第十話
建物内に入り受付へ行くと、白いローブを着た二人が彼らを出迎えた。
今回の事情を軽く説明をした後、アレン達は近くにあったエレベーターに乗り込む。
電光板の階数は徐々に増えて行き、やがて最上階の三十階を示したと同時にエレベーターのドアが開いた。
彼らはエレベーターを降りて少し歩くと、細かいデザインが施された茶色いドアが二人の目の前に現れた。
一人の白いローブを着た女性は威圧感のある扉を軽く数回ノックし、失礼します、と声を掛けると同時にドアノブを回し扉を開ける。
「所長、ソルドの方をお連れしてきました」
所長と呼ばれた男はデスクで作業をしていた手を止め、こちらを振り二人に対して笑顔で出迎えた。
この国では珍しい薄い桔梗色の髪・黒い瞳が特徴的で何処か温和な雰囲気を持っているようだ。
彼は二人を席に勧めた後、自らも向かい側に腰を下ろした。
では失礼します、と彼らを此処まで連れてきた二人のミーティアの職員は軽く頭を下げ、静かにドアを閉める。
ドアが完全に閉まったのを見届けると、男は軽く咳払いをし、柔らかい口調で言葉を紡ぎ始めた。
「無理を言って済まなかったね。私はフェリクス・ウィルへイム。ミーティア幹部の一人だ」
何故、ミーティアの幹部に呼ばれたのかアレン達は内心、驚いたが表情には出さない。
アレン達もフェリクスに簡単な自己紹介を済ませた後、今回の本題である呼ばれた理由について聞くとフェリクスは温和な表情から一変、何処か厳しい表情で二人に話し始めた。
「実は、今、アレシアではミーティアの職員が襲撃される事件が多発しているのだ。
まだ幸いにも死者は出ていないが、今後どうなるか分からない。それに実力者が多数負傷していることもあってこちらとしても人手が足りず困っているのだ。その時に丁度、ソルドに勤めてる親友のアドルフが連絡をくれてな。有力な実力者は居ないかと聞いたら、アレン君とウィル君の名前が上がってきたという訳だ。本来なら他の組織に手を貸してもらうのはご法度に近いことなんだが……。いかんせん、このままいくとこの国の政治や治安にも影響が出始めかねない。それで今回の場合は上からの許可が下りたわけなんだ」
なるほど、と彼らは頷いた。
今回は有数な実力者がかなりの危険な状態まで襲撃されるということもあってアドルフは浮かない表情をしていたのだろう。
状況を話せばいくら上司の命令とも言えど絶対服従組織ではないため、自分の身を案じて断られる可能性も出てくる。
一呼吸置いた後、フェリクスは二人を見据えて再び言葉を紡ぎ始める。
「今回はこのような仕事な訳なんだが……。引き受けてくれるか?」
「いいですよ。僕達はそのような仕事に慣れてますから。それに折角此処まで来て帰るのも勿体無いですし」
「私も構いませんよ。アレンの意思に従うのみなので」
断られるかどうかかなり心配だったんだろう。
フェリクスは、協力者として既に色んな支部に頼んだけれどいい返事が出なくて、これも断られたらどうしようかと思った、と言って苦笑いし、安堵の表情を浮かべほっと胸を撫で下ろした。