話者 恋色サラマンダー
う……誰?
人?
食欲ないんだけど……燃えにくいし、人。
魔女の紹介?
あ……そっか、あなたが。
面倒くさい。
えっと、ようこそ火の迷宮へ。
うん、私が迷宮の主。
よろしく。
なんだっけ……サラマンダーの女、とか。
火をまとう美女、だっけ。
冒険者からは、そう呼ばれてるよ……たしか。
なに?
溶岩のそばだと立ち話がつらい?
ホント、面倒くさい。
涼しい場所……近くにあったっけ。
ついてきて。
* * *
ここなら……いいでしょ。
あなたの用事、はやく終わらせて。
私のお腹が空く前に。
え……なに、これ……この、箱?
手みやげ……私に?
くれるならもらうけど……人が私になにを贈るっていうの?
え……えっ!?
うそ……ええっ!?
これ……精錬した金属粉でしょ!?
すごい……種類もたくさん……うそ……。
魔女の助言で、これを持ってきたの?
あ……えっと……ありがと……う。
やる気、出た。
あなた、異聞蒐集家なんでしょ。
私のところに、この町の昔話を聞きにきたって。
これのお礼に、聞かせてあげる。
なにを話せばいいかな……え、なに?
この粉はなにに使うのって?
そりゃ、燃やすの。
私、サラマンダーだよ?
え……これは食べ物かって?
食べ物というか……食べはするけど……。
私が火を食べるのは知ってるよね?
だからなんでも燃やして、その火を食べるけど。
この粉は燃やすとホントきれいなの!
青とか、緑とか、白とか、めずらしい色の火なの!
だから!
よくわからない?
あ……おしゃれな服とか……お化粧……だっけ?
人だと、そんな感じのもの。
私の身体をおおっている火は、食べた火によって見た目が変わるから……。
あ、わかってくれた?
なら、よかった。
ほら、ちょっと、この赤茶色の粉なら……。
緑色の火をまとう私……きれい?
そう……ありがと。
でも、あなた……私のこと、ちゃんと見て言ってる?
さっきからあっち見たり、こっち見たり……。
私なんて、ホントは見たくもないの?
なに?
魅力的だからこまってる……って、なにそれ?
私が裸だから?
ふん!
私は魔物なんだから、当たり前でしょ!
人をまねて服なんて着なくたって、きれいな火を着てるし!
あなたも私に服を着ろなんて言うの?
そんなバカなこと言うようなら……え、なに……そんなこと言ってない?
あ……そう……私だけ、いきなり興奮して……ごめん……なさい。
あ……そうだった。
魔女の言ってたこと、やっと思い出した。
昔話の前に、あなたを抱けばいいんだっけ?
え……なんでそんな話にって?
あなたは裸を見たり触ったりするのが好きだって、魔女が言ってたし。
えっと、「君の身体から目をそらしていたら照れ隠しだ」とか。
ほら……さっきは怒って、ごめん……お礼するから……。
こんなところで魔女に呪詛を吐いたって、あの魔女にはきかないよ……。
照れないでいいよ……そうだ、何色の火に抱かれたい?
逃げないで――はい、つかまえた。
ギュってすれば、いい?
指もからめるかな……足もからめようか……舌もからめるんだっけ?
どうかな、私の身体……ひんやりして、肌に吸いつくようでしょ?
抱き心地がいいって、よく言われたんだよ。
なに、驚いてるの……やけどしていないって?
わ、私だって、まとってる火の温度調節くらいできるの!
練習したんだから!
バカにしないで!
あ……熱いし苦しい?
ご、ごめんなさい……ちょっと、加減を、失敗……。
や、やさしく抱くから、安心して?
落ち着いて、私のことを、よく見て?
ヘビみたいに艶々として、すごく、弾力のありそうな身体でしょ?
もっと、遠慮しないで、触って?
あは……私も、あたたかくて気持ちいい。
身体が包まれている感じ……肌が触れる感触……いい……。
あなたも……私の感触を、感じてる?
うふ……いい……もっと、もっと、ギュっと、からめて?
すきまなんてどこにもないくらい……ギュって。
* * *
う……やけど、してない?
死にそうな顔色だけど……私……乱暴だった?
そっか、なら、いい。
うん、昔話ね。
でも、話をしたら、あなたは帰っちゃうか……。
あ……ううん、なんでもない。
なにを聞きたいんだっけ。
え……「人に恋した呪いの草と、草に恋したサラマンダー」……はぁっ!?
魔女からそれを聞くといいって言われた!?
なにそれ!?
違うの!
この町にそんな話はないの!
あの魔女……あの魔女め……ああ、ああ、魔女め!
この町で話されるのは「マンドレイクとサラマンダー」って話!
私と、隣の迷宮の主とが、いかに仲が悪いかって話なの!
そ、それを、よくも、よくも……よりによって、あの魔女が!
うう……う……う……ふう……。
ごめんなさい……また、勝手に私だけ怒って……。
え……あなた、なんで、そんな……私から離れているの?
私から……逃げるの?
あ、私の火が熱かった?
ごめんなさい、ホントに……。
もう、大丈夫。
落ち着いて、話をするから。
はい、それじゃ。
この町に昔から伝わる、「マンドレイクとサラマンダー」の話ね。
いつも殺し合っている、魔物たちの話。
この町にふたつある迷宮の、それぞれの主が、なわばり争いしていて……。
町に住む人が、いつもこまるって話なの。