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異種族趣味の管理者【アドミニストレータ】  作者: てんとん
1章 導入:メンテナンス
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幕間 ワタシが地球に降りた日①

少し三章以降のネタバレを含みます。


 神界。海の底の様な暗闇に、恒星をちりばめた空間が、どこまでも広がっている。

 空間内に浮かぶ、場違いなモニターが光を放った。ワタシはそれを見つめながら一人(うそぶ)く。


「あー……魔法使いの落下位置、予定どうりだよ? うん……」


 モニター内には空から凄まじい速度で落ちた魔法使いと、その勢いで家を粉々にされ、死んでしまった人間が映っていた。人間の雄は文字どうりぺっちゃんこ。

 人為的ならぬ神為的な殺人だね、これは。


「うーん、魔法使いじゃなくてワタシが殺したことになるよね、これ」


 "神"が直接手を下し、命を奪うのはどうかと思う。どんなに嫌っていようと、彼らは世界の一柱たるワタシの子供のようなものなのだ。まだ予測できる"災害"ならともかく、理不尽な殺し方をしてしまったと反省する。

 特に世界を滅ぼすような、人間でいう"権力"とやらを持った個体ではなかったようだし。さして殺す意味もなかった。


「……あれ?」


 少し思考にふけっている間、モニターから目を離してしまった。

 ぱっと目を戻すと、潰れたはずの人間が、気を失って傷一つ無い状態で伸びている。


「……そんな馬鹿な。どう見ても即死だったでしょ、あれは。……魂が消えないはずがない」


 モニターに手で触れてスワイプし、呼吸、脈拍、脳波を計る。どれも生殖適齢期の人間の雄の正常値だ。


「……なんだって言うんだい、あの個体は」


 面白いな。ちょっと興味が湧いてきたよ。そう思っていると、ワタシに声をかける存在があった。


「おい、"世界"の、何を遊んでおるのかの?」


 片目に時計の意匠が施されているモノクルをかけた少女が、ワタシの前に浮かぶ。その姿はとても小さく、人間が作る雛人形の様だ。

 "時間"の柱が存在を飛ばし、ワタシに話しかけたようだ。

 時間というのはどこでも同じように流れているわけではない。宇宙という広大な空間において、異なる時間の流れがいくつも存在しているのだ。

 "時間"の柱の仕事はそれを管理すること。大雑把な世界管理が仕事のワタシと違って彼女は忙しいのだ。


「いやあ、ごめんよ"時間"の。ちょっと面白い人間の個体を見つけたんだよね」

「ほう? 見せてみぃ」


 "時間"はそう言い、ひょいとワタシの肩に飛び乗る。そのままぽふんと腰を下ろした。

 ワタシは"時間"に見えやすいよう、中腰になってモニターの前に立つ。モニターを操作して、魔法使いが人間の家にぶつかり、潰れてしまうリプレイを彼女に見せた。


「この人間、さっきぺしゃんこに潰れてたんだけどさ、今見ると生き返ってたんだよね」

「……時間系の魔法かの?」

「いや、地球に魔法の概念はないよ。あるのは科学だね」

「魔法なしで即座な肉体の修復は不可能じゃろう。それに"魂"の柱は姿をくらませて久しい。輪廻は回っておるから、一応仕事はしているようだがの」


 輪廻とは、消えた魂が巡り巡って新しい生命に定着することだったかな?肉体は魂無しでは動かないのは神の間の共通認識だ。

 "魂"の柱の仕事は、死んだ生物の魂を回収し、新しく生まれた生命に付与すること。長らくの間、ワタシは彼女と仕事を共にしてきたが、ある時を境に忽然と消えてしまった。


「消えた魂は例外なく"魂"のやつの元に行く。肉体の即時修復もだけど、ワタシは魂が戻ってることの方が不可解でならないね」

「確かに、面白いのう……」

「ワタシ、暫くこの個体を見てみることにするよ」

「お主は暇でよいの……時間は正確に流れんといかんから、我は絶えず異常ちぇっくの日々じゃ」


 不満をため息に乗せるように、"時間"が息をついた。


「君も『遠視サイト・ディスタンス』の魔法じゃなく科学技術を使えば楽になるのに。遠隔モニター設置してあげようか?」

「どうも科学は好かんのじゃ、魔法のほうが性に合っておるよ。……使い方を覚えるのも手間じゃ」

「何で魔法が使えて科学が使えないのさ~?」

「たわけ! 使えんのではない、使わんのじゃ!」

「おおこわ~、許して許して~」


 "時間"がワタシの肩からひょいと降り、その場に浮かぶ。いつもより高く浮いているから、怒っているのかな?


「……そういえば言いたいことがあったんじゃ、"世界"の」

「うん? 何かな?」

「お主が創った『巻き戻し(リワインド)』という魔法な、あれで歪んだ時間を修正するのがものすごぉ~く手間なんじゃよ」

「いや待ってよ、君もノリノリで開発に協力してくれてたじゃないか。『あはぁ、時間操作短縮の魔法じゃぁ~! 仕事がはかどるぅ~!』って」


「もう一柱開発に協力した奴がおったじゃろう?」

「ああ、"空間"のやつだね。おかげで空間内の無機物やら有機物を戻せて重宝してるよ、トライアルアンドエラーし放題だからね」

「とらい……まあそれはよいわ! お主がその魔法を乱用するせいで、我と"空間"二人がかりで事象の齟齬を修正せんとならんのじゃよ! 時間と空間が同時に戻るから、正常な巻き戻されなかった部分と致命的な食い違いが出るんじゃ!」

「とらいあるあんどえらー、だよ、"時間"の。そんな弊害が出るんだね……」

「今お主のところに来たのも、それを言いたかったからなんじゃ。地球の一部分で時間と空間のズレを感知しての、また『巻き戻し(リワインド)』を使ったのかと」


「トライアルア」「とらいあるあんどえら~!! ……これでよいかの」


 その場で小さな両手を上げて"時間"が言う。


「いいね!! 新しいことは覚えていこうよ"時間"の。さっきの続きだけど、ワタシは『巻き戻し』を使っていないよ?」

「そのようじゃな。魔力の形跡がないからの。……なるべく『巻き戻し』は使わんようにしてくれ」

「はいはい、わかったよ~」

「本当に分かっておるのかの、こやつは……。まあよいわ、我は仕事に戻るぞ」

「うん、わざわざありがとね」


ワタシは"時間"に向けてひらひらと手を振った。



『なんだ急に……? 気持ち悪いな』

『そういうことで、私を助けてほしいので……今気持ち悪いって言ったのです?』


 空間内にふわふわと浮きながら寝っ転がる。モニターの位置を調節して、人間と魔法使いの様子を観察。


「あははは!! 仲良くなっちゃった!!」


 それになんて軽い会話をしているのだろうか、この子たち。種族が違うのにね?

 まずい、面白すぎてお腹がよじれる!!


「ひぃ~……はぁ……ふぅ。……あはははは!!」


 急に魔法使いが箒に乗って逃走を始めた!!置いて行かれた人間はぽかんとした間抜け顔を見せる。


「だめぇ~!! やめて!! 笑い死ぬぅ!! 魔法使いちゃん、君の方が圧倒的に強いんだからそんな涙目で逃げなくてもいいでしょ~!?」


 神界に"世界"の一柱の笑い声が響き渡った。


神界は大きな大きなオフィスといったイメージです。

別にオフィスでやらなくても、仕事さえできればいいんじゃないですかね、"魂"さんみたいに。


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