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5 ポールワイスの思考実験


 思春期の少年に対してなかなか残酷な提案である。


 戸部は誰から見ても美人な女生徒だ。

 創作活動に関してクラスメートで知っているのは俺だけのようで、秘密を共有することにより俺たちの仲はぐっと縮まった。

 そんな状態で親不在の家に来てほしいと提案されて,二つ返事でオーケーするのもなかなか勇気がいる。

 

「お前さ、なんかウザいよな」

 こういう奴らがわくからだ。


 翌日から連休という晴れやかな一日の終わりに、クラスで一番体格の良い男子生徒に絡まれた。

 教室にたまったゴミを集積所まで持っていった帰りだ。鼻唄混じりに歩いていたら、A棟とB棟つなぐ渡り廊下から拉致されてしまった。つまり校舎裏である。

「最近小梅と仲いいみてぇだな」

 俺を拉致したのは鬼頭とかいうイケイケ系の男子の筆頭だった。その取り巻きも何名かいる。

「陰キャが調子こいてんじゃねぇぞ」

 鬼頭は切れ長の目を光らせて俺の襟を握った。そのまま壁に押し付けられる。冷たいアスファルトの感触が背中にじんわりと這うように伝わってくる。

「カレシいんの知ってるよな?」

 至近距離から睨み付けられる。

「えっと。ごめん、今知った」

 あの、くそ女。

 トラブルに俺を巻き込むんじゃねぇよ。

 視界の端で、春に散った茶色の桜の花びらが吹きだまっているのが見えた。

「は、嘘つくなや。おめぇさ、誰がカレシか知ってて小梅にちょっかい出してたんだろ?」

「……本当に知らなかった」

「痛い目みねぇとわかんねぇみたいだな」

 だめだこいつの脳ミソ小さすぎて人の話を聞いてくれ、

「うげぇ」

 みぞおちを殴られた。鋭い痛みが下腹部から一気に伝わってきた。

「今の声、マジうける!」

 取り巻きがチンパンジーみたいに手を叩いて大はしゃぎしているが、痛みと吐き気でそれどころではなかった。荒事は苦手だ。

「小梅といつもなんの話してんだ、話し合わねぇだろ。お前みたいなネクラ野郎じゃ」

「……っ」

 精一杯足に力を入れて立ち上がる。

「ひよこ」

「は? 」

 鬼頭は俺の言葉に一同呆気にとられたように目を丸くした。

「ひよこをミキサーで粉々にすりつぶしたとき、擂り潰す前と後で一体なにが失われたか」

「は?」

「そういうこと、話してる」

「い」

 再び腹部に強烈な痛みを感じた。

「意味わかんねぇんだよ!」

 俺もわからない。

 鬼頭に思いっきり膝蹴りを食らったらしい。

 無様にも俺はその場に崩れ落ちた。湿った地面を片頬に感じる。

「気色悪ぃんだよ、てめぇよ!」

 なかなかショッキングな捨て台詞を吐いて、彼らは校舎裏から去っていった。

 消えていく影に俺は「生物学的組織だって」と回答を教えてあげる。




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