発芽
近々投稿とか言ってごめんなさい。めっちゃ時間かかりました。
山沿いに車を走らせる。うっすらと、ライトが山の斜面や交通量の少ない道を照らしている。備え付けのラジオから聞こえてくるのは、一時的に人気を博したアイドルの歌声だ。
「あら? この子たしか......」母さんが言う。
そう、実はこのアイドル俺の中学の、それも同級生なのだ。明るい曲調と前向きな歌詞。いかにも、アイドルって感じの歌を歌っていた。会ったことも無いが、少し身近ということで贔屓目に見ていた。が、少し前にファンの一人に刺されそれ以来活動をしていない。
「そう、スノードロップ 」
スノードロップとはそのアイドルの名前だ。
本名は学校の生徒名簿を見れば分かるだろうが、記憶はされていない様だった。
「中学生で人気アイドルなんてすごいと思ったんだけどなぁ......」
正直、残念だ。
「まぁ、仕方ないわよ まだ、中学生だもの それに、辞めたわけじゃないんでしょ?」
「詳しいことは知らん」
しばらくの間、スノードロップを話の種に車を走らせる。まだ、焼き肉屋まではもう少しありそうだ。
焼き肉を食べに行くという旨のメッセージを受け取る。妻からだ。
ケータイを閉じ、呟く。
「......さて、もう一仕事か」
「なんか、変じゃない?」
「なーに? どぉしたの、葛?」
変というのは、今走っている道のことだ。
この道は、元々車通りは少ない。
けど、それにしても......
「流石に車、少なくないか?」この山の近くに来てから一度も他の車を見ていない。
「そお? 事故でもあったのかしら......」
母さんが、大して考えずそう言う。
そしてその言葉は、ボンネットのあたりが凹んだ車がライトに照らされた瞬間に事実に変わる。
母さんが、ブレーキを踏む。急ブレーキだったので、シートベルトをしていなかった俺は窓に頭をぶつけそうになる。
そんなことをしている間に母さんは車を降りて様子を見に行ってしまった。
俺も車を降りる。
真っ直ぐ立っている母さんと一緒に目に入ってきたものは、道路を濡らす血液と壊れた三台の車だった。当然、こんな量の血液を見るのは初めてで、頭が真っ白になる。
「え、えと こういう時は救急車?」頭が働かない。
「ねぇ、葛」
母さんが振り返って言う。
「ほんとに変だ 血がこんなにべったりなのにケガ人も死人も、誰もいない」
そう言われて見ると、確かに車の中にも外にも人がいない。
「それって、つまり......死体が隠されたってこと?」
人の意思が関係している?殺人?俺は何をするべきだ?
後ろで、大きな音がする。恐怖心が膨れ上がり息苦しくなる。
母さんの視線を追う様にして、ゆっくりと首を動かす。
視界に入ってきた、ソイツを認識した瞬間、俺の疑問は全て呑み込まれ、役に立たなくなる。
俺の疑問を、常識を、無視して現れたソイツは、大きな口だった。
口と言っても、唇などはなく嫌に白い歯がデタラメに並んでいる。人の顔で言えば、目に相当するものがなく、くぼんだ眼窩が見える。ソイツの口だけの体は、肉片に植物が絡み付いた様な姿をしている。と言うか実際にそうだ。
「なんだよ......いったい」
瞬間、バケモノが根を脚の様に使い飛びついてくる。身をかがめようとするが、上手くいかずそのまま押し倒される。
「ちょ、おい たすけっ、助けてくれ!」
恥も外聞もなく叫ぶ。本当は母さんに『逃げて』とでも言うべきだったのかもしれない。
母さんが、走ってくる。
そして、バケモノは無いはずの目で母さんを見つめる。
「あ」
バケモノの右側から、触手の様なものが伸びていくのを俺は見た。触手は枝の様に伸びていって......母さんに突き刺さった。
「あ......ああ......」
母さんに突き刺さった。
恐怖心を包み込む様に怒りが沸き起こる。
よくも、よくも母さんを!
「母さんを、かあさんを......!」
言葉も満足に話せない状態で、いつまでも俺の上に居座るバケモノを思いっきり蹴る。大型犬程の大きさのそいつは、吹っ飛びこそしなかったが、跳ねる様にして俺との距離をとる。
その隙に立ち上がろうとする。しかし相手の立ち直りの方が早い。
体を少し起こした俺の右腕目掛けて飛びつきそして、噛み付く。どれ位の力がかかったのかは分からないが、骨は砕け肉は千切れる。
喉元まで、心臓が上ってきたかの様な感覚に苛まれる。歯を食いしばろうにも、力が入らず歯の隙間から情け無く息が漏れるだけだった。
だんだん、視界が黒く染まって狭まっていく。
俺が意識を手放すには、そう時間はかからなかった。
目を覚ますとそこはいつかの夢で見た花畑だった。
目の前には、赤い目に白い髪をした少年が立っている。
「やぁ ずいぶん酷いやられようだね」
少年が話し掛けてきた。
「あんたは、誰?」
「気になるかい? でも、残念だけど無駄話してる時間はないんだ 今の僕の役目は、ヤドリギと話すことだけだからね」
「ヤドリギ?」
「後々分かるよ」
そのまま少年は話を続ける。
「君は世界を救う力を手に入れた 自分の体の使い方分かるよね?」
体の使い方?何を言っているんだ?
「そんなの分かるに決まってるだろ」
少年は満面の笑みで答える。
「そう、それならよかった」
目を開く。俺の腕を弄んでいるバケモノが目に入る。
ゆっくりと体を起こし、右腕を作る。
え?右腕を......作る?
訳が分からないが、俺は右腕の生やし方を知っている。
右腕を見ると、植物の枝だか、根だか、よく分からないものが生えてくる。やがて、それは一回り大きな、歪な右腕を作り出す。見た目は、筋組織を樹木が覆っているような、ヒトとは掛け離れた見た目をしている。
一歩、歩みを進める。音に反応して、バケモノが振り返りまた飛びついてくる。どうやら攻撃手段がそれしかないようだ。それを、右腕一振りで弾く。簡単に飛んでいき山の斜面にぶつかる。性懲りもせずまた飛びつき、右腕に噛み付く。一向に破断される気配が無い。
それどころか、腕から触手の様なものが伸びバケモノの体の一部を覆う。またバケモノは距離をとるが、触手が絡み付いた部位はそのまま俺の腕に残り取り込まれていった。
部位が欠損しているため、思う様に動けないバケモノに腕を向ける。腕は枝を広げ、バケモノに向かって伸びていく。俺は、そんな、腕を意のままに動かせた。
バケモノは、なす術もなく俺の腕に喰われる。
俺は、バケモノとの戦いに勝利したのだ。
そして、我に返る。
「......なんなんだよ......これ」自分の腕に恐怖と嫌悪を抱く。
すると、その嫌悪がそうさせたのか、形、大きさを変え見た目だけは元通りになる。
どうやら俺は、自分が思っている以上にこの腕を使いこなせている様だ。
「そうだ、母さん、母さんは......」
生きているのか?
しかし、母さんは見つからなかった。
でも、見つからないと言うことは生きてどこかへ逃げたのか?
「ダメだ......もう今日は」何も出来そうにない。
いっきに、疲労の波が押し寄せる。この後どうするべきかとか考えなくちゃならないことを全て後回しにして寝転がりたい気分だった。
そこに、後ろから車のドアが開く音がする。
「これは、どう言うことだ、葛? 母さん、母さんは無事なのか?」
血まみれの俺を見ながら、怯えた声でそう言ったのは、俺の父さんだった。
みんな(他のなろう投稿者)すごい。書く文章も、投稿するペースも、ほんとすごい。
僕も上手く書けるようになりたいです。