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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

超短編ホラー

超短編ホラー19 「お便り」

作者: 青木森羅


「8月13日、火曜日。今年も盆の入りが訪れました。暑苦しい日々も続いておりますが、深夜のお供『常岡幸太郎ときおかこうたろうのミッドナイト・トーキングショー』 今日も最後までお付き合い下さい」


 カフを下ろすと同時にディレクター兼ミキサーである上原の合図と共に、オープニング曲が流れ始める。

 この曲を聴くようになってから早十五年、月から金の帯枠を地方局とはいえ当時新人だった私に任せてくれたプロデューサーには今も頭が上がらないなとしみじみ思いながら、正面に座る構成作家兼プロデューサーの望月にアイコンタクトをした。

 オープニング曲から三十秒、カフを上げる。


「暑い日、という事ですがリスナーの皆様は熱中症になられてはおりませんか? 私みたいなおじさんはもちろんですが、これから徹夜をしようかなと思っている学生さんも十分注意して下さいね。あと、カフェインが入っている飲み物よりスポーツドリンクの方がいいとつい先日に知りまして、私は最近はもっぱらスポーツドリンクを常用しています」


 望月から今日のメールテーマを言うように促される。


「そんな暑い日々が続きますが、そんな日にはもってこいのメールテーマ『あなたの聞いた、体験したこわーい話』 この時期には毎年恒例のメールテーマです。真夏に背筋がゾクゾクしてしまうようなみなさんのメール、お待ちしてます」


 読み上げ慣れたメールアドレスと諸注意を読み上げ、今日かける一曲目の紹介をしてカフを下げた。カフを下げるのは番組内に声を入れなくする為なのだけど、ラジオでのキャラを休ませる意味でも有益だった。


「どう?」


 私がこう聞く時は先週募集した分のメールの届きを気にしているのだと、望月は阿吽の呼吸で察してくれる。長い年月ときを過ごしていると、こういうのが楽でありがたい。


「例年通りに大盛況だよ。さすが、人気企画」


 そう言うと彼はかかっている曲を鼻歌で歌いながら、投稿されたお便りを確認する。


「ほら、これなんか凄い手の込みようでさ」


 見せてきたのは便せん。


「送り主は常連さんだけど、わざわざいつものメールじゃなくて手紙で送ってきたんだよ。しかも……」


「血文字風にしてるのか。なかなかの大作だな」


 内容は見せないけどな、と彼はその便せんを引っ込めた。


「あとは、番組中に何件来るかだな」


 と、副調整室の方を見ると上原がメールの確認をしていた。


「今日は大丈夫そうだな」


「……あんまり聴衆率ばかりを気にするなよ」


 望月の顔を見た。


「確かに最近調子は悪いが、あんまり気にしすぎてソレが声に乗ったら聞いてる人が不安がるだろ?」


 そろそろだぞ、と返事も聞かずに進行を促す。

 言いたい事はあったが望月のいう事にも一理あり、放送に集中しようと深呼吸をしてカフを上げた。


「さて、本日のメールテーマ『あなたの聞いた、体験したこわーい話』 読んでいきたいと思います」


 それを合図にBGMがそれらしい曲へと変わった。


「ラジオネーム『シャッター』 さんからいただきました」


 声のトーンを抑える。


「去年の今頃、私の友人が体験した事をお話しします。ある日、私の友人のひとりが事故を起こしたと話してきたのです。その事故の前、ある商店街を訪れたというのですが……」



「みなさんも心霊スポットや危険な場所に近づくのは止めましょう」


 望月が前半終了を知らせる。


「では、少しばかり休憩しましょう」


 BGMが変わり、少しゆったりとした音楽が流れ始める。それに合わせ曲と歌手名を紹介し、カフをゆっくりと下ろした。


「病院、タクシー、心霊スポットか」


 ここまで読んで来た話を斜め読みしながらつぶやく。


「王道な場所の話だね、だからこそ体験するのかもしれないけど」


「どういう意味?」


「出るから体験するんじゃなくて、そういう心理状況で飛び込んでいってるんじゃないかって話」


「ああ『そう見たいからソレが見える』 って事か」


「そ」


 と、短く彼は答えると立ち上がった。そろそろ生放送の時にかけたメールの選定が終わった頃合いだろう。

 副調整室の方に目を向けると、上原がメールが印刷されるコピー機の前で一瞬だが震えた気がした。


「どう? 良いのあった?」


 ドアを開け確認する望月に、


「この辺りが良いと思いますよ」


 と、さっきの震えは気にしてないのかいつも通りに受け答えしていた。


「どれどれ……?」


 副調整室の上原を見ると、やけに一点だけをジッと見ている。


「なあ、望月。上原が……」


 視線を望月の方へと向けるとビクン! と、一瞬震えた。


「お、おい! 大丈夫か!?」


「うん? 何が?」


 そう気にもしていないように答えた。


「いや、今なんかおかしくなかったか?」


「なにが? 俺? そうか? 特になにもなかったけど」


「そうか? なら、良いんだけど……」


「さてと……」


 と、彼はメールに目を通す。


「次、これがいいかもな」


 今さっき上原に渡されたメールを彼は差し出してきた。


「そっちの付箋のはいいのか?」


 彼は来ているメールに優先順をつけている、その目安が付箋で赤が一番優先度が高い。そのメールを机に置いたままで見もせずにそちらを差し出すという事は、それだけ面白い内容だったのだろうか?


「いいさ。そんな事より、ほら」


 と、半ば無理矢理のような形で渡してくる。


「ほら来るぞ」


 壁時計を見ると後半が始まる時間が迫っていた、いつもならば気づかない事はないというのに。急いでイヤホンを耳につける。


「五秒前、四、三……」


 望月の指が折られていき、最後の一本が折られる寸前でカフを上げた。


「では『常岡幸太郎ときおかこうたろうのミッドナイト・トーキングショー』 、後半もお付き合い下さい。本日のテーマは引き続き『あなたの聞いた、体験したこわーい話』 です。さて、さっそく読んでいきましょう」


 メールのラジオネーム欄に目をやる。


「ラジオネーム『N』 さんからのお便りです、ありがとございます」


 本名の欄には何も書いておらず、少し戸惑ったが過去に例がなかった訳でもないので気にせずに続ける。


「これは数年前にあった事です。私はあなたと同じラジオのDJをしていました」


 同業者からの投稿? これはさすがに経験がないなと思いながら、次の行を読む。


「私も今のあなたと同じように夏の風物詩である怪談特集をしていました。メール何通か読み終えた時、ある若草色の便箋が目に留まりました」


 便箋か、昔は良くもらったけど最近ではめっきりと見なくなってしまったな。


「中には黒い罫線の引かれた白い便箋が入っていました。そこに書かれた文字は達筆でありながら、読みやすく綺麗で今でも目に焼き付いています」


「名前は一見して分かるようなラジオネームではなく本名のように書かれており、その名を読み上げて内容に入ろうとした所である事に気づきました。その若草色の便箋には差出人の名前と住所が書かれていなかったのです」


「少し不信感を感じましたが、とはいえ名前を読み上げてしまったからには急に止めるわけにもいかず、そのまま読む事にしました。どこから、誰が送ったのか気になったものの、構成作家が目を通して大丈夫だと思ったのだから良いだろう、と」


『これは去年の夏に私が体験した出来事です。あの日は朝から真夏だというのにいやに涼しくて、雲も厚く今にも一雨来そうな空模様をしていました。私は身支度を整えると住んでいるアパートのポストを確認しました。中身は公共料金の明細、中古物件のチラシ、ダイレクトメール。そして手紙』


「人というモノは不思議なもので『手紙』 という単語に私は手元に置いてある便箋へと目を向けましたが、ごくごく普通の便箋でしかありませんでした」


『私はその中身が友人からの物ではないかと気になってその場で開けようとしたのですが糊が固くて素手で開ける事が出来ず、部屋に戻りハサミを入れました。中から出て来たのは一通の手紙。そこには柔らかな文字でこう書いてありました』


『急なお手紙失礼します。突然の出来事に驚かれるかもしれませんが、少しだけお時間をお貸しください』


『私は今、ある病院に入院しております。実は半年ほど前、仕事が終わり自分で運転する車で帰っている最中に交通事故を起こしてしまい、それから昏睡状態が続いていたそうです』


「と、そこまで読み進めると一瞬でしたがイヤホンにノイズがザザッと混じりました」


 視界を手紙から逸らすと、ブース内の蛍光灯が一瞬ちらついた。


「とはいえ、一瞬ならば良くある事と気にも留めずにいました」


『事故の原因はこちらの前方注意。警察の方からはそう聞きました』


「私のマイクから聞こえる音声にノイズが混じったのがイヤホンから聞こえた気がして、音響の方へと目を向けました。しかし、音響はこちらを見てもいなかったので私の気のせいだったのだろうと手紙を読み続けました」


『けど、私にはその記憶はないのです。警察の方にも説明したのですが睡眠不足での居眠り運転や持病、果てはおかしなモノをしているのではないか? と。けど、私はそんな事をしてはいません。車に乗るまではしっかりと意識があったのです。けど、そこから先は……』


『そんな時、ふと思い出したことがありました。その日、職場にある手紙が送られてきたのです』


 イヤホンに奇妙な音が入り、上原の方を見るが変わった様子はない。私の気のせいなのだろうか?


『その手紙には住所も名前もなく、消印さえありませんでした』


『そこまで読み進めて私は便箋の方を見ました。質素な手紙には宛名も住所もなく切手すら貼ってはいませんでした』


「私の背に寒気が走りました。私は慌てて若草色の便箋へと手を伸ばしました。消印がありませんでした。私自身、こういう怪談企画は何度となくやってきていましたが初めての体験でした。良く出来たお便り、そう思いたかったのですが、私の本能は『違う』 告げていました。けど、不思議と先を読まなければいけないという気持ちにかられました」


『職場へと送られた来た手紙には送り主が入院している事、自分はそうなった当時の事を覚えていない事。そして、ある言葉が書かれたいました』


「『ぬろう ぶれすてむ ふるーふ』」


 ガタン! と何かが倒れる音がマイクから響き、副調整室の方へと目を向ける。


『手紙はそれで終わっていました。なんなのか一切分からない手紙でしたが、そのまま机に投げ出すと窓の外から悲鳴が響いてきました』


「手紙を読む私の声が震えている事がイヤホンを通して分かりました。ザリザリと砂粒をこするかのような音がずっとしているのです」


 副調整室の中で上原は激しい痙攣をしながら座っている椅子からずり落ちていきます。


『窓の外を見ると人だかりが出来ていました。その中心にはひしゃげた赤いバイクと郵便配達員の男性』


「そのザリザリという音は私の声ではありませんでした」


 読むのを止めたいのになぜか私の口は止まらず、イヤホンの奇妙な音も消えない。


「誰かが一緒に話しているのです」


『耳元で声が聞こえました』


「『ぬろう ぶれすてむ ふるーふ』」


 私のマイクにもその声はきこえた。


「『手紙の最後にはこう書かれていました』」


 望月が喉を抑えながら、口から泡を吐いて白目を剥き倒れた。


「『こうしないと離れてくれないんです』」


「私はこの手紙を病院から書いております、申し訳ありません」


 私はイヤホンを慌てて外し、扉のノブを捻った。

 が、扉はあかない。


「『開けてくれ!』」


 ガチャガチャと音が反響して聞える。


「『頼む、助けてくれ!』」


 ガンガンと扉を蹴るが傷ひとつつかない。


「『お願いだ』」


 イヤホンを外した耳に自分の声が反響して聞える。


『無駄だよ』


「誰か居るんだよ!」

 生放送が急に途切れのを聞いていたラジオ局の人間が慌ててスタジオに入り彼ら発見した時、音響は耳が聞こえなくなり、構成作家からは声が失われた。

 DJの彼は未だに意識が戻らずに近くの病院で入院中。


 怪談は私を含めた人々を恐怖で楽しませてくれるが、その話の出元は分からない物も多い。

 この話は誰から伝わってきた話なんでしょうね?

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