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本当は怖い異種・異国・異聞民話集 ~長命人外の美女に聞くその実情~  作者: 幽人
人に恋した呪いの草と、草に恋したサラマンダー
6/9

実情

 どう?

 この町の迷宮にまつわる話だし、よそじゃ聞かないでしょ?

 この町で仕事する人は、みんな知ってると思うけど。


 町の中でも、場所によって内容がちょっと違ったりするけど。

 扉の迷宮がある商業区画だと、マンドレイクに味方する内容だったり。

 火の迷宮がある工業区画だと、私がもちあげられてたり。


 でも、私とあの子の仲が悪いってところは、おなじなの。

 人に恋した呪いの草だとか、草に恋した私だとか、そんなのないの。

 う……あの子って誰のこと……って、扉の迷宮の主に決まってるでしょ!


 はぁ……しゃべりすぎて……疲れた。

 もう面倒……。

 あ……でも、あなたとのお話はちゃんと、やるから……安心して。


 えっと……この話で気になったところはある?

 内容にズレがあるって?

 成立年代が気になるって?


 異聞蒐集家って、そういうところ、気づくのね。

 うん……いまのこの町に伝わってる、このお話は、ツギハギされたもの。

 あなたが気づいたとおり。


 最初の部分は、この町がどうしてできたのかって、町の由来のお話。

 まんなかは、迷宮の約束事のお話。

 最後の部分は、つい最近になってできた、あとづけのお話。


 町の由来のところは……私もよく知らない。

 1000年以上前のことらしいし、私もまだ産まれてなかったから。

 私が火の迷宮の主になったときには、もうあった話だから。


 迷宮の約束事は、私が迷宮の主になってからできた話だから、おぼえてる。

 800年くらい前から、町の人がうわさするようになってた。

 私は迷宮の中で生活してるけど、年は数えてるから、あってるはず。


 最後のおしゃれがどうこうってところは……ここ50年くらいの話。

 この町が不作でみんな死にかけてたときがあって、そのときにできたの。

 質素に生きるためのいいわけをがんばって考えた、人の見栄なんでしょ。


 う……昔話って、そういうものが多いの?

 時代とともにどんどん継ぎ足されたり、言いかえられたりするって?

 ふぅん……どこも、そんなものなんだ。


 え……迷宮の約束事の真相?

 これをしちゃいけないとか、立ち寄るなとか、そんな伝承は意味があるって?

 あ……うん、まあ、約束事ができた意味はあると……思う。


 そう……だね。

 あなたが私のところに来たのも、私にそういうことを聞くため……だもんね。

 その部分なら、うん、私にもわかるし、教えるね。


 扉の迷宮は、小さな部屋がたくさんあって、扉で区切られている迷宮なの。

 それで、ここは火山のふもとだから、燃えるガスがよく噴き出す土地で。

 扉の迷宮にはガスだまりがよくあるから、火を持ちこめば……ドカン、なの。


 巨大マンドレイクはぜんぜん関係ないのかって?

 そりゃ、そうよ。

 あの子、人が大好きだもの……めったなことじゃ、危害なんて加えないでしょ。


 爆死した冒険者の破片をひろって、地上へ届けてやったりとか。

 そんなことしてるお人好しだから。

 人なんてどうでもいいし、放っておけば……いいのに。


 あ……それを見た冒険者たちに誤解されて話が広まったって?

 う……ん……そうか……そうかもね。

 こんどあの子にあったら、教えとこ……。


 え?

 私と扉の迷宮の主は仲良しなのかって?

 ち、ち、違うから!


 親しげにあの子って呼んでる……って、違うから!

 あの子のことを気にしてそうな言葉ばかり……って、違うから!

 私とあの子は、昔話のとおり、仲が悪いの!


 う……そりゃ……ずっと昔は仲も良かったけど……。

 あの子……よく私の迷宮に遊びに来てたし……。

 私があの子の迷宮に遊びにいったときは、ガスが燃えて大変だったけど……。


 あの子、おしゃべり好きで、いつも笑ってて、楽しそうで……。

 抱きつきグセがあって、しょっちゅう私のことぐるぐる巻きにして……。

 自分の手が燃えても、すぐ治るからって、平気な顔で抱きついてきて……。


 あの子……私のこと、すごいきれいだって言ってくれたのに……。

 あの子……私のこと、抱き心地がいいって言ってくれたのに……。

 私……あの子のために、がんばって自分の火の温度調節だっておぼえたのに!


 あの子は、いつも地上の人のことばかり楽しそうにしゃべって!

 しまいには、自分の迷宮をほっぽりだして地上へ遊びにいって!

 自分だって魔物なのに、冒険者たちと一緒に魔物退治の旅なんかしたりして!


 う……うう……ゆるせない!

 私より……地上の人のほうがいいって言うの!?

 私……あの子に抱かれていないと落ち着かない身体になっちゃったのに!


 あの子をそそのかして、地上へ連れていったあの魔女が憎い!

 あの子と一緒に旅してたっていう冒険者たちが憎い!

 私を置いていったあの子が……ゆるせない!


 う……ぐぐ……ぐう……。

 あ……ごめん……なさい……また、私……熱くなっちゃって……。

 あなたは……燃やさないから……安心して。


 そんな、私から距離をとらないで……。

 安心して……逃げないで。

 あなたが聞きたいこと、みんなしゃべるから。


 え……火の迷宮の約束事のほうはどうなのかって?

 マンドレイクを素材にしたものを持ちこんではいけないってやつ?

 それが今日のところは聞いておきたい最後のことだって?


 それは……本当のこと……だけど。

 マンドレイクを持ちこんだ冒険者はみんな私が焼き殺しているけど。

 でも……だって……仕方ないでしょ?


 この町で魔法薬を作るなら、素材のマンドレイクは扉の迷宮で採るものだし。

 あの子が自分の身体を提供するなんてことはないと思うけど……でも……。

 あそこで採ったマンドレイクにはあの子の血が流れているかもしれないから。


 あの子の身体を、どこの誰とも知らない人が食べるだなんて……。

 あの子の身体が、私以外の誰かの血肉になるかもしれないなんて……。

 あの子の匂いが、私以外の誰かから匂うだなんて……耐えられない!


 だから、念のため、マンドレイクを持ちこむ冒険者は殺さないと。

 身体を開いて、胃をひっくり返して、全部きれいに燃やさないと。

 私が安心できないから……仕方ない……でしょ?


 これで、聞きたいことは全部?

 あ……もう、帰っちゃうの?

 もっと、お話していかない?


 私、面倒くさがりだけど、好きな相手にはやさしくするよ?

 あなたのことは、気に入ったから、あなたが望むこと、もっとやるよ?

 邪魔してくる面倒事なんて、みんな私が消し炭にしてあげるよ?


 あ……今日のところは、ね……うん、熱さ対策も、しないとだもんね。

 あなたの顔色、だいぶ悪いし……汗もひどいし……危ないもんね。

 うん……気をつけて帰ってね。


 私の話、楽しかった?

 そっか……よかった……それじゃ、またね。

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