黙れ!」


いつもの彼らしくない言葉を女に言い放って睨みつけ、ウィルは咄嗟に腰にかけてあった二本の剣を手に取り女に向かって走り始めた。

やれやれといった表情で女も背中に挿してある大剣を取り出し彼と刃を交じり合わせる。


「生憎、私はそんなに暇じゃないのよねー。貴方の相手なんかしてられないわ」


そう言って彼女は横一文字に剣を振り彼の二本の剣を薙ぎ払う。

女の力といえども大剣の影響でかなりの力が加わっているためウィルは体勢を崩すが、直ぐに立ち直し構えた。もう一度、彼は女の方へ真正面へ向かって走り出す。


「真正面から来るなんて……。芸がないわよ」


彼女はそんな軽口を叩きながらウィルの攻撃を避けようとした。

だが、ウィルは後一歩で彼女に近づこうとした瞬間、彼の姿が高速移動したように一瞬消えてしまった。

女が一瞬戸惑い、ウィルの攻撃に気が付いて上を見上げたときには彼の剣が女の腹を掠めていた。

咄嗟に急所を外したらしく、多少痛みに表情を崩しながらも大剣を地面に突き刺し体を起こした。


「風の噂で剣流が得意だとは聞いてたけど……中々やるじゃない。ちょっと私も貴方のことを甘く見てたわ。でも……、これなら私の方が上よ」


「っ!?」


突如、彼女の姿が一瞬消えた。

無論、実際には消えてはいない。彼女の姿を目が追いつかずにそう見えるだけだ。

突如、ただならぬ寒気を感じ彼は後ろに飛んだが、避け切れなかったらしく彼の左頬に一筋の血が流れ落ちる。


「あら、これを避けるなんて……。貴方が初めてだわ。私を本気にさせた以上――責任はちゃんと取りなさいよ?」


殺気と狂気を含んだ冷たい笑いを浮かべ女はウィルに向かって大剣を振り回す。

ウィルは彼女の攻撃を避ける事に必死だった。

確かに彼の剣術は一流の腕前だ。

しかし、目の前にいる彼女の剣術は彼以上の実力を持っている。

特に反撃・攻撃のスピードに関しては女の方が上だろう。


彼が二つの剣で攻撃しようとしても、女はまるで彼の攻撃を読んでるかのように大剣を使い隙ができた部分を狙ってくる。

しかも、急所ばかりは狙わず、まるで蛇をなぶり殺しにするかのようにじわじわと痛めつけていくのだ。

数分の間は彼女の攻撃を流すか避けるかしていた彼も結構な時間が経つにつれて、避ける範囲に限界が出てきたのだろう。

彼が着ていた黒の組織服は段々と切り刻まれていき、所々血がにじみ出ていた。


「そうそう……もっと私を楽しませてね?」


容赦ない彼女の攻撃。

一瞬、ウィルの足元が縺れてしまったのを彼女は逃さなかった。

彼の左手に激痛が走る。


「っ……」


何とか気絶しそうなのを堪え、気力を振り絞りながら残った右手で剣を構えるウィル。

だが、片手だけではさっきよりも防げる場面は少なく自身の気力と体力を持ちこたえるのに精一杯だった。


――彼女と刃を重ねてどのぐらい時間が経ったのだろうか。

既にウィルのコートはボロボロになっており、辺りは彼の血でまみれていた。

これだけの傷を負っていたら何時倒れてもおかしくないだろう。

女も、中々上手くいかないことにじれったさを感じたのか大剣を片手で構えて彼に向かってこう言い放つ。


「もうそろそろ終わりにしましょ?」


その掛け声と同時に女は持っていた大剣をいきなりこちらに振り回した。

体の痛みと戦いの中での焦燥感に駆られながらもウィルは右に飛ぶ。

彼女はその一瞬の時を待っていたのだろう。

辺りに数発の銃声が響き渡った。


「うっ……ぐっ……」


ウィルは痛みに耐え切れずに持っていた剣を地面に落とし、倒れ込んだ。

黒いコートで分かりづらいが銃弾は彼の右腕と肩を貫通してしまっている。


「私が銃を使えないとでも思った?」


女は多少、疲労の色を見せながらも不気味に笑っていた。

そして、限界を迎えた彼の元へと歩み進めて持っていた拳銃を彼のこめかみに押さえつける。


「こんなに私と対等に戦えたのは貴方が初めてよ。……でも、残念だったわね。貴方は所詮その程度。私には勝てないのよ。そうね、此処まで戦えた貴方にご褒美。何か言い残すことはあるかしら?」


「言い残すこと……ですか。貴女なんかに言うぐらいならそのまま死ぬほうがマシですよ。――まあ、もっとも私はむざむざ死ぬつもりはないですしね」


「あら、此処まできても偉く強気ね。……言いたいことはそれだけ?それなら話、聞かないほうが良かったわ。無駄話は此処でおしまい。あの世で父親に会って楽しんできなさいよ」


女はウィルに対してそう吐き捨てて、言葉を切った後、彼に向けて引き金を引こうとした。

その彼女の姿を最期にウィルは目を閉じ、辺りに数発の銃声が響き渡った――。


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