第十一話
「ではこれから詳しい仕事内容について説明するんだが……」
フェリクスがアレン達のためにデスクから数枚、資料を取り出していると突然、閉まっていたドアが荒く開いた。
何事かと思い三人はドアが開いた方へと視線を向ける。
そこにいたのはさっきアレン達が案内をして貰った一人の女性職員で、彼女の表情は焦りと混乱に満ちている。
「どうかしたのか?」
フェリクスは彼女の表情を見てただ事ではないと悟ったんだろう。
女性は軽く息を整えるとフェリクスの方を見て手短に話し始めた。
「午後十時頃、第四地区と第七地区で謎の人物達による襲撃があったと警備隊からの連絡が……。とりあえず、警備隊の一部と本部にいる実力者を現場に派遣しました。ですが、余談は許さない状況で……」
「ふむ、そうか……。すまないがアレン君、ウィル君。詳しい仕事内容はまだ話してないが、現場に行って来て欲しい。君達は腕が立つとアドルフから聞いている。アレン君は第四地区、ウィル君は第七地区に行ってくれないか?」
「分かりました。ウィル行くぞ」
アレン達は立ち上がりコートを翻し、フェリクスからそれぞれ渡された地図を持って部屋を出て行ったのだった――。
◇◆◇
「今回は別行動だが……、どんな奴がいるか分からない。気をつけろよ」
「そうですね……お互いに無事に帰ってこれるように健闘を祈ります」
くれぐれも無茶はしないで下さいよ、とウィルは言葉を付け足してアレンとは反対方向の道へと進み始めた。
アレンもまた第四地区に向かうため、地図を見比べながら早足で進めていく。
第四地区は第一区間に当たるブロード地区とは違い、明かりも少なく辺りは寂れた倉庫や道が入り組んでいるだけであり真っ暗な暗闇の中では不気味さが増してくるように感じる。
「恐らくこの辺のはず……」
入り組んだ路地に足を進めているとふと地面の感触が気になった。
さっきまでは無かった感触だったからである。
雨が降っている訳でもないのに地面は濡れており、触ってみると少し粘り気がある。
アレンのように数々の実戦経験者であればその液体が何を示しているのか直ぐに見当がついた。
「もしかして……。これは血痕……!」
何らかの動物の血痕である可能性も否めない。
しかし、今は場合が場合である。
何者かがこの場所で誰かを傷付けられた可能性の方が大きいだろう。
すぐさまアレンは駆け出し、地面に落ちている血痕の跡を追っていく。
暫くしてついた場所は少し広い路地裏だった。
この場所についていた電灯は切れてしまったのか明かりはなく闇に包まれている。
アレンは腰に収めている携帯用の電灯を取り出し明かりを付けた。
「なっ……!」
光に照らされた路地裏に広がる光景はあまりにも異様だった。
ミーティアの人々が着ていた白いローブは、真っ赤に染まり数十人全てが地面に倒れていたからだ。
そしてその奥で右耳に十字架のビアスをした灰色の髪をした男が優雅にこちらを見ていたのである。