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実情

 どーよ?

 アタシもけっこう、地上のうわさを聞いてるもんでしょ?

 地獄耳ってやつだね、アハハ。


 ……なーんて、ね。

 ああ、もちろんアタシが地上のうわさに詳しいのには「裏」があるさ。

 その「裏」が、この町に「失せ物」と「現れ物」を生んだのさ。


 ンフフ……うわさ話のタネとしかけ、聞きたい?

 聞きたいよね?

 そのためにここまで来たんだもんねェ、そりゃ聞きたいよね!


 それじゃあアタシが教えてしんぜよう!

 この町に古くから伝わる「失せ物と現れ物」の真実を!

 はい、拍手ー。


 えー、コホン。

 で、アタシが地上のうわさに詳しい理由と「失せ物と現れ物」のタネだけど。

 アタシのウチであるこの扉の迷宮の力なのさ!


 この迷宮、扉がいっぱいあるだろう?

 君はお姉様の加護で迷わなかったろうけど、本当はここ、文字通り迷宮でさ。

 扉を開けるたびに、たどり着く部屋が毎回変わる魔法の迷宮なんだ。


 空間がねじまがっていろいろな場所につながっているんだよねェ。

 それを、主であるアタシが普段はいい感じに制御してるのよ。

 迷宮内の扉は、みんな迷宮内の部屋につながるようにってさ。


 だから、町の人はほとんど詳しく知らないだろうけどさ。

 実のところ、アタシがその気になれば迷宮の扉を町中につなげられるのよ。

 ヒマなときに、こっそり町の中の様子を扉のすきまから見たりとかね。


 まァ……つまり、そういうことさ。

 「失せ物」ってのは、昔からアタシがちょっとおやつとか拝借してたら……。

 うん、なんか、うわさになっちゃってたんだ。


 「現れ物」についても同じさ。

 気になるものを拝借した家に、お返しを置いてったりとかね。

 そういうことしてたら、これまたやっぱりうわさになって。


 いやぁ……ほんっと、ささいなことでも100年200年つづけてると……。

 伝承とか伝説とか、そんなたぐいのものになっちゃうもんだねェ。

 アハハ……。


 いやいや、期待をあおっておいて、子供のいたずらみたいな話でごめんね?

 アタシ、おしゃべり好きなんだけど、どうにも話相手がいなくて、つい、さ。

 せめて、にぎやかなところをのぞき見でもしたくなっちゃってさァ。


 ああ、ドロボウの話?

 アタシが地上の様子を見てたら、いきなりそこへ飛びこんできてさ。

 町の住人でもなかったし、町の外へ放り出したなんてこともあったねェ。


 まァ、ときどきアタシがのぞき見してる扉に入ってきちゃう人はいたよ。

 そういうときは、ありゃー失せ物にしちゃったよーなんて笑ってごまかして。

 入ってきたときとおんなじ扉に、送り出してやるようにしてたよ。


 ただ、アタシってマンドレイクでしょ?

 アタシの声を聞くと、魔法に耐性のない人は目をまわしちゃってさ。

 送り返してやったさきで、「ウチの人が狂った!」とか騒ぎにも……うん。


 それが「失せ物と現れ物」の真相だね。

 うっかりアタシのウチに飛び込んだ人は、「失せ物に会って消えた」。

 うっかりアタシと会って目をまわした人は、「現れ物に会って狂った」。


 アタシもそこまで物騒なことはしてないんだけどねェ……うん?

 町の一角が無人になった話?

 ああ……アレだけはほかと毛色がちがうね。


 アレは、タチの悪い魔法使いと、当時の守衛が原因でできたうわささ。

 むかし、あのあたりに毒の研究をしていた魔法使いが住んでてねェ。

 ソイツがさァ、実験のために、周辺の住人を全員毒殺しちゃってさ。


 まあ、ひどい話だろ、100人くらい死んだんだよ?

 アタシの知るかぎり、この町でおきた史上最大規模の事件さ。

 その魔法使いは現場にかけつけた守衛が殺して、それで被害は止まったけど。


 なにせ前例もない大事件だ。

 「町の隣人が人を殺した」って事実が広まれば、どれだけ町が混乱するか……。

 町の住民のパニックをおそれたその守衛はね、アタシのところに来たのさ。


 アタシの力で、事件の痕跡をのこらず「失せ物」にしてくれないかって。

 ああ、そうさ……その守衛ってのは、当時、アタシのおしゃべり友達でさ。

 そいつがちびっ子のころに、おやつを拝借して以来の仲だった。


 人は「人が人を殺した事件」なら疑心暗鬼になる。

 でも、「人外が人を消した事件」なら……逆に人同士の結束は強くなる。

 アイツの言うこともわかったからさ、アタシも協力したのさ。


 死体も、毒物も、痕跡をぜんぶ迷宮の中に引きずりこんで。

 きれいさっぱり、事件のにおいもしない建物だけのこして。

 あとは第一発見者である守衛が、「失せ物」だって騒いで……そんな感じ。


 おっ、なんだいなんだい、泣いてるのかい?

 人の営みを守るために影でがんばるマンドレイクさんステキってかい?

 君も感受性豊かだねェ、アッハハハ!


 ハハハ……いや、ちょっと君、泣きすぎじゃないか?

 どうしたの……って、涙が止まらない?

 え、身体がふるえて世界がぐるぐるしてるって?


 ――って、ちょっと!?

 それ、アタシの声にやられてるじゃん!

 あ、大きな声だしたらまずいか。


 ええー、お姉様のところに単身乗りこんだ異聞蒐集家って聞いてたしさァ。

 マンドレイクの声ぐらい、平気だと思うじゃん?

 君、よくそんな魔法耐性のなさでお姉様のところへいけたね……。


 とにかく、こりゃアタシとおしゃべりをつづけるのは無理だよね。

 君の体調がこれ以上悪化する前に、地上へ帰ろうか。

 もう一回、抱きあげるからねー、いくよー。


 はいはい、地上にはアタシが送るから、ちょっと我慢しててねー。

 ゆっくり休めば、じきにめまいもおさまるから。

 なんか、君にとってはふんだりけったりだったかねェ、悪かったね。


 うん?

 人の形の彫り物についてだけは聞いておきたい、だって?

 君、その状態でよくそんなこと言えるねェ、根性だけは一人前だ。


 彫り物って……ああ、町の人形塚の。

 あー、でも、悪いけどアタシ、それについてはなんも知らないよ?

 なんか面白そうなうわさがあるなーってくらいに思ってただけでさ。


 現れ物が彫ったっていうならアタシが彫ったものじゃないのか、だって?

 いや、知らないよ、アタシ、彫り物なんかしないし。

 だいたい、なんでそんな人形なんかつくって配るのさ?


 ほら、体調悪いんだから、もうおとなしくしてな。

 次は、アタシの声を聞いても平気なくらい鍛えてからおいで。

 そうしたら、大歓迎だからさ。


 ハイ、扉の外は地上でございっと。

 それじゃーねー!

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