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異種族趣味の管理者【アドミニストレータ】  作者: てんとん
1章 導入:メンテナンス
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5話 まず服を買います。

「タクムくんの話によると、アップデートで魔法使いが追加されたんだよね?」

「ええ、まあ」

「うーん、とりあえずしてみようか、アップデート。しないと『アナザ・ワールド』を操作できないみたいだし」


 言うが早いか、ミカはアップデートパッチをダウンロードし始めた。


「タクム、タクム」


 ナタリーが横から俺の肩をつついてくる。


「あっぷでーとって何です?」

「うん? ああ、pcのソフトを最新の状態にすることだ」


「そうなのですか。今何を最新の状態にしているのですか?」

「『アナザ・ワールド』を最新の状態にしてるところだ。そうすることで何が起きるかわからないから、どうしようかって話をさっきまでしてたんだ」


「お! 終わったよ~」


 どうやらパッチのダウンロードが完了したようだ。……うん?ミカはデスクトップにパッチファイルを保存したらしい。そこまではいいんだ。

 ダウンロードしたファイルの名前、それが問題だ。


 神様.zip


 ……それが今回のアップデート内容らしい。



「え、ワタシの名前?」


 ミカの目が点になっている。同時に空中で指を振るようなしぐさをする。タッチパネルを触るような指使いだ。


「待って、すっごい嫌な予感がするんだけど。ワタシの視界のメニュー画面が消えてる……あー! 操作が利かないよ……」


 ミカの笑顔が消えた。泣きそうな顔でこちらを見る。いや、そんな迷子の子猫みたいな顔されても困るが。何か知らんが結論が出たようで、消え入りそうな声で言う。


「……ワタシも、帰れなくなっちゃったみたい」


 ……ああ、どうすんだこれ?


「……今の瞬間ナタリーも帰れなくなったみたいです」


 pcのほうを向いていたナタリーもこっちをくるりと振り向いて言った。こっちはジトーっとミカと俺をめつけながら。


「ワタシも家が消えちゃったままですよこの野郎ども……!!」


 誰でもいい……、誰かこの状況を何とかしてくれ!!



 とりあえず何が起きたかをミカと考察してみた。神様.zipをダウンロードしたら、ミカが帰れなくなった。つまるところ、俺のpcがナタリーの操作権に続いて、ミカの操作権を獲得してしまったらしい。ならば俺のpcからミカをログアウト?させることができるんじゃないかと思い、ナタリー.exeと同様の手順でミカ.exeを起動してみた。だが、それらしい機能はアプリケーション内になかった。予想だが、ソースコード内にミカの権限を奪うような何かが書き込まれているのではないかと思う。こうして考えるとウイルスみたいだなと思う。

 いずれソースコードを熟読しなければならないと思うが、そこら辺の関数を適当に変更して、どのような変化が起きるのか試すのは危うすぎる。ただのプログラムではなく生物の構造なのだから。何が引き金となって体調不良などが起きるかわかったもんじゃない。


 結論。どうしようもないので、二人の服と靴を買いに行く。二人にはしばらくこっちで暮らしてもらうほかない。幸いミカの力は残っているので家は建て直せるみたいだ。だが流石に真昼間に建て直すわけにもいかない。衆人監視の元、瓦礫から家が出来上がったら大ニュースである。夜まで待って、家を建て直し、家が消えたことを知っている人間の記憶を消す。これでいこうという話になった。


「はぁ」


「うぅ……」


 落ち込んだコスプレ銀髪中学生と泣きそうな赤髪裸足女を連れて街を練り歩く。そんな俺は好奇の視線の的に耐えきれず視線を下に落とす。


 待て、考えるんだ。これまでこんなにかわいい女の子たちに脇を固められたことがあっただろうか?

いや、ない。俺は落ち込むべきでないんだ。そういうことにしとこう。

 ああ、役得だなぁ!!


「おら、お前ら! 先に飯だ!」


 朝食を食べるために、俺らは昨日よろしくファミレスに入った。


「はふぇ……」


「おいし~!!」


 いや、ちょろすぎだろ。悪い男に騙されないかお父さん心配です。

 ナタリーが食べているのがステーキ、ミカがチキンナゲットとフライドポテトである。俺はサラダバーと和食セットだ。うえっ……よく朝にそんな脂っこいもん食えるな。若いからかな?


 二人は満足そうな顔を浮かべて食事の余韻に浸っていた。ほぅと息を吐いては、目を閉じて味を思い出しているのか、さっきから両者とも瞑想に入っている。

 ここらで俺はミカへの敬語をやめた。なんというか、まあ、ちょっとアホっぽいというか。やめたらやめたで嬉しがっていたのでそのままでいこう。ナタリーは不機嫌そうだったが。



「さあお前ら、服を選んできてくれ。俺は外で待ってるから」


 俺ら三人、いや、一人と一柱と魔法使い一匹はブティックに来た。


「タクムは一緒に入らないのですか?」

「……お前ら下着も選ばないといけないだろ?」


「ワタシはつけてないけどね?」


 白昼で爆弾を投下するのはやめていただきたい。処理に非常に苦心するから。

 いや、ワンピースで下着なしはやばいだろう。さっきホテルでめくれ上がってた裾の下は……。



「……」

「タクム、有罪ギルティです!!」


「いや待て、俺は悪くない!! 無罪だ!」

「目が血走ってるですよ! 変態! ろりこん!」


「ロリコンは違うぞ!?」

「這い蹲つくばってこの世界に詫びるです、生まれてきてごめんなさいと!!」


「辛辣すぎる!!」


「まあまあ、タクムくんも立派な雄だからしょうがないさ。生物としても当然だよ」



 ミカは胸を張りながらうんうんと頷いている。ナタリーは正直無防備でもまだ何とか理性が保てるのだが、スタイルのいいミカがそれをやると正直やばい。



「ミカ、下着は絶対つけるです」

「え? どうしてだい?」

「タクムがお盛んになるからです。襲われるですよ?」


 失敬な、俺にそんな勇気はない。


「ワタシたちは別に生殖の必要がないんだけども、こんなナリなんだよね。なんでだろうね? ……ともかく、そういった行為ができるんだ。それに興味もある」


 ずずいっと俺に顔を近づけてくるミカ。その顔に不敵な笑みを張り付けて。昨日は恐ろしいと思っていたが、今は違う意味で恐ろしい。

 ——喰われる。もちろん性的な意味で!


 ミカはさらに体を寄せてきて、


「いいよ? 君なら、襲ってくれても」


 と、耳打ちしてきた。あ~やばい~。


「ミカ!!」


 高音域の金切り声にナタリーのほうを見ると、彼女は頬いっぱいに空気を貯めていた。リスかよ。


「ああごめんごめん、最初はナタリーちゃんに譲るよ!!」


 ミカはにっこにこしてる。楽しくってしょうがないって顔だ。俺とナタリーを煽ってんなコイツ……。


「なっ! ……それならまあ、いいです」


「いいのかよ!?」「いいの!?」


「ああもう、いつまで喋ってるですか!? 行くですよ!!」


 ナタリーは俺とミカを掴んで店に入っていく。後ろから見た彼女の耳は真っ赤だった。結局俺も入るんかい。



「タクムは服を買わないのです?」

「ミカの話だとナタリーが落ちてくる前の家に戻るらしいから、服も戻るみたいだし、いいや。それに俺はあまり外に出ないから」

「うん? タクムくんは”引きこもり”というやつかい?」

「引きこもりたいのは山々なんだがな、働かないと生きてけないんだよ。俺は会社員だ。会社に行くときはスーツだから私服はあんまりいらない」

「かいしゃいんとはなんです……か……」


 ナタリーの言葉が半ばで途切れる。視線の先には女性服売り場が。


「なんなのですかこれは……!! とっってもかわいいのです!!」


 ぱぁあっと大輪の花が咲いたような笑顔を見せるナタリー。たたたたっと陳列されている商品に近寄って、食い入るように見ている。ミカがそれを見て苦笑。ナタリーにとってはここは異世界だから、服のセンスとかどうなんだろうと思っていたが、そんなに差異がないようでよかった。ミカはワンピース姿だったから心配はしていない。


「寝間着と私服とりあえず三着ずつぐらい買ってくれ。靴も一ついるな。下着は知らん、あんまり高いのはやめてくれよ?」

「りょーかいだよ!」

「分かったのです!」



 彼女らが服を選んでいる間、店員さんに無理を言って、試着した服をそのまま着て帰れないかと聞いていた。ここで、靴下を選んでおくよう言い忘れたので、彼女たちのもとへ戻る。が、姿が見当たらない。試着かな?


『とっても良くお似合いです~!』

「そうなのですか? ちゃんとかわいくなってるです?」

『はい! 読者モデルになれますよ!』

『街を歩くなら絶対こっちの服ですって!』


 店員さんテンション上がりすぎだろ。声が試着室のある通路の奥から聞こえてくる。この店はかなり奥まったところに試着室があり、カーテンでなくドアがついている完全個室のようだ。


「ちょっと見せたい相手がいるのです。このまま出ていいです?」

『ええ、大丈夫ですよ? 何なら呼んできましょうか?』

「よろしくお願いするのです。タクムという男の人です」

『分かりました~』


 試着室から店員さんが出てきた。俺は靴下を引っ提げ、試着室に続く通路の前に立っていたので真っ先に声を掛けられた。


『タクムさんですか?』

「ええ、はい」

『ええっと、お連れ様がお待ちですよ』


 店員さんに連れられて、個室の前に行く。と、ドアが開いた。


 足元から明るい茶色のブーツに膝丈までの藍色のタイトジーンズ、裾は少し上げられていて、その部分だけは生地の裏面の色になっていてやわらかい印象を与えてくる。上着は明るい灰色のチュニック。これは太ももまであるゆるりとしたもので、裾に控えめなフリルが。最後に頭にちょこんと乗った黒のカチューシャ。銀髪とのコントラストが映える。

 全体的にみるとやや暗い感じだが、彼女の白い肌と銀色の髪が調和を取っている。むしろ彼女自身の美しさを強調する感じだ。ただそれは眩い光のような美しさでなく、ふわふわと漂う冬の妖精の様な可憐さを含んでいた。


「どう、です?」


 彼女の頬が水彩絵の具を落としたような、やわらかいぼやけた朱に彩られる。

 右手で切りそろえられたショートカットの髪を照れ隠しに触る姿がいじらしい。


「いや、うん……すっげぇ可愛いと思う」


 言の葉が、彼女の心に染みわたり、その朱色は、肌色全体を染め上げた。


「店員さん、これにするです」


 ナタリーはちょっとはにかみながらそう言った。

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