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本当は怖い異種・異国・異聞民話集 ~長命人外の美女に聞くその実情~  作者: 幽人
人に恋した呪いの草と、草に恋したサラマンダー
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口伝 マンドレイクとサラマンダー

 この“天使を歓待した町”にはずっと昔からふたつの迷宮がある。

 それが扉の迷宮と火の迷宮。


 扉の迷宮は水が豊富で、イモがよく育つ畑にもなる。

 中をうろついているスケルトンも、砕いて畑にまけば立派な肥料だ。


 火の迷宮は鉱石が豊富で、鉄やらなにやらいろいろ採れる。

 町の製鉄業をささえる、宝物庫だ。


 どちらもその昔、この地を訪れた天使を人々が歓迎したとき。

 その天使がお礼に造っていったものだという。


 ところでそんな、町の命綱であるふたつの迷宮だが。

 どちらも、入るときには気をつけなきゃならないことがある。


 扉の迷宮をおとずれるなら、冒険者は火を持ちこんではならない。

 火の迷宮をおとずれるなら、冒険者はマンドレイクを持ちこんではならない。


 それが、この町で古くから言われている約束事。

 守らなかった冒険者には、むごたらしい死が待っているという。


 それはなぜか。

 それを語るのが、この言い伝えの要所。

 それぞれの迷宮に住む、迷宮の主――マンドレイクとサラマンダーのお話だ。


 扉の迷宮の主は、何百年も前から一匹の巨大マンドレイクがつとめていた。

 みずからの足で歩き、手をつる草のようにのばして人をからめとる魔物だ。


 火の迷宮の主は、何百年も前から一匹のサラマンダーがつとめていた。

 全身が炎につつまれた、近づくものを誰でもかまわず燃やしてしまう魔物だ。


 この二匹は、昔からとても仲が悪かった。

 近くにある迷宮の主同士という立場上、いつもなわばり争いを繰り返していた。


 二匹が出会えば、いつでも殺しあいがはじまった。

 巨大マンドレイクは相手を絞め殺そうと、サラマンダーは焼き殺そうと。


 何百年ものあいだ、おたがいが相手の迷宮へ攻め込んでは、争い。

 その壮絶な戦いの様子は、冒険者たちの語り草にもなっている。


 二匹の争いには、迷宮をおとずれる冒険者も無関係ではいられなかった。

 争いが続くうちに、それぞれの迷宮の主の行動がどんどん過激になったのだ。


 扉の迷宮へ、うっかり火を持ちこめば。

 サラマンダーが攻めてきたと、巨大マンドレイクに襲われ、ひき肉にされる。


 火の迷宮へ、うっかりマンドレイクを原料にした魔法薬を持ちこめば。

 その匂いを嗅いだサラマンダーに、かならず消し炭にされる。


 そんなことが、何百年もつづいた結果。

 いまでは、この町にすっかり言い伝えができあがってしまっていた。


 扉の迷宮をおとずれるなら、冒険者は火を持ちこんではならない。

 火の迷宮をおとずれるなら、冒険者はマンドレイクを持ちこんではならない。


 それが、この町で古くから言われている約束事。

 守らなかった冒険者には、むごたらしい死が待っているという――と。


 ところでそんな、仲の悪い二匹の魔物だが。

 どうしてそんなに仲が悪くなったのか、それにはきっかけがあったらしい。


 じつは、二匹の魔物は、どちらも人の女性に似た姿をしていた。

 そして、どちらも自分の美しさが自慢だったらしい。


 そんな二匹がある日、顔をあわせたのだ。

 どちらのほうが美しいか、あっというまに言い争いになってしまい。

 それが、何百年もつづくなわばり争いに発展してしまったのだとか。


 そんな言い伝えが残るこの町だ。

 だから、この町の女性はみんな、なるべく質素な身なりを心がけている。


 うっかりと着飾ろうものならば。

 嫉妬のつる草にからめとられるか、嫉妬の炎に焼かれるか。

 それが怖くて、きらびやかな服など着れはしないのだそうだ。

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