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異種族趣味の管理者【アドミニストレータ】  作者: てんとん
2章 開始:βテスト版
9/33

7話 おはようございます。→はじまりの平原です。

※食事中の方は閲覧注意でございます。

 ——ます。


 ……え?なに?


 ——ございます!

 ——おはようございます!


 Welcom to Another World !!


 機械じみたアナウンスが頭の中で鳴り響く。意識が急激に浮上していくのを感じながら、俺は嫌な予感をひしひしと感じていた。



 起きたら一面の緑が眼前に。くるぶしまで、青草が茂っている。降り注ぐ日差しが、起きたばかりの意識を焼いた。

 俺が今いる場所はどうやら”はじまりの平原”というらしい。というのも、視界にミニマップが表示されているのだ。そしてマップ名がミニマップ下部に。

 ミニマップを見ていると、青い光点が二つほど俺が今いる位置に表示された。

 すると、見慣れた顔が二つ現れた。魔法使いと神様が。


「うーん……はっ!? ここどこです!?」

「ありゃま、転移しちゃったみたい」

「おーいお前ら、大丈夫かー?」

「大丈夫じゃないのです、なんか箒酔いみたいに気持ち悪いです」

「ワタシは慣れてるからヘーキだよ」


 地面にうずくまってうぇうぇしてるナタリーと対照的に、ミカはケロッとした顔してる。


「転移酔いだねー。さすさす」


 言いながらミカがナタリーの背中を撫でた。……ナタリーは三半規管が弱いのか?

 乗り物酔いと同列に扱っていいのかわからんが、悪心おしんに利くツボを知っているので試してみよう。


「ナタリー、ちょっと手を出してくれ」

「……うぇ? はいです」

「うーんと、手首から指三本分だから、ここら辺を押さえてるとよくなるらしいぞ」

「そうなのですか……? うぇ……」


 言いながら、内関(ないかん)と呼ばれるツボを押さえる。押さえ始めてから暫く立っただろうか?


 ——ピローン♪


 という電子音が頭の中で響き渡った。同時に視界右下にログが表示される。


 ジョブ:指圧師(カイロプラクター) を獲得しました! 有効化(アクティベート)しますか?


 ログの更新が終わると、今度は視界中央にポップアップウィンドウが出てきた。英語でこれを有効化するかと問うてきている。言語くらい統一してほしいものだ。

 とりあえず有効化のボタンを押してみる。


「あっ……タクムぅ……!!」


 突如としてナタリーが艶かしい声をあげ始めた!よく見ると彼女の頭の上にはHPとMP表示がされている。

 上からHPバー、MPバー、そしてその下部には赤いアイコンで状態異常(バッドステータス)が表示されていた。表示されている状態異常は、"悪心(ナージア)"。


「んっ……あっ……!!」

「うん? タクムくん、何をしたんだい?」


 ミカはどうやら何が起こっているのかわからないようだ。ナタリーが身をくねらせ、その顔は朱に染まっていた。と、状態異常表示が点滅を始めて、消えてしまう。

 同時に青いアイコンで、"活性(リヴァイタライズ)"という支援効果(バフ)が入れ替わりに表示された。


「……あれっ? 治ったみたいです。それになんか青いのが視界左上に表示されたです」


 言われて俺も視界左上を見る。そこには自分自身のHPとMPが表示されていた。ナタリーの画面には活性の支援効果がその下に表示されていることだろう。

 さっきのポップアップウインドウに軽く指圧師というジョブの説明が書いてあったのだが、指圧によって状態異常を打ち消し、支援効果を掛けることができるらしい。どうやらMPの消費なくそういったことができるみたいだが、戦闘中は使えそうにないな。

 即時効果が期待できる回復職(ヒーラー)が欲しいところだ。まだ戦闘が起こると決まったわけではないけどな。


 ……とりあえずまあ、ここまで状況がそろえば決定だ。ここは、『アナザ・ワールド』の中である。


「たぶんそれはジョブ:指圧師の効果だ」

「君は指圧師会社の社員なのかい?」


 ……ミカが的外れなことを言う。こいつは神様のくせに割とポンコツだ。


「いや、そうじゃなくてな、朝『アナザ・ワールド』をやってただろ?」

「うん、ワタシのzipファイルがダウンロードされる前だね?」

「そそ、で、ゲームの一人称モードもやっただろ?」

「ナタリーがイノボーを倒したやつです!」

「そのあと魔法使いに殺されたけどな。まあそれだ。で、その中にジョブってあったろ?」

「あったです。ナタリーがやってた時は狩人(ハンター)防具職人(アーマースミス)を使ってたですね」

「狩人は弓を使うジョブで、防具職人は防具を作るジョブだな。もう大体わかると思うけど、今俺らは『アナザ・ワールド』の一人称モードを実体験してるんだ。……さてここで問題です。こういう時まずしなければならないことは何でしょうか?」


 ナタリーが手を挙げる。


「泊まるところを探すです!」

「惜しい。それは次すべきことだな」


 次にミカが挙手した。


「帰れるかどうか、だね?」

「いえあ。ミカ正解だ。えーっと、ログアウトは……」


 ログアウトしようと思うが、画面下部にあるべきメニュー画面が見当たらない。うーん……。


「タクムくん、タクムくん、たぶんスワイプすると出てくるよ」


 ミカが指を空中で下から上にあげるようなしぐさをする。俺も真似してやってみた。

 すると視界下部からひょこっとメニューバーが。


「これは(ワタシたち)が世界に降りるときについてた機能だよ。『アナザ・ワールド』に統合されちゃってるみたいだね。ほかにも統合された部分があるかもしれないなぁ」

「まあ、それは無事にログアウトできてから考えようぜ。ナタリーもメニュー開いたか?」

「開いたですよ」

「よし、じゃあ非常口みたいなアイコンを押してくれ、それでログアウトできるから」

「わかったです!」

「はーい」

「3……2……1……はい押して!」



 暗転した。


 ——です。


 先ほど聞いた、あの声が俺の脳内に響き渡る。


 ——れ様です!

 ——お疲れ様です!


 はあ、どうも。


 See you again!!


 アナウンスが遠ざかり、意識の底から目覚めの水面へと浮上していく。目覚めると、そこはさっきまでいたネカフェの中であった。


「うん、ログアウトはできるみたいだな」


 体を起こそうとして気づく。……動かない。どうやら上からナタリーとミカが乗っかっているようだ。


「おーい……起きてるか?」


 返事がない、ただの屍の様だ?いや、ナタリーがもぞもぞと動いている。

 お、顔が徐々に上がってきたぞ?5秒程度かけてゆっくりと顔を上げたナタリーと目が合う。

 顔面蒼白でくっそ涙目だった。


「……だぐむ……きぼち悪いです……!!」

「おい待て、早まるな!? ミカぁ!! 邪魔だー!!」


 俺の上に乗っかっていたミカを放り投げ、ナタリーを運ぶ!!背後で「へぶっ!?」とミカが奇声を上げた。

 個室のドアをあけ放ち、廊下を疾走!!目指す先はお手洗いだ。


「これまで楽しかったですよ……タクム。ナタリーは幸せでした」

「気をしっかり持て!! あと少しで助かるから!!」

「もうだめですよ……自分のことは自分が一番よく分かってるです。」

「分かったからもう喋るなあぁあぁ!!」


 到着だ!!


「……うぇ」

「手で口塞げ!!」


 ナタリーの手を取って強引に口に押し当てる。


「ん”ん~~!!」

「あとちょっとだから頑張れ!!」


 コクコクと首を縦に振るナタリー。俺がついていけるのはここまでだ、汝の旅路に幸あれ。ナタリーに敬礼して個室に戻る。


「……おい、タクムくん、そこに正座」

「……はい。すみませんでした」


 乱雑な扱いを受けた神様はお怒りであった。



 事後、二人を夕食に連れて行ってご機嫌を取った。とりあえずファミレス行っておけば大丈夫なので簡単である。と言ったら怒りそうなので言わないが。

 コンビニでアイスを買って、愛しの我が家に戻ってきた。ミカが家の残骸の前に立つ。


「じゃあ、戻すね~『巻き戻し(リワインド)』」


 ミカの両手から、幾何的な文様が広がって、俺の家を球体状に包んだ。時計の秒針が動くような音が規則的に聞こえてくる。中の様子が魔法陣から透けて見え、傍目にも家が直っていくのが分かる。はぁ~、ファンタジックだ。


「……すごいのです。どんな原理ですか……これ」

「それを理解したいのなら、時間と空間の(やつ)に聞くのがいいよ。魔法使いは人間と違って寿命が長いんだから、(ワタシたち)の領域まで来れるかもね」

「……とりあえずミカを見て今は学ぶです。ほかにも興味深いものが見られそうですから。探求はそれからでも遅くないのです」

「ふふ。了解だよ! ワタシの使える魔法ならできる限り教えよう!」


 えっへんとばかりにミカがその胸をたたく。軽ーい会話してるように見えてすごいことしてるんだよな、こいつら。


「ん、終わったね」


 おお……おお!!直っているぞ……!!俺の家が!!


「ありがとう……ミカ!!壊れた原因お前だけどな」

「最後のは余計だよぅ」

「まあいいや、入ってくれ!」

「うん!」「おじゃまするのです!」


 三つの足音が、玄関に響いた。

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